皇太子殿下お誕生日に際し(平成22年)

皇太子殿下の記者会見

会見年月日:平成22年2月19日

会見場所:東宮御所

皇太子殿下のお写真
記者会見をなさる皇太子殿下
問1 50歳といえば,論語で「天命を知る」とされる年齢です。今の率直なお気持ち,公私両面での抱負をお聞かせください。昨年,天皇陛下が,中国国家副主席とご引見された際,天皇が行う国際親善,公務の在り方が議論となりました。皇室のご活動については,憲法で定める「国事行為」以外に明確には規定されておりません。「象徴天皇」の在り方を含めたご公務に対する考え方や,殿下が度々,語られてきた「時代に即した新しい公務」の現状と今後の取り組みについてお聞かせください。
皇太子殿下

自分としては,もう50になったのかという感じがする一方で,まだまだ研さんを積まないといけないという,これからだという思いがいたしております。

ご質問の冒頭にあった「天命を知る」という孔子の言葉は,自分がこの世に生まれた使命を知るという意味ですが,単に知るだけではなく,この世のためにいかす,つまり,人のために尽くすという意味を含んでいるように思います。孔子の言葉といいますと,確か天皇陛下が50歳になられた時の会見で,「夫子ふうしの道は忠じょのみ」との孔子の言葉で質問に答えていらっしゃいます。「忠じょ」とは,自分自身の誠実さとそこから来る他人への思いやりのことであり,この精神は一人一人はもとより,日本国にとっても「忠じょ」の生き方が非常に大切なのではないかとおっしゃっておられます。「忠じょ」と「天命を知る」という教えに基づいて,他人への思いやりの心を持ちながら,世の中のため,あるいは人のために私としてできることをやっていきたいと改めて思っております。

また,教えと言えば,大学を卒業の会見の折にお話ししていることですが,歴代天皇のご事蹟を学ぶ中で,第95代の花園天皇が,当時の皇太子-後の光厳こうごん天皇にあてて書き残した書に,まず徳を積むことの重要性を説き,そのためには学問をしなければいけないと説いておられることに感銘を受けたことを思い出します。そして,花園天皇の言われる「学問」とは,単に博学になるということだけではなくて,人間として学ぶべき道義や礼義をも含めての意味で使われた言葉です。私も,50歳になって改めて学ぶことの大切さを認識しています。

50年というと,すなわち半世紀ですので,その年月には重みがあります。日本はこの50年の間に,著しい経済発展と社会の大きな変革を経て大きく変わりました。現在,冬季オリンピック大会がカナダのバンクーバーで行われておりますけれども,私の最初のオリンピックの記憶は昭和39年の東京オリンピックにさかのぼります。そして,その後の万国博覧会などを通じて,小さいころより戦後の日本の発展,世界の中の日本を体験してきました。同時に,両陛下から,私が生まれる以前の時代のことなどについても折々にお話を伺うことができたことはとても有り難いことでした。そして,私自身も公私両面で,大きな変化を経験してきました。公の面では,両陛下のお導きにより皇太子に至る道を歩んでまいりました。私の面では,両陛下の温かい愛情の下で育ち,外国留学を含めて様々な経験をさせていただき,雅子との結婚,愛子の誕生により心温まる安らぎのある家庭を持つに至っております。「天命を知る」年齢に達するに当たって,両陛下を始めこれまでお世話になりました多くの方々へのご恩を忘れず,更なる自己研さんに努める気持ちを新たにしております。それとともに,ご高齢になられた両陛下をお助けしていくことの大切さにも思いを強く致しております。

「象徴天皇」の在り方を含めた公務に対する考え方についてのご質問ですが,私は,これらの点については,陛下が繰り返しお述べになってこられたところ,すなわち,過去の天皇が歩んでこられた道と,そしてまた,天皇は日本国,そして国民統合の象徴であるとの日本国憲法の規定に思いを致して,国民と苦楽を共にしながら,国民の幸せを願い,象徴とはどうあるべきか,その望ましい在り方を求め続けるということが大切なのだと思います。「時代に即した新しい公務」については,この50年の間に日本社会が大きく変化しましたが,この変化は将来も続くものであり,変化に応じて公務に対する社会の要請も変わってくることになると思います。そして,社会の新しい要請にこたえていくことは大切なことであると考えております。かつて,私は今後の関心ある分野として水の問題や環境問題,子どもと高齢者に関する事柄などを述べたことがありますが,これらの分野に限らず,新たな公務に対する社会の要請は出てくると思いますので,これらの公務に真に取り組んでまいりたいと思っております。

問2 天皇陛下は,ご即位20年に際しての記者会見で,将来の皇室の在り方について,皇太子さまと秋篠宮さまの考えが尊重されることが重要と述べられました。秋篠宮さまも,誕生日の記者会見で,将来,その当事者となる皇太子さまと秋篠宮さまの意見を聞く過程が必要と語り,皇太子さまと話し合う機会を作りたいとの考えを示されました。その後,そうした機会はありましたでしょうか。今後,皇族方の数が少なくなるなどの現状も踏まえ,将来の皇室の在り方について殿下のお考えをお聞かせください。
皇太子殿下

