主な式典におけるおことば(平成31年)

文仁親王殿下のおことば

第59回交通安全国民運動中央大会
平成31年1月17日(木)(文京シビックホール)

 本日、第59回交通安全国民運動中央大会が開催され、皆様とともに出席できましたことを誠に喜ばしく思います。そして本日、交通安全運動への貢献に対して表彰を受けられる方々に心からお祝いを申し上げます。

 交通事故による昨年の死亡者数は3532人で、1948年の統計開始以来最も少ない人数となりました。このことは、皆様の長年にわたる交通安全運動に対するたゆみない努力の結果と申せましょう。

 しかしながら、交通事故の発生は、未だに年間50万件近くあり、後をたちません。なかでも交通事故死者数全体に占める高齢者の割合は50%強で推移しているばかりでなく、昨今では高齢運転者が当事者となる事故も多く発生しております。  

 私たちが普段利用する道路上には、自動車や自転車、そして高齢者や子どもなど、多くの車や人が往来しており、路上の交通事故は、誰にでも起こり得ることです。

 これらの事故を防ぐためには、私たち一人ひとりが、交通事故を防止しようとする自覚をもって交通道徳を高め、それを実践することが肝要であると考えます。そして、自動車や自転車の運転者、歩行者がそれぞれ、相手の立場に配慮するような、思いやりの気持ちをもった行動をとることが求められております。

 毎年開催される本大会は、その意味からも、関係者が一堂に会して諸問題を話し合う大切な機会であると言えましょう。

 終わりに、本日の受賞者をはじめ、全国の津々浦々で日々交通事故防止のために取り組んでおられる皆様のご尽力に深く敬意を表するとともに、本大会を一つの契機として、交通安全運動が一層推進されていくことを祈念し、大会に寄せる言葉といたします。

新潟開港150周年記念式典
平成31年1月23日(水)(新潟コンベンションセンター)

 本年、「新潟港」は世界に開かれた港としての歩みを始めて150年の節目の年を迎えました。本日、その記念式典「新潟開港150周年」が、国の内外から多くの参加者を得て開催され、皆様とともにお祝いできることを誠に喜ばしく思います。

 新潟は、古くから信濃川や阿賀野川の河口に位置する湊町として栄え、江戸時代には北前船の日本海側最大の寄港地として、水上交通の要衝となりました。時を経て、1858年に結ばれた安政の五カ国条約に基づき、1869年1月に佐渡夷港、現在の両津港を補助港として開港いたしました。爾来、本州日本海側の拠点港として、国内のみならず対岸諸国との交流を通じ、我が国の発展に寄与してまいりました。

 そのいっぽう、先の大戦における機雷投下や1964年に発生した新潟地震によって、新潟港や港町は大きな被害を受けたこともありましたが、このような大きな困難を克服し、開港から100年目を迎えた1969年には、新たに新潟東港が建設され、従来からの西港と併せて、新潟港はますます重要な役割を果たすようになりました。

 このことは、平素の人的・物的交流のみならず、東日本大震災が発生した際、東北太平洋側の港湾が機能を停止する中、新潟港がガソリンや救援物資の輸送拠点としての任務を担い、被災地の復興に大きく貢献したことは、記憶に新しいところです。

 これらの歴史を振り返りますと、現在の新潟港の姿があるのは、皆様をはじめ、地元の人々が一丸となって力を尽くしてこられた賜物であり、今日に至るまでの歩みに対し、深く敬意を表します。

 おわりに、開港150年が一つの契機となり、今後とも新潟港が我が国の経済発展や国際交流における重要な役割を果たしていくことを心より願っております。そして、本日ここに参集され、日ごろより新潟港や両津港、そして港町に関わっておられる多くの皆様の更なるご活躍を祈念し、本式典に寄せる言葉といたします。

「第15回日本学術振興会賞並びに日本学士院学術奨励賞」授賞式
平成31年2月7日(木)(日本学士院)

 本日「第15回日本学術振興会賞並びに日本学士院学術奨励賞授賞式」が開催され、皆様にお会いできましたことを誠にうれしく思います。このたび受賞された皆様に心からお祝いを申し上げます。

 昨年は、京都大学の本庶佑特別教授がノーベル生理学・医学賞を受賞されるという、日本の学術界にとり大変喜ばしいことがありました。その本庶教授は、受賞会見で「自分の目でものを見る。そして納得する。そこまであきらめない。」と語っておられましたが、若き日から独自の発想に基づく研究に粘り強く取り組んでこられた成果が受賞に至ったことと推察いたします。

 学術研究は、研究者の知的好奇心と自由な発想が原点となり、地道に研究を継続させることによって様々な成果につながり、さらにその先の多様な展開へと繋がるものであると考えます。そのいっぽうで、人類社会は多くの困難な問題に直面しており、多様な学術領域を駆使した問題解決への貢献が必要不可欠なものになってきております。

