皇太子殿下お誕生日に際し(平成19年)

皇太子殿下の記者会見

会見年月日:平成19年2月21日

会見場所:東宮御所

皇太子殿下のお写真
記者会見をなさる皇太子殿下
(写真:宮内庁)
問1 この1年は皇太子様にとってどのような1年でしたでしょうか。皇室では昨年,秋篠宮家に悠仁様誕生という大きな慶事がありました。ご一家で悠仁様誕生をどのように喜ばれたのか,天皇皇后両陛下や秋篠宮ご夫妻とどのようなやりとりがあったか,率直なお気持ちをお聞かせください。41年ぶりという皇位継承資格を持つ親王の誕生を受けて将来の皇位継承についてどのようにお考えか,また,愛子様のごきょうだいについてのお考えも併せてお尋ねします。
皇太子殿下

この1年を振り返ってみますと,国の内外で様々な出来事がありました。昨年は豪雪その他の自然災害や事故により多くの被害が出ました。今年は雪が少なく暖冬ですけれども,地球温暖化の影響が懸念されます。最近聞いて驚いたことなのですけれども,2040年までには,北極の氷がほぼ溶けてしまうという説も出ているようです。地球規模で起こりつつある温暖化にどう対処していくかが大きな問題だと思います。

この1年は,特に子どもたちをめぐるいじめや自殺,虐待などの悲しい事件が多く,子どもたちがこのような事件に巻き込まれてしまうことに心が痛みます。子どもたちが安全で健やかに成長できる社会を作ることは大人の責務であると思います。

国際社会ではイラク情勢や中東和平の問題,北朝鮮をめぐる問題など多くの問題が山積していると思います。いずれの問題も解決に向けて進展が図られることを願っております。

明るい話題としてはトリノ・オリンピックでの荒川選手の活躍や,WBCでの日本チームの優勝などが挙げられます。

昨年9月の悠仁親王の誕生を心から喜ばしく思います。御所で,また,秋篠宮邸で,そしてまた,この赤坂御用地を弟夫妻が散歩で連れている折などに会うことがありますけれども,健やかに成長しているようで嬉(うれ)しく思っております。

愛子の幼稚園の入園は私たちにとって大きな事でした。お陰様で元気に通園しており,幼稚園生活を楽しんでいる様子です。幼稚園の先生方,そしてお友達の皆さんやご家族の皆さんにもとてもよくしていただいており,有り難いことと思います。愛子には今後ともお友達との様々な交流を通して多くのことを学んでいってほしいと思います。昨年11月には「着袴(ちゃっこ)の儀」を無事に終えることができ,ほっとしております。

雅子には,オランダでの静養などもあり,徐々にではありますけれども,1年前に比べますと,より快方に向かっていると思います。

私自身としては,皇太子として行うべき活動に積極的に取り組んでまいりました。その中で,この1年を振り返って特に印象に残っているものを一つ挙げるとしますと,メキシコで行われた第4回世界水フォーラムへの出席です。地球温暖化を含めて地球規模での環境問題は,世界的な関心事となっており,その中で水の問題は重要です。これについては,国連では「生命のための水10年」決議や,「水と衛生に関する諮問委員会」の設立などの世界的な組織に加えて,アフリカではアフリカ水閣僚会議が活動を強め,またアジア太平洋地域では,アジア・太平洋水フォーラムが発足するなど,世界の各地で熱心な活動が展開されています。アジア地域は特に水問題の深刻な地域であり,本年12月には,大分県で第1回アジア・太平洋水サミットが開催されます。私もご招待を頂いており,このサミットに出席して,少しでも会議の成功に貢献できればと思っています。

皇位継承の問題については,私の立場上コメントは差し控えたいと思います。また,愛子のきょうだいについても発言は控えさせていただきます。

問2 雅子さまが療養生活に入られて3年が経ち,去年の秋には,宿泊を伴う地方での公務に出掛けられました。雅子さま自身も「少しずつ快方に向かって過ごしてくることができました」と述べられていますが,現在の雅子さまのご様子や回復ぶり,公務復帰のめどについてお聞かせください。
皇太子殿下