天皇陛下のおっしゃっておられることを真剣に受け止めております。秋篠宮とは様々な事柄について話し合う機会がありますし,今後ともそのような機会を持つことになると思います。

将来の皇室の在り方についての私の考えは,前の質問とも関係しますが,その時代時代で新しい風が吹くように,皇室の在り方もその時代時代によって変わってきていると思います。過去から様々なことを学びながら,将来の皇室の在り方を追い求めていきたいと考えています。

なお,ご質問のような,皇室の制度面の事柄については,私が言及することは控えたいと思います。

問3 皇太子妃雅子さまが,病気療養に入られてから今年で7年目となります。昨年は天皇皇后両陛下のご結婚50年,ご即位20年をお祝いする様々な行事に出席され,先月には阪神・淡路大震災の追悼式典参列のため,2年ぶりに泊まり掛けの地方公務に臨まれました。先日,発表された東宮職医師団の見解では,妃殿下にとって,ライフワークにつながる活動を見付ける時間を十分に取ることや今後のご活動の適正な配分について慎重に検討するよう求めています。また,私的な海外訪問の検討が必要だとも記されていますが,殿下はこれらの指摘に対し,どのようにお考えでしょうか。現在の妃殿下のご様子も含めてお聞かせください。
皇太子殿下

雅子の病状については,先日発表の東宮職医師団の見解に述べられているとおり,5年半前の治療開始のころに比べて,着実に快復に向かっており,温かく見守ってくださっている天皇皇后両陛下,そして多くの国民の皆様に感謝しております。また,私も間近で見ていて,雅子の一生懸命努力している様子や良くなってきている様子がよく分かります。しかし,そうは言っても,まだ治療を必要とする状況であることには変わりありませんので,私としては,お医者様の指摘を踏まえながら,更なる快復に向けて支えていくつもりです。

ライフワークにつながる活動を見付けるのは簡単なことではないと思いますので焦ることなく時間を掛けて見付けていってほしいと思っています。そのためには,本人が余裕が感じられるような環境が大切で,そうした環境づくりに私もできるだけ協力していきたいと考えております。外国訪問については,今回の医師団の見解を踏まえてどのような機会があり得るのか,周囲の人たちとも相談しながら,雅子と共に考えていきたいと思っています。

問4 愛子さまは今春,学習院初等科3年生に進級されます。この1年,学校生活やご家庭を通じて様々な体験を積まれたことと思います。昨年秋に開かれた両陛下のご結婚50年,ご即位20年を祝うご内宴では,愛子さまも両殿下と共にお客様をもてなすお役目を果たされたとも伺っています。愛子さまのご成長ぶりや両陛下とのご交流について,具体的なエピソードを交えてお聞かせください。
皇太子殿下

子どものこの時期の成長はとても早いものだと強く感じています。学校生活にも,すっかり慣れて毎日楽しんで通学しています。学校の先生方やお友達にもとてもよくしていただいていることを有り難く思いますし,また,1月には学校から郵便局の見学に出掛けるなど,学校の内外で様々な経験を積み重ねることによって,本人も充実感を味わっている様子で,私たちもとてもうれしく思っています。詩を書くことや漢字の練習,あるいは掛け算の九九の習得にも励んでいます。学校生活のみならず,昨年春の野球のWBCでの日本チームの活躍に熱中し,その後,神宮球場でのプロ野球を初めて観戦し,野球に関心を示すなど,いろいろなことに興味が広がっています。今行われているバンクーバー冬季オリンピックの様子もテレビで観戦することもありますが,4年前のトリノのオリンピックのころに比べると,冬季スポーツへの関心の幅も広がっていることがよく分かり,それも成長の一つだと感じています。

両陛下には,愛子のこのような成長を常に温かく見守っていただき,いろいろな機会にかわいがっていただいておりますことに心から感謝をしております。陛下の稲やあわのお手まきやお手刈り,あるいは年末のおもちつきにお誘いいただいて,ご一緒させていただいたり,色紙をご一緒に折っていただいたり,絵本を読んでいただいたり,また,愛子の好きな曲をピアノで聴かせていただいたりするなど様々です。愛子も両陛下にお会いするのをとても楽しみにしており,庭の花や畑でとれた野菜などをお持ちしたり,機会があるときにはかわいがっている犬のゆりをお目に掛けることを心待ちにしています。そして,誕生日の折などに両陛下から頂いた物もとても大切にしています。また,御所では,秋篠宮一家とも一緒になることもありますが,子ども同士でとても楽しそうに遊んでいます。