 その意味で、これまで我が国の学術研究を支えてきた日本学術振興会と日本学士院が協力して、人文学、社会科学から自然科学にわたる幅広い分野の若手研究者を顕彰し、その研究意欲をより高め、研究の発展を支援しようとすることには、大きな意義を感じます。

 このたび受賞の栄に浴された皆様は、これまで大変優れた業績をあげておられますが、この受賞を一つの契機として、今後もさらに充実した研究を進められ、世界的に活躍されることを願っております。

 終わりに、関係の皆様のご尽力により、日本の学術研究の進展が一層図られることを心より祈念し、式典によせる言葉といたします。

東日本大震災八周年追悼式
平成31年3月11日(月)(国立劇場)

 今日、3月11日、未曽有の地震とそれに伴う津波が、東北地方を中心に東日本を襲い、2万人を超える死者および行方不明者が生じた東日本大震災から8年になりました。この当時の状況は、8年を経た今でも決して脳裏から離れるものではありません。本日ここに、一同と共に、震災によって亡くなった人々とその遺族に対し、深く哀悼の意を表します。

 被災地においては、この間、人々が幾多の困難を乗り越え、手を携えて、復興に向けての努力を弛みなく続けてきました。こうした努力を支援するため、国や全国の自治体、そして国内外の多くの人々が、様々な形で力を尽くしてきました。

 その結果、住宅の再建や生活環境の整備、産業の再生、沿岸部の鉄道の復旧、防災施設の整備など、復興の歩みは着実に進展してきております。また、原子力発電所の事故により避難を余儀なくされた地域においても、多くの地域で避難指示が解除されるなど、本格的な復興・再生に向けての動きが進んでいます。

 しかし、その一方では、今なお多くの被災者が、被災地で、また避難先で、依然として不自由な暮らしを続けている厳しい現実があります。とりわけ、いまだに放射線量が高いことなどによって自らの家に帰還できない人々が多いことや児童および生徒数の減少、さらに根強い風評被害により農林水産業などへの影響が残っていることに思いを馳せると心が痛みます。さらに、避難生活が長期化する中で、齢を重ねていく高齢者を始め、被災者の心身の健康のことは、深く心に掛かります。

 困難な状況の中にいる人々が、誰一人取り残されることなく、少しでも早く平穏な日常の暮らしを取り戻すことができるよう、また復興の歩みが着実に進展していくよう、これからも私たち皆が心を一つにして被災した地域や人々に末永く寄り添っていくことが大切でありましょう。

 東日本大震災による大きな犠牲の下で、私たちは平素からの避難訓練や防災教育の重要性を強く認識し、そして過去の災害の記録と記憶が忘れ去られることなく、これを継承していくことがいかに大切であるかを学びました。この教訓を決して忘れることなく後世へと伝え、災害の危険から多くの人々が守られることを心より願っております。

 今なお困難を背負いながらも、復興に向けて日々努力を続けている人々に思いを寄せ、一日も早く安らかな日々が戻ることを皆で祈念し、御霊への追悼の言葉といたします。

第28回地球環境大賞
平成31年4月22日(月)(明治記念館)

 本日、第28回「地球環境大賞」の授賞式にあたり、出席された多くの皆様とともに、各賞を受賞される方々をお祝いできますことを誠に喜ばしく思います。

 近年、気候変動や生物多様性の喪失、マイクロプラスチックの問題など、私たちを取り巻く環境に対する関心や意識が高まり、グローバルな広がりを見せております。また、地球温暖化が大きな要因とみられる自然災害が世界の各地で数多く発生しており、わが国においても異常気象による豪雨など、その甚大な被害が人々の生命と生活に大きな影響を及ぼしています。地球環境に関わる問題を考えるとき、自然環境の保全とともに、防災や減災に対する意識を一層高め、私たちがどのようにして自然と共存していくのか、その方途を探求する必要性を強く感じます。

 今年で第28回を迎えた地球環境大賞は、環境を守りながら発展する産業や、持続可能な循環型社会の実現に寄与する製品とそのための技術開発など、環境保全の取り組みを顕彰することで社会に貢献することを目的として創設されました。そしてこの間、産業界に始まり、自治体、学校、市民グループへと表彰の対象を広げながら、環境活動に積極的に取り組む人々を広く顕彰し、人々の環境意識を高めることで、地球環境の保全に貢献してまいりました。
 
 2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標」いわゆるSDGsや、2020年から始まる温暖化対策のための国際的枠組みである「パリ協定」が注目を集めるなか、わが国は、今以上に優れた環境関連技術や知識をもって世界に貢献していくことが求められましょう。そして、持続可能な経済・社会づくりのために、国際社会のモデルとなるような実績を積み重ねていくことも、誠に大切なことと思います。

 終わりに、受賞者をはじめとする皆様が、今後とも地球環境の保全に積極的に取り組んでいかれることを期待するとともに、その活動がより一層広がりを見せることを祈念し、私のあいさつといたします。