主な式典におけるおことば(平成30年)

文仁親王妃殿下のおことば

第65回産経児童出版文化賞
平成30年6月12日(火)(明治記念館)

 本日、「第65回産経児童出版文化賞」贈賞式に出席し、皆さまにお会いできましたことを、大変うれしく思います。
 また、このたび受賞された方々に、心からお祝い申し上げます。
 優れた児童書は、子どもたちの心の糧として大切なものです。
 多くの子どもたちが魅力的な本と出会い、様々な言葉、絵や写真にふれて、感じたり、考えたりする力をはぐくむ機会に恵まれることを、願っております。
 今回の「産経児童出版文化賞」では、4217点の対象作品の中から、8冊が選ばれました。
 大賞の『よるのおと』は、ページをめくるたびに豊かな世界が広がり、心がやすらいでいくような絵本です。少年が夜の水辺を歩き、祖父の家へ向かうわずかな時間のできごとが、透明感のある深い色彩の絵で伝わってきます。月と星が空と池の水面に浮かび、虫が鳴き、蛍がひかり、水の音が聞こえます。自分もこの情景に囲まれているようで、明かりや音が、大切な恵みに思えました。
 『さかなのたまご』は、川の流れる音が聞こえる水辺や、静かな川底を映した、写真絵本です。それぞれの魚が大切な卵を産み、誕生するまで守りゆこうとする行動が、わかりやすく紹介されています。説明を読みながら写真を見ていると、自分が実際に水の中をのぞいて、魚や卵の観察をしているように感じられました。
 もう一つ、水辺が舞台になった絵本に、『うみべのまちで』があります。海の底の炭鉱で働く父親を思いながら暮らす少年とその暮らし、家族との心のつながりが、独特の画法で表現されています。父や祖父と同じように、将来、自分も炭鉱で働くという、少年の静かな決意が伝わってきました。
 心のつながりが感じられる作品はいくつもあり、『こんぴら狗』も、その一つです。江戸時代、犬が飼い主の病を治すために、四国の金毘羅さんにお参りをしたお話です。江戸からの遙かな道のりを、苦労しながら旅する犬と、その道中、犬を助ける人たちとの出会いや別れの情景が、生き生きと描かれた物語でした。
 『猫魔ヶ岳の妖怪』では、妖怪、精霊などと人とのふれあい、心のつながりが描かれています。この絵本におさめられている、福島の四つの民話は、厳しい自然とともに生きることの難しさを感じ、大地がもたらす自然の恵みへの感謝をもつ、心やさしい人々によって語り継がれてきたのかもしれません。
 『わたしがいどんだ戦い 1939年』は、困難な状況にある少女が弟と、一緒に暮らすことになった女性や周りの人々、世話をするポニーとの関わりの中で、心のつながりを築いていく物語です。それぞれの事情を抱えて生きる人々との様々な体験を通し、心身の痛みを抱えながらも強く生きようとする少女の力を感じました。
 『世界を救うパンの缶詰』は、被災地の声に応えてパンの缶詰を開発し、海外の困っている人にも届ける仕組みを作っていく実話です。そこには、世界を広く見てきた父親や店をともに支える妻をはじめ、国内外の人々との心のつながりがありました。だからこそ、苦しいときも諦めず、一歩ずつ前に進んでこられたのでしょう。
 『世界恐竜発見地図』では、世界地図の上に、化石で発見された恐竜たちが、イラストでこまかく描きこまれています。また、詳しい解説や索引、興味を引く特集もあります。いろいろな視点を与えてくれるこの作品は、子ども同士で、あるいは一緒に読む大人と、共通の関心から気持ちがつながっていくきっかけになると思いました。
 いずれも、子どもだけでなく、大人が読んでも、引き込まれる作品ではないでしょうか。本年も、このように子どもたちに伝えたい児童書が紹介されますことを、大変よろこばしく思います。
 これまで児童出版の分野の発展に力を尽くされてきた皆さまのご努力に、心から感謝いたします。また、子どもたちに読書の楽しさを伝え、健やかな成長を助けるような優れた作品が、今後も発表されることを願い、式典に寄せる言葉といたします。