雅子については,天皇皇后両陛下よりご理解とお励ましを頂き,また,多くの国民の皆さんからも温かいお気持ちやお力添えを頂いていることに心から感謝を申し上げます。

雅子も体調を見ながらできるだけの努力をしており,それに伴い,少しずつ活動の幅が広がり,徐々に快方に向かっておりますが,お医者様が,個々の活動の後に疲れが残ることがあると指摘されているように,活動をどのくらいまとめて行うことができるかその時々で判断せざるをえない状況です。今後大切なことはお医者様のご指導の下,公務であるかどうかを問わずに更に活動の幅を広げていき,そして,個々の活動に自信を深めていくことであると考えます。活動に自信が持てるようになれば,公的な性格のある活動を行う幅もおのずと広がっていくものと思います。

国民の皆さんにも状況をご理解いただき,長い目で見守っていただきたくお願いいたします。

問3 愛子さまは去年,着袴(ちゃっこ)の儀を迎え,来年は小学校に入学されます。最近の成長ぶりや健康管理,内親王としての今後の教育方針についてお聞かせください。去年の天皇陛下の誕生日会見では,陛下が愛子さまについて「いずれは会う機会も増えて,うち解けて話ができれば」との意向を示されました。両陛下とご一家との,今後の交流の在り方についても,お考えをお聞かせください。
皇太子殿下

愛子はお陰様で幼稚園の生活をとても楽しんでいるようです。また,幼稚園に入り,大きく成長したように見受けられます。園児一人一人を同じように扱うという幼稚園の方針の下で集団生活に溶け込んでいます。この4月から年長組になることを今から楽しみにしています。私たちの教育方針は一昨年のこの会見でも詳しくお話しましたので繰り返しませんが,これが幼稚園の教育方針と合わさって,愛子が名前のとおり,人から愛され人を愛すような人間に育っていってほしいと願っております。

愛子の健康管理には常に気を配っております。風邪を引くこともありますけれども,これは私自身の幼稚園時代を振り返ってみましてもよく風邪を引いては幼稚園を休んでおりましたので,このようなことを通して,体も丈夫になっていくのだと思います。幸いに大きな病気や怪我(けが)をすることもなく健やかに育っていることを嬉(うれ)しく思っております。

天皇陛下の愛子に対するお気持ちを大切に受け止めて,これからも両陛下とお会いする機会を作っていきたいと思います。愛子は両陛下のいらっしゃる御所に上がらせていただく前には,畑で作った野菜をとったり,花を摘んで花かごを作ったり,カルタや双六(すごろく),折り紙などご一緒に遊んでいただけるものを用意し,両陛下にお会いすることをいつも大変楽しみにしております。

問4 ご一家は去年の夏,雅子様の静養を兼ねてオランダを訪問されました。皇太子様の私的な外国訪問は異例ですが,オランダ行きを決断された経緯やお気持ちについて詳しくお聞かせください。雅子さまの回復には,なお時間がかかるとの見方もありますが今後もこうした形での外国訪問をお考えになられますか,併せてお聞かせください。
皇太子殿下

外国訪問については,昨年は,3月のメキシコでの世界水フォーラムへの出席や8月のオランダでの静養,そして,9月のトンガ国王陛下のご葬儀への出席などがありました。外国訪問は,日本と諸外国との友好親善の増進や国際会議への出席など重要な活動であると認識しており,今後とも重視していきたいと思います。オランダ訪問については,かねてよりオランダのベアトリックス女王陛下からの有り難いご招待を頂いていたことや,幼稚園の夏休みの期間がオランダ側にとっても都合が良かったこと,両陛下より,温かいご理解を頂いていたこと,さらには,オランダに行くことが雅子の治療上も意味あることというお医者様の意見があったことなどが重なって実現に至りました。オランダ行きは,私たちにとって,オランダ王室の方々と交流でき,また,有意義な体験でした。また,雅子の治療にとっても有益であったと思いますし,愛子にとっても様々な新しい経験をすることができ,良かったと思っています。なお,このような形での外国訪問の計画は,今のところ考えておりません。

問5 羽毛田長官は去年暮れの記者会見で,雅子さまの長期静養を踏まえ,ご夫妻での分担など公務の見直しの必要性について言及し,皇太子様とお話ししたいと述べました。秋篠宮様は去年の記者会見で,天皇陛下の公務の大変さに言及されています。羽毛田長官と公務の見直しについてどのような話をされたのか,皇太子さまが公務についてどのようなお考えをお持ちか,ご自身のライフワークなどへのお気持ちも含めてお聞かせください。
皇太子殿下

