皇太子殿下お誕生日に際し(平成26年)

皇太子殿下の記者会見

会見年月日:平成26年2月21日

会見場所:東宮御所

皇太子殿下のお写真
記者会見をなさる皇太子殿下
問1 この1年間,2020年のオリンピック・パラリンピックの東京開催が決まるなど明るいニュースがありました。一方で,伊豆大島の台風被害など自然災害が各地で相次ぎました。殿下は,東日本大震災の被災3県を見舞われ,オランダ,スペインを訪問されるなど,国内外で多忙な日々を送られました。この1年を振り返り,印象に残ったことについてお聞かせください。
皇太子殿下

この1年を振り返りますと,夏から秋にかけて,これまで経験のない大雨が各地で記録され,また,台風が伊豆大島に痛ましい被害をもたらすなど,多くの自然災害が発生したことは,大変心の痛むことでした。度重なる台風及び豪雨により亡くなられた方々に心から哀悼の意を表しますとともに,ご遺族と被災された方々にお見舞いを申し上げます。被害からのできる限り早い復興をお祈りしております。また,このところの大雪によって,地域が孤立したり,各地で被害が出ていることも心配しております。

昨年後半には,宮城県,福島県,岩手県を雅子と共に訪問しましたが,東日本大震災の被災者の方々が,まだまだ大変なことが多い中でも,支援を受けながら,これらの困難に立ち向かい,前向きに生活や生産の場の再建に取り組んでこられている様子を心強く思いました。東北の方々は,今年も,雪の多い厳しい冬を迎えています。厳しい環境の中ではありますが,これからも関係者の努力により,1日も早く復興が進み,多くの被災者の方々の生活が改善され,安心して暮らすことができるよう,被災された方一人一人の幸せとご健康を祈りながら,雅子と共に,被災地の復興に永く心を寄せていきたいと思います。

現在,日本社会は,様々な意味で転機を迎えています。この1年,国内で訪れた各地で,諸課題を克服するために,社会の中から前向きな取組が生まれていることを実感しました。

例えば,東北の被災地において,地域ぐるみで,高齢者や子育て層などを支援している仮設住宅を訪れ,人々の優しい心の触れ合いを感じることができました。また,全国障害者スポーツ大会では,大会参加者を支えるボランティアの方々の献身的な仕事ぶりに心を動かされました。さらに,山間地域の皆さんが協力して,里山の景観や伝統的な農法を保存し,継承しながら,努力されるなど地域活性化のために各地で様々な取組が行われていました。

若い方々との交流でも印象深いことがありました。昨年8月には,震災を乗り越え,自らの力で復興プロジェクトを企画・実行し,未来を創造しようと取り組んでいる「OECD東北スクール」の中高校生にお会いし,その熱意に強い印象を受けました。また,昨年来約850名の青年海外協力隊員とお会いしましたが,開発途上国での草の根協力のために派遣される,若者たちの志気の高さを実感し,若い人たちの将来に向けた前向きで積極的な気持ちを感じることができ勇気付けられました。同時に,途上国の現場に入り,現地の人々を指導し,自立できるようにするという協力隊の在り方は,日本の海外への技術協力の良い例であると思います。

これらは,ほんの一部にすぎませんが,各地で,将来に目を向け,社会のきずなを大切にした,多くの取組が地域に根付いてきております。これからも,若者,女性,高齢者,障害者を始め全ての人々が積極的に社会に参加し,しっかりと手を携えて,他者に対していたわりの気持ちを持ち,助け合いながら,活力のある社会を構築していっていただければと思います。

今月の初めからロシアのソチで冬季オリンピックが行われており,連日のように放映される世界最高レベルの競技に魅了されつつ,選手一人一人のこれまでの努力と苦労に思いをはせております。日本の選手もよく頑張っており,これまでの健闘をたたえたいと思います。

昨年9月には,2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まりました。日本におけるオリンピック・パラリンピックの開催は,子どもたちに夢を与え,日本の社会が将来に向けて活力を得ていくきっかけになればと思います。私自身は,前回の東京オリンピックの時は4歳でしたが,馬術競技などを観戦に行ったり,閉会式に出席した思い出がありますし,世界各国から集う選手を見て,子どもなりに,世界との出会いを感じたことを記憶しております。6年後の東京オリンピックを目指して,我が国を含む世界各国の選手が,研鑽けんさんを積む機会となるとともに,世界の人々から喜ばれる大会となることを心から願っております。

