皇太子殿下お誕生日に際し(平成20年)

皇太子殿下の記者会見

会見年月日:平成20年2月21日

会見場所:東宮御所

皇太子殿下のお写真
記者会見をなさる皇太子殿下
(写真:宮内庁)
問1 この一年間,殿下にとって印象深かった出来事を幾つかご紹介ください。殿下は昨年,ポリープの切除手術を受けられました。退院の際に「健康の大切さを実感した」と述べられましたが,健康維持のためにどのようなことを心掛けていらっしゃいますか。皇室では,天皇陛下がホルモン療法を続けられ,皇后さまも今年初めに体調を崩されました。健康に不安を抱えられている両陛下を支えられるお気持ちもお話しください。
皇太子殿下

この一年を振り返ってみますと,国の内外で実に様々なことがあったと思います。

国内にあっては,新潟県中越沖地震,能登半島地震などの自然災害に加えて,食の安全,年金,社会格差など国民生活の安全と安心にかかわる問題が私の印象に残っております。特に食の安全は生活の基本であり,関係者の努力により,これらの問題が解決に向かうことを心から願っております。

国外にあっては,イラクやパレスチナ情勢など中東地域が依然として不安定であることや,様々な地域での紛争の問題なども心配です。また,世界的に地球環境問題がより重要性を増してきており,昨年はアメリカのゴア元副大統領やIPCC(気候変動に関する政府間パネル)にノーベル平和賞が贈られたこともそのあらわれであると思います。

私のこの一年間の公務の中でも特に印象に残っているものとして,第1回アジア・太平洋水サミットに出席したことが挙げられます。これは,国連事務総長からのお話で,国連「水と衛生に関する諮問委員会」の名誉総裁に就任して最初の活動でもありました。水の問題は,世界が直面している地球温暖化を含む環境問題や資源問題の重要な課題の一つです。今年も,名誉総裁としての立場で,水問題に関する様々な活動に取り組んでいきたいと思っております。

もう一つ印象に残っているものとして,昨年11月に静岡県で行われ,名誉総裁として出席したユニバーサル技能五輪大会があります。この大会は,世界各国の若者が技能を競う技能五輪国際大会と,障害のある人々が技能を競う国際アビリンピックという伝統ある二つの大会が,史上初めて同時に開催された大変意義深い大会であったと思います。世界各国から集まった若い人々が障害の有無にかかわりなく,ものづくりに熱心に打ち込んでいる姿には感銘を受けました。科学技術の進歩が著しい中で,殊に若い人々が日本のものづくりを支えていくということは,極めて大切なことと思いました。

国際交流の面では昨年の7月,モンゴルを訪問したことも強く印象に残りました。日本とモンゴルとの友好関係がいろいろな分野で,今後更に発展することを願っております。

健康に関するご質問に対してですけれども, 昨年は十二指腸ポリープの手術で入院しました。お陰様で今は全快しており,今までどおりに公務をこなしております。短い入院期間ではありましたが,お医者様や看護に携わる方々の献身的な治療には,本当に頭が下がる思いがしました。また,内視鏡を使用しての最先端の医療に触れる機会にもなりました。

健康維持のために心掛けていることについてですけれども,生活の様々な面で留意しています。食生活はもとより,適度な運動も健康維持の上では大切だと思います。運動としてはテニスやジョギングが日常での運動になります。殊にジョギングは,短い時間で良い運動になりますし,雨や雪などが降っていなければ行うことができます。私自身は一回のジョギングでこの赤坂御用地の中を2周から3周するのですけれども,先月1か月間で,100キロメートルを超える距離を走りました。

今月17日に行われた東京マラソンでの参加者の多さや,皇居の周りを走るランナーの多さを見ても,国民の多くがランニングやジョギングを楽しんでいることがよく分かります。ジョギングは,無理をしなければ健康維持にとても役に立つと思います。もちろん,テニスや,回数は少ないですけれども,登山やスキーも私の健康維持には欠かせません。

両陛下のご健康に関しては,私は,両陛下がご健康でお元気にお過ごしになられますことを常に心から願っております。そして,いつでも必要なときには,皇太子として天皇陛下をお助けできればと思っておりますし,どのようにお助けするのが最もお力になれるか常に考え,努めていきたいと思っております。

問2 今年,皇太子同妃両殿下は御成婚15周年を迎えられます。15年間を振り返り,印象に残ったこと,苦労されたことなどをお聞かせください。現在療養中の妃殿下のご回復状況と,本格的なご公務復帰の見通しはいかがでしょうか。最近,妃殿下の私的な外出が増えていますが,殿下はどのようにお考えですか。
皇太子殿下

