皇太子殿下 スイスご訪問時のおことば(仮訳)

平成26年6月19日(木)
ヌーシャテル迎賓館におけるスイスご訪問に関する皇太子殿下のお言葉(ペイルー館)

ブルカルテール大統領閣下
ご列席の皆様

ただ今,ブルカルテール大統領より温かい歓迎の言葉を頂いたことに心より感謝いたします。スイスについては,これまで長い間親しみを感じてきましたので,今回スイスを公式訪問でき,大変喜んでおります。子供の頃,スイスのイメージは,雪をかぶった山々,チョコレートや時計を通して膨らみました。小学生の頃には,エルネスト・アンセルメの指揮,スイス・ロマンド管弦楽団の演奏によるベートーヴェンの交響曲第6番「田園」のレコードを聴いたり,また,私の大叔父(おおおじ)の故秩父宮雍仁(やすひと)親王がマッターホルンなどの名峰に登(はん)していたことを知り,スイスは更に近い存在となりました。このような中で,本日,日本・スイス国交樹立150周年を皆様とともにお祝いできることを大変うれしく思います。

両国関係の歴史は,ヌーシャテル出身のエメ・アンベール氏を抜きに語ることはできません。アンベール氏を団長とする使節団が来航した1863年の日本は,まさに世界へ国を開きつつありました。アンベール氏は両国の修好通商条約の交渉に臨む傍ら,日本各地を訪問し,帰国後,「幕末日本絵図」を編(さん)し,当時あまり知られていなかった日本の姿を欧州の人々に伝えました。これは,後の日本と欧州との関係を考えるとき,欧州の日本への理解を促進するための大いなる貢献と言えましょう。本日午後,民族誌学博物館でアンベール氏の深い観察眼を通して,150年前の日本を再発見できることを楽しみにしています。

1864年に修好通商条約が締結されると,徳川使節団や岩倉使節団がスイスを訪問するなど両国の交流が深まりました。その積み重ねの上に,今日では,幅広い分野に交流が及び,その裾野は広がっています。両国の高度な職人技に裏打ちされたハイテクノロジーは世界中で高い評価を受けており,両国の企業間の協力も進んでいます。スイスをお手本に観光施設が整備された富士山麓や箱根一帯は,日本を代表する観光名所となり,昨年,富士山が世界遺産に登録されました。また,風光明媚な山村や登山鉄道間で多くの姉妹関係が結ばれており,明日よりインターラーケン,ブリエンツ,シーニゲ・プラッテ高山植物園を訪れ,また,ロートホルン鉄道に乗車するなど各地で交流を行う予定です。

このように長きにわたり友好関係を紡いできたのは,両国がお互いの長所を学び合い,両国の国民が助け合ってきたからだと考えます。第二次世界大戦末期に,赤十字国際委員会から派遣されていたマルセル・ジュノー博士が,多くの広島の被爆者を救ったことはその相互扶助の歴史の一端を物語っています。また,最近では,東日本大震災の際にスイスの救助チームが活躍しました。スイス政府とスイス国民による支援に改めて心より感謝致します。また,ブリエンツでは,2005年の記録的な豪雨の後,姉妹都市の静岡県島田市からの義援金も活用し,水害対策施設が整備され,私も明日視察する予定です。更に,両国は,国際場()においても人道分野を含め様々な協力を進めています。スイスは,世界の細かい実情に通じている。これは岩倉使節団が抱いた当時のスイスの印象ですが,これからも両国が,世界に開かれた国として協力していくことが重要と考えます。今年2月のブルカルテール大統領訪日に際して航空自由化を促進するための交換公文が署名されましたが,これを契機に両国の人と人との交流が一層進むことを期待しています。

大統領閣下

私は,約30年前のオックスフォード修学時代にスイスを訪れ,歴史的な美しい街並み,風光明媚な名峰,人々の優しさに深く感銘を受けました。その際,スイスの美しい山々でスキーを楽しみましたが,スキーは,両国の国民を結びつけています。札幌オリンピックでは,スイスのマリーテレース・ナディッヒ選手が,アルペン競技で2個の金メダルを獲得し,我が国国民に感動を与えたことを鮮明に覚えています。また,ソチオリンピックの女子アルペンスノーボードで銀メダルを獲得した竹内智香選手は,スイスチームの練習に参加していましたが,受賞後の会見で「私が今回一番成長できたのは,スイスの選手やスタッフに育ててもらったからだ」と述べています。スイスの包容力を示すエピソードだと思います。竹内選手と最後まで競い合い,僅差で金メダルを獲得したのは,スイスのパトリシア・クマー選手であったことは付言するまでもないでしょう。

岩倉使節団のスイス滞在記録の最後には,エメ・アンベール氏がベルンで一行を歓迎したのみならず,最後の訪問地ジュネーブで一緒にホテルに宿泊し,列車に同乗して一行を見送ったことに感動し,「その友情の真摯なこと,礼儀の厚いこと,その情()のほどは実にありがたい」旨記されています。まさに,今日の親密かつ強固な両国関係が,相互の信頼,敬意,友情に基づくことを示す,心温まる話ではないでしょうか。

日本・スイス国交樹立150周年という歴史の節目において,両国関係が一層発展することを願うとともに,ブルカルテール大統領ご夫妻を始めスイス国民の皆様のご多幸とご繁栄を心よりお祈りしたいと思います。


ありがとうございました。

このページのトップへ