また,昨年6月には,富士山が世界文化遺産に登録され,12月には,和食が,日本人の伝統的な食文化として,ユネスコ無形文化遺産に登録されるなど,日本の自然,伝統や文化は,国際的にも認められてきております。近年,外国から日本を訪れる観光客は増えていますが,特に東京オリンピックが開催される2020年には,外国からも多くの観光客をお迎えすることになります。多くの外国のお客様に,我が国の文化や風土に親しんでいただけるよう,国民の皆さんが力を合わせていかれることを願っております。

昨年3月には,ニューヨークの国連本部で開催された「水と災害に関する特別会合」において,国連「水と衛生に関する諮問委員会」の名誉総裁として基調講演を行い,我が国の災害の歴史を振り返りつつ,災害の歴史を伝えていくことの重要性とそこから導かれる教訓についてお話しいたしました。その後も,フィリピンの台風を始め各地で災害が続く中,昨年11月,国連大学で行われた「生態系を基盤とした防災・減災」と題する国際シンポジウムを聴講し,防災や減災を念頭において自然環境を守り,自然と共生していくことが大切であることを改めて認識いたしました。

世界においては,地球温暖化や生物の多様性の減少,自然災害,貧困や食糧不足などが現実の問題として進行するとともに,一部の国や地域では武力紛争が継続し,子どもを含む多数の犠牲者や難民が発生しております。こうした中で,紛争を予防し,貧困を克服していくとともに,環境破壊や自然災害を防ぎ,将来にわたって持続可能な開発を達成することが,求められているように思います。昨年11月には,ヘレン・クラークUNDP総裁にお会いし,これらの諸問題への国連の対応についてお話を伺いました。私が取り組んでいる「水」の問題は,こうした様々な課題に密接に関連し,その解決に向けて有益な視点を提供できるものと思います。これからも,「水」の問題を切り口として,世界が直面する諸課題に関心を払っていきたいと思います。

また昨年4月には,オランダ王室からご招待を頂き,オランダのウィレム・アレキサンダー国王陛下の即位式に雅子と一緒に参列いたしました。6月には,日本スペイン交流400周年の名誉総裁としてスペインを訪問し,スペイン王室及び政府の関係者から心のこもったおもてなしを頂いたのみならず,支倉常長一行の子孫といわれるハポン姓の人が多い,コリア・デル・リオ市では,炎天下にもかかわらず多くの市民の皆さんに温かく迎えていただくとともに,地元の小学生から東日本大震災からの復興の願いを込めた日本の歌の合唱をプレゼントしていただくなど,人との温かい交流を通じ,心に残る訪問となりました。

12月には,融和の精神をもとに,長きにわたる困難な活動を経て,平和にアパルトヘイト廃止を果たしたネルソン・マンデラ元南アフリカ大統領の追悼式に出席しました。この訪問を通じ,民主主義や人権の尊重など普遍的な価値を体現したマンデラ元大統領への尊敬の念を深めるとともに,アフリカを始めとした各国の大統領,首相,首脳経験者,王室の方々など多くの方にお会いすることができました。

マンデラ元大統領の自伝である『自由への長い道』には,「あらゆる人間の心の奥底には,慈悲と寛容がある。肌の色や育ちや信仰の違う他人を,憎むように生まれついた人間などいない。人は憎むことを学ぶのだ。そして,憎むことが学べるのなら,愛することだって学べるだろう。愛は憎しみよりも,もっと自然に人の心に根づくはずだ。・・・人の善良さという炎は,見えなくなることはあっても,消えることはない。」というくだりがありますが,心を打つ言葉だと思います。

また,本年は,日本とスイスとの国交樹立150周年に当たり,名誉総裁としてスイスとの交流にも携わることになります。今年も各国との親善関係が深まるよう,国の内外で多くの方々と交流することを楽しみにしております。

最後になりますが,昨年6月には,結婚20周年を迎え,20年前の結婚の儀を始めとする諸行事を感謝の気持ちのうちに懐かしく思い出すなど,この1年も大変感慨深い年となりました。この20年,国民の皆様に私たちを温かく見守っていただいていることに改めて心より感謝いたします。

問2 雅子さまは療養生活に入られて10年になりますが,昨年は11年ぶりの外国公式訪問となるオランダ訪問に加え,被災3県を訪問されるなど,活動の幅を広げられました。殿下のお気持ちと最近の雅子さまの体調や今後の見通しについてお聞かせください。愛子さまは4月には中学校に進まれます。愛子さまの小学校生活を振り返ってのご感想と,今後の教育方針についてどのような考えをお持ちでしょうか。
皇太子殿下