もう結婚15周年かと,年月のたつのは早いものと思います。結婚10周年の際に雅子と共に詳しく感想を述べておりますので,その後の5年間に限らせていただきますと,何より大きいのは愛子が成長し,3人でいろいろな楽しみや喜びを見いだすことができることです。他方で雅子が病気を患い,現在も治療中であることも大きな出来事でした。雅子の現在の状況は,昨年の誕生日に際して,本人の感想と東宮職医師団の見解に述べられていますように,少しずつではありますけれども快方に向かっていますが,なお治療を必要としております。雅子は,依然として体調に波がある中,自分でもいろいろと工夫をしながら,公私を問わず活動の幅を広げるよう努力してきており,公務についても少しずつではありますが,頻度が増えてきています。以前に比べ,公務の後の疲れからの回復も早くなってきているようには思いますが,頑張り過ぎて疲れることなどもありますので,お医者様からは内容を慎重に考えながら活動の幅を広げていくよう指導を受けております。公務については,回復に伴って少しずつ積み重ねていくことにより,徐々に復帰していくことになると思います。現状では,公私を問わず,心の触れ合いを大切にしながら,負担の少ないところから活動の幅を広げることが治療のために必要とのお医者様の見解をご理解いただき,引き続き長い目で見守っていただきたくお願い申し上げます。また,結婚10周年のときにも申しましたけれども,雅子は,いろいろな面で私の力になってくれていますし,私も,雅子を今後ともしっかりと支えていきたいと思っております。

問3 殿下はこの一年間,愛子さまのご成長をどのように見守られましたか。愛子さまはこの春,学習院幼稚園を卒園し,初等科に進まれます。最近のご成長振りと,ご趣味や好きな遊びなどをエピソードを交えてご紹介ください。また,幼稚園2年間の思い出と現在のご心境,小学校生活に寄せる思いも,お聞かせください。
皇太子殿下

2年間にわたった愛子の幼稚園生活も残すところあとわずかとなりましたが,この2年間で心身共に大きく成長したと感じます。幼稚園入園当初は,愛子にとって初めての集団生活でしたが,先生方の温かいご指導の下,すっかり幼稚園生活にも馴染(なじ)んで,多くの友達もでき,毎日本当に楽しく通園しています。幼稚園生活では父母が子どもと共に参加する行事も,例えば運動会や参観日などですけれども,そういったものの一つ一つが楽しい出来事でした。また,愛子には幼稚園の外にあっても,入園以前からのお友達とも音楽や体操の教室などを楽しんでおり,そのようなときにも成長振りが感じられます。

この一年間では殊に漢字に興味を持つようになり,自分でいろいろな漢字を書くようになりました。特に人の名前を書くことに関心があるようですが,中には難しい字もあります。遊びごっこでは,家族ごっこなどのごっこ遊びが,今とても好きなようです。普段は,うちの犬やカメをかわいがり,昆虫なども好きで,生き物を大切にしています。また,歌を歌うことが好きで,バイオリンやピアノにも関心を示しています。誕生日などにはいろいろと手作りのものを作って,両陛下や私たちにプレゼントしてくれます。また,愛子と一緒に手を洗っているときに,私が手に石鹸(せっけん)を付けている間に,水を出しっぱなしにしてしまい,愛子に水を止めるように注意されたことがあります。

4月からは学齢に達し,学習院初等科に入学することになりますが,新しい環境の中での生活を元気に始めてくれることを願っています。皆様にはこれまで愛子の成長を温かく見守っていただいてきておりますことに感謝しております。

問4 皇室ではこのところ,天皇皇后両陛下のご多忙な公務日程の見直しが検討課題に上っています。両陛下の公務の現状と皇室の公務分担のあり方について,殿下のお考えをお伺いします。
皇太子殿下

このことについては,以前からもお話ししていますように,すべての公務は「天皇陛下をお助けしつつ,国民の幸福を願い,国民と苦楽を共にしていく」という皇室のあるべき姿が基礎にあります。天皇陛下のご公務を拝見していると,もちろん国事行為としてのご公務がおありになるわけですけれども,それに加えて,天皇というお立場であるがゆえに公平性などが重んじられて,式典や,皇居の中での外からは見えないところでのご公務なども随分おありになると思います。陛下のご年齢を考えますと,陛下のお仕事の全体の量をよく把握しながら,ご公務の調整をしていくことは大切なことと思います。私としては,陛下がもう少しお休みになれる機会をお作りし,ごゆっくりしていただくことを周囲が考える必要があると思います。この辺のことは,周囲が,陛下とよくご相談しつつ,陛下のお気持ちに沿う形で事を進めていくことが大切と考えます。