問5 昨年は,天皇皇后両陛下のご結婚50年,陛下のご即位20年の祝賀行事が行われ,政権交代や裁判員制度スタートなど歴史に残る出来事もありました。この1年を振り返り,殿下にとって印象に残った出来事やご感想をお聞かせください。
皇太子殿下

この1年の印象に残る出来事と言えば,まず両陛下のご結婚50年・陛下のご即位20年にかかわる様々な行事でした。私どももそれらの多くの行事に参加させていただくことにより,改めて両陛下の歩んでこられた道に思いをはせるとともに,多くのことを学ぶことができました。そのほかにも,ご指摘の政権交代や裁判員制度のスタートも印象に残る出来事でありましたが,アメリカのオバマ大統領の就任も歴史的な出来事だったと思います。

また,ハイチでの地震で多くの人命が失われるという実に悲しい出来事がありました。日本国内でも,昨年7月の九州・中国地方を襲った集中豪雨などの自然災害がありました。現在なお,こうした災害により多くの人々が亡くなったり,生活の場を失ったりする現実があることには心が痛みます。先月,阪神・淡路大震災15周年追悼式典に出席しましたが,今なおえない悲しみを乗り越えながら,その経験を,安心して暮らせる街や社会の実現につなげようと懸命に努力している人々の姿に深い感銘を受けました。

そのようなときに何よりも大切なのは,寛容の精神を持ち,他の人々を思いやり,互いに助け合う気持ちだと思います。阪神・淡路大震災の際にも,国の内外を越えて,多くの人々から支援の手が差し伸べられました。ハイチの地震でも同じだと伺っています。そうした思いやりの気持ちを持ち続けながら,一日一日を大切に過ごし,必要なときには実際に行動に移していくことが大事だと思います。

また,この1年は,内外の経済面での難しさと,それに伴う国民の厳しい状況への思いが強かった年でもありました。皆様が共に手を携えてこの困難な状況を乗り越えていかれることを心から願っております。

こうした状況を考えると,この会見の冒頭で述べた言葉に戻ることになりますが,「忠じょ」のうちの「じょ」,すなわち他人への思いやりの心を持つことが,これからの世の中でますます大切になってくると思えてなりません。

<関連質問>
問1 皇室の在り方に関連してお尋ねをさせていただきたいと思います。殿下は昭和60年,英国ご修学を終えられた際の記者会見で,皇室観について,一番必要なことは国民の中に入っていく皇室であること,そのためには,できるだけ多くの国民と接する機会を作ることが必要と話されました。立太子礼を前にした平成3年の記者会見でも,そのお考えを改めて伺ったところですけれども,それから皇太子殿下になられて20年余り,50歳に当たって,改めて殿下の描く皇室観,皇室像というものをお聞かせいただけないでしょうか。立太子礼の会見の折に,達成度合いについてのお尋ねをしたところですけれども,その点についても併せてお聞かせいただければと思います。
皇太子殿下

先ほど公務に対する考え方の質問の中でもお話ししましたように,天皇は日本国,そして国民統合の象徴であるとの日本国憲法の規定に思いを致して,そして国民と苦楽を共にしながら,国民の幸せを願い,象徴とはどうあるべきか,その望ましい在り方を求め続けるということが大切なのだと思います。その意味で,私が20年以上前に述べた,国民の中に入っていく皇室,そのためには,できるだけ多くの国民と接する機会を作ることが必要であるという考え方は,今でも変わってはおりません。それから,達成度ということについては,その当時も,途中の段階であるというふうに申し上げたと思いますけれども,先ほど50歳に当たって,更に学ぶことの大切さということを申し上げましたとおり,道はまだ半ばであるというふうに,今でも申し上げられると思います。

問2 殿下は妃殿下と愛子さまと共に,平成18年の夏にご静養のためにオランダに私的に外国訪問されましたけれども,平成19年のお誕生日の会見で,記者会からこのような形で海外訪問されるお考えはおありになりますかと聞いたところ,殿下は今のところ考えておりませんというふうにおっしゃっています。今回ですね,やはり外国訪問のことにつきまして聞きまして,今回,殿下は,今後周囲の人と相談しながら外国訪問を考えていきたいとおっしゃいましたけれども,当時の時のお気持ちとですね,それが変化したということなんでしょうか,それをちょっとお聞かせいただけますか。
皇太子殿下

先ほども申し上げましたけれども,雅子の病気の状況も,以前に比べると快復に向かっているというふうに思います。そして,今,このような状況の中で,もし海外に行くことが雅子の治療にとってもいいということになるのであれば,それはやはりそれを行うことがいいことなのではないかというふうに思っております。ただ,もちろんこれも医師団の見解でも述べられていることに基づくわけですけれども,先ほども話したように,どのような機会があるのか,こういったことはやはり周囲の人たちとも相談しながら,そしてまた,雅子ともいろいろ相談しながら考えていきたいというふうに思っています。

皇太子殿下のお誕生日に際してのご近影