この10年を振り返ると,雅子は,病気の治療を続ける中で,体調をその都度整えながら,公私にわたってできる限りの活動をするための努力を続けてきました。そうした中で,昨年4月末に行われたオランダのウィレム・アレキサンダー国王陛下の即位式への参列のため,二人そろってオランダを訪問できたこと,また,昨年後半には,宮城県,福島県,岩手県の被災地を一緒に訪問できたことを大変うれしく思っております。

雅子は,訪問と現地での行事出席の実現に向けて,体調の調整にとても気を遣ったと思います。しかし,本人の努力も実り,無事に訪問を終えることができました。以前にもお話ししましたが,オランダ王室からのご配慮も頂き,こうした訪問を実現できたことは,雅子にとっても一つの自信になったように思います。このほか,昨年は,東京で行われた障害者スポーツ大会の開会式や皇居宮殿での文化勲章のお茶会などにも二人そろって出席することができました。

このように,雅子は,確かに快方に向かっておりますが,これですぐに活動の幅が広がるわけではないと思います。お医者様からもご助言を頂いているように,体調を整えながら,まずは,できることから少しずつ時間を掛けてやっていってほしいと考えております。国民の皆様より私たちに対して温かいお気持ちを寄せていただいておりますことに改めて心より感謝の気持ちをお伝えいたします。

また,愛子が,もうすぐ初等科の卒業式を迎えるのかと思うと,大変感慨深いものがあります。6年前,一緒に入学式に出席したことが,昨日のことのように思い出されます。愛子は,この6年間,多くのことを学びました。また,勉強だけでなく,友達にも恵まれ,クラブ活動など課外活動を通じ,幅広い経験と多くの仲間を得ることができたと思います。昨年夏の沼津海浜教育の際には,500メートルの距離泳を完泳するなど,随分たくましくなりました。昨秋の運動会では,6年生が,初等科生活の集大成として全員で行った組体操に参加し,見事なピラミッドを創り上げるなど,友達と協力して演技をやり遂げたことは,本人にとっても良い思い出となったと思いますし,初等科を卒業してもこのような心に残る思い出を大切にしてほしいと思います。

愛子は,この春から学習院女子中等科に進学することとなりますが,これから,より多くのことを勉強し,社会と接する機会も多くなると思います。愛子には,知識を吸収し,さらにそれを社会で実践していくために,自分で考え,行動できるようになるとともに,周囲への感謝の気持ちや配慮を大切にしながら,健やかに育ってほしいと思います。

両陛下には,雅子の体調をお気遣いいただき,そして,愛子の成長を温かくお見守りいただいていることに心より感謝申し上げております。また,国民の皆様に温かく心を寄せていただいておりますこと,多くの方に愛子の成長を支えていただいておりますことに心より感謝しております。

問3 天皇陛下は昨年傘寿を迎えられ,皇后さまも今年80歳を迎えられます。両陛下が始められた「こどもの日」と「敬老の日」にちなむ施設訪問は,来年から皇太子ご夫妻,秋篠宮ご夫妻に引き継がれることになりました。公務については,殿下は過去の記者会見で「時代に即した公務を考えていく必要がある」と述べられました。両陛下の公務を引き継がれるにあたってのお気持ちと,新しい公務に対するお考えをお聞かせください。
皇太子殿下

公務についての考えにつきましては,以前にも申しましたけれども,過去の天皇が歩んでこられた道と,天皇は日本国,そして国民統合の象徴であるとの日本国憲法の規定に思いを致して,国民の幸せを願い,国民と苦楽を共にしながら,象徴とはどうあるべきか,その望ましい在り方を求め続けるということが大切であると思います。同時に,これまで行われてきている公務を踏まえつつ,将来にわたり生じる日本社会の変化に応じて,公務に対する社会の要請に応えていくことが,重要であると考えております。

天皇皇后両陛下には,これまで,毎年,こどもの日,敬老の日及び障害者週間の前後には,関連施設をご訪問になり,入所者に心を寄せられ,また,多くの関係者をねぎらってこられました。このような両陛下のお気持ちを体して,私たちも心を込めて,この施設訪問を受け継がせていただきたいと考えております。

我が国社会は,少子高齢化,地方の活性化,環境・エネルギー問題や防災対策を始め様々な課題に直面しています。私としては,高齢者や障害者の方々,子どもたちを取り巻く環境や日本が直面してきた災害の歴史やそれに対する対応などを始めとして日本社会が抱える諸課題やそれに応じた社会の変化を知り,国民の皆さんが日々どのような苦労をし,また,それらを克服するためにどのように取り組んでいるかを学ぶように心掛けております。その際,そうした多くの方々の苦労を心にとどめるとともに,課題を抱えながらも前向きに努力されている方々を少しでも励ますことができればと思っております。