問5 殿下のご公務についてお聞きします。殿下は以前から世界の水問題に関心を持たれ,昨年はアジア・太平洋水サミットに参加されたほか,国連の諮問委員会の名誉総裁に就任されました。こうした活動を踏まえ,改めて世界の水問題についての殿下の思いをお聞かせください。水問題に関するご活動は,今後のご公務や研究活動にどう生かされますか。
皇太子殿下

最初にもお話しましたが,環境問題は今や世界共通の関心事となっていると言っていいと思います。水の問題も,今後,先進国・開発途上国を問わず国際社会が一体となって真剣に取り組んでいかなければならない最重要課題の一つです。私も国連「水と衛生に関する諮問委員会」の名誉総裁という立場で,今の自分に何ができるかということを考えていかれればと思います。水の問題は,世界が直面している地球温暖化を含む環境問題や資源問題の重要な課題の一つです。今年も,名誉総裁としての立場で水や衛生の問題に関する様々な活動に取り組んでいきたいと思っていますし,これまで以上にこの問題についての理解を深めていくつもりです。その意味でも昨年12月の第1回アジア・太平洋水サミットへの出席は,水問題について学ぶとても良い機会になりました。ヒマラヤの氷河が溶けることにより,氷河の下流域に住む人々が洪水の被害に遭うことが現に起こっていること,海面上昇に伴い太平洋のツバルなど島嶼(しょ)国では水没の危機にさらされている国があること,さらに,海面の上昇は,井戸の飲み水に塩分が混入する結果を招いていることなどです。国連のまとめによれば,世界では11億人が安全な水を飲むことができず,このうちの約60パーセントがアジア・太平洋地域で暮らしており,トイレなどの衛生施設を持たない人が世界では26億人で,その70パーセントがアジア・太平洋地域で占められているということです。このような現実を直視し,皆で叡智(えいち)を結集して,力を合わせて解決策を見いだしていくことが重要であると思います。

私自身としては,引き続き水運の歴史,また,日本人が水とどのようにかかわってきたかという歴史を研究することはもちろん,日本国内でも水や水管理に関係のある施設や場所などの視察も行いたいと考えています。また,国連「水と衛生に関する諮問委員会」の名誉総裁として,今後の諮問委員会の活動に関心を持ちつつ,水の問題をめぐる様々な動きに関心を寄せていきたいと思っております。

<関連質問>
問1 これまでの質問と直接関係しないことになって大変恐縮なんですが,国民の関心の大変高いことだと思いますので,あえてお聞きさせていただきます。先日,羽毛田長官が殿下の御所への参内の回数について異例の発言をなさいました。皇族にお仕えする立場である宮内庁の長官が,直接殿下に,言葉は微妙ですけれども,苦言のようなことを申し上げた。このことについては我々記者だけでなく,多くの国民も衝撃と共に多少の違和感というものを感じたと思うんですが,このことに関して殿下のご感想をお聞きしたいと,それともう一つ,これは私見になってしまうのかもしれませんが,長官がご自分の一存だけであの発言をされたとは,私には到底思えないんですが,皇室のご家族の,ご家庭内のことをああした公式の場所で発言せざるを得ない,こういう状況が今の皇室のご家庭の中にあるというこの現状をどのように受け止めていらっしゃるのかお聞かせください。
皇太子殿下

両陛下の愛子に対するお心配りは,本当に常に有り難く感謝を申し上げております。御所に参内する頻度についてもできる限り心掛けてまいりたいと思っております。家族のプライベートな事柄ですので,これ以上立ち入ってお話しをするのは差し控えたいと思います。

問2 今の関連質問にまた関連するような質問で恐縮でございますが,長官会見の後に,皇太子様は両陛下にお会いになっていらっしゃると思うんですが,その際に,こういうお話,話題があったのかどうかということをお聞きしたいということと,それと殿下の今のお話なんですが,やはり国民が非常に気にしていると思うんですね,そこのところで行かれない理由というのは,正にご家庭内の問題とか,いろいろとございましょうけれど,ただやはりそこのところをもうちょっと,なんというか抽象的でも結構なのですが,殿下のお口から直接国民の方に説明していただくと,国民は安心するんではないかなというふうに思いますんで,その2点をできたらお答えいただければと存じます。
皇太子殿下

そうですね。今もお話しましたように,これは本当に家族の内の事柄ですので,こういった場所での発言は差し控えたいというふうに私は思っております。

皇太子殿下のお誕生日に際してのご近影