また,同時に,世界各国との相互理解を深めていくことが大切だと思いますので,文化交流や国際親善の面でもお役に立てればと思っております。

今後とも,常に学ぶ姿勢を忘れずに,世の中のためにできることを心掛けてやっていきたいと思います。

問4 昨年は,皇室の活動と政治の関わりについての論議が多く見られました。天皇陛下は記者会見で,「問題によっては,国政に関与するのかどうか,判断の難しい場合もあります」と述べられました。殿下は,皇室の活動と政治の関わりについてどのようにお考えになっているのか,また心がけていることがあればお聞かせください。
皇太子殿下

日本国憲法には「天皇は,この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ,国政に関する権能を有しない。」と規定されております。今日の日本は,戦後,日本国憲法を基礎として築き上げられ,現在,我が国は,平和と繁栄を享受しております。今後とも,憲法を遵守する立場に立って,必要な助言を得ながら,事に当たっていくことが大切だと考えております。

問5 宮内庁は昨年11月,天皇,皇后両陛下のご意向を受け,陵を従来よりも縮小し,400年ぶりに火葬を導入すると発表しました。殿下も了承されているとのことですが,この見直しについての殿下のお考えをお聞かせください。また,両陛下,秋篠宮さまとは,どのようなお話をされたのでしょうか。
皇太子殿下

天皇陛下には,皇室の歴史の中に,御陵の造営や葬儀に関し,人々に過重な負担を課することを望まないとの考え方が古くよりあったことに思いを致され,御陵や御葬送全体についても,極力国民生活への影響の少ないものとすることが望ましいとのお気持ちをお持ちであり,同時に,これまで長きにわたる従来の皇室のしきたりはできるだけ変えずに,その中で今という時代の要請も取り入れていくことを心掛けていらっしゃいます。

火葬の導入や御陵の縮小についてもこうしたお考えを踏まえたものであり,このような両陛下のお気持ちについては,以前より伺っており,私も秋篠宮も両陛下のお気持ちを尊重しておりますし,また,私も両陛下と同じように考えております。

<関連質問>
問1 この度はおめでとうございます。先ほどの殿下のご回答の中で国内外の様々な人と交流をしていきたいというお話がありました。それで今年1年を振り返ったお話の中でも若い方々との交流を始めとした殿下の交流の話がありましたが,殿下におかれましては,日々の公務において,何か人と接する時に心掛けていらっしゃることがあれば教えていただこうかと思うのですが,いかがでしょうか。
皇太子殿下

様々な場面で,様々な方と,小さいお子さんから年配の方まで年齢も様々で,またそれぞれやっていらっしゃることも異なる皆さんとお会いする機会が私もありますけれども,やはり皆さんがどのような活動をされているか,そしてその活動に対してどういうふうな思いを持っておられるか,そういうことをできるだけ克明に伺うことができればといつも思っておりまして,そのような観点からできるだけ多くのことが伺えればと,常に思ってそのことを心掛けてはおります。ともかく,皆さんお会いする方々は,お会いする時間もまちまちですけれども,その限られた時間の中で,できるだけ多くのことを一人一人の方から引き出していくことができれば,それは最終的には私自身にとっても大変大きな糧となると思っております。

問2 私的な外国訪問についてお尋ねいたします。平成22年2月に公表された東宮職医師団の見解では,負担が少なく,期間も長くない私的な海外訪問は,妃殿下の治療の面から効果的との指摘がありました。ご一家の海外ご訪問は平成18年以降ありませんが,雅子さまのご活動が増え,愛子さまも中学校へ進まれる中,ご一家での外国訪問についてどのようにお考えでしょうか。
皇太子殿下

確かにおっしゃるように,雅子の状況も少しずつ良い方向には向いてきていると思います。それから愛子もこの4月からは中学に進むように,だんだん大きくなってきております。やはり雅子にとっても外国訪問が治療上も良いのであれば,そしてまた,愛子にとっても視野を広めるという意味で外国の地を見ておくことが良いのであれば,様々なことを考えて,今後ともどのような外国訪問ができるかということをいろいろ考えていく必要があると思います。実際,私たちもそのようなことをいろいろ考えているところではあります。

皇太子殿下のお誕生日に際してのご近影