すべての公務には,「天皇陛下をお助けしつつ,国民の幸せを願い,国民と苦楽を共にしていく」という皇室のあるべき姿が基礎にあります。その上で,これをどのようにやっていくかについては,今までの公務を大切にしながら,今後,我が国内外の変化によって重要性を増す分野の事柄について,新たな要請がある場合には積極的に考えていきたいと以前にお話をしました。そして,私が当面重視している具体的な分野としては,以下の4つの分野を指摘しました。それらは,環境問題,子どもと高齢者に関する事柄,国際的な文化面での交流と諸外国との友好親善の増進,我が国における産業・技術面での様々な新しい動きについてです。

我が国内外の変化によって重要性を増す分野の事柄について,あえて一例を申し上げれば,冒頭にも述べました水の問題へのかかわりが挙げられます。私自身の研究分野である水運の問題も水問題の一翼を担うものであり,世界水フォーラムの場において,日本の水運についてのお話ができたことをとても嬉(うれ)しく思っております。水に関して言えば,水運の研究は私の個人的な研究テーマでもありますので,研究を更に今後深めていき,それが公務を果たす上で幾らかでも役立てることができればと思っております。

ライフワークのご質問がありましたけれども,今も触れましたように,水上交通の歴史の研究は今後とも続けていきたいと思っております。日本のみならず外国にも視野を広げて,人や物の動きを歴史的に研究することによって,現代における新しい動きや交通を媒介とした人と人とのコミュニケーションなどについても理解を深められたらと考えております。

雅子との公務の分担については,そもそも公務と言いましても個々の活動内容が異なり,公的な性格にも濃淡がありますので,ケース・バイ・ケースで検討して,その検討過程で二人で行うか,私単独か,あるいは雅子単独での活動となるかという答えが自然と出てくると思います。ただ,公務には,ご招待いただく側からの要請があるわけですので,今まで,そのほとんどが私たち二人へのものであることをよく考えて,結論を出していくことが大切だと思います。いずれにしましても,まだ雅子は病気療養中ですので,公務の分担の話は,雅子が回復してからの話だと思います。

私としては,一日一日を大切にしながら,皇太子として,今行うべき仕事に邁進(まいしん)していく所存です。

<関連質問>
問1 今,殿下が最後におっしゃった,皇太子としての一日一日を邁進(まいしん)していきたいとおっしゃったお言葉がありまして,その前に皇室のあるべき姿として,天皇陛下をお助けしつつ国民と苦楽をともにするというお話しがありまして,殿下ご自身が皇太子という立場の重み,あるいは誇りというものを,これまで昭和陛下,あるいは今上陛下からそういうお話を,皇太子としてのお立場の重みや誇りについてお話をされたことがあるのか,あるいは,ご自身,その重みというのは一番どういうときに感じられるのかということを何か具体的なエピソードを交えてお話しいただければと思いまして,質問させていただきます。
皇太子殿下

私は,幼少のころから昭和天皇のところに今の両陛下とご一緒に上がる機会がいろいろ多くありましたけれども,そのような折に,今の陛下が皇太子としていろいろなことをやっておられる,そういうことを強く感じましたし,それから幸い日常の生活においても,公務によっては成年に達していないと出られないような公務もあるわけですけれども,外国のお客様ですとか,いろいろな方が来られた時に私もご一緒させていただく機会がありまして,そのような折に,今の陛下から皇太子としての在り方というものはこういうものなんだということを,いろいろと小さいころからご一緒することによって学ばせていただいたという感じを強く持っています。

具体的なエピソードというと,それは難しいですけれども,その折々に今の陛下のなさりようを拝見しながら皇太子というのはやはり天皇陛下をお助けして,そして,いろいろな公務に取り組んでいく,そういったことを今の陛下からお側(そば)にいながら学んできたように思います。

問2 オーストラリアで出版されました「プリンセス・マサコ」という本について,宮内庁と外務省で皇室の方々のご活動やお姿について,明らかに事実と違う部分があり,また妃殿下のご病気についても非礼な記述などがあるとしまして,著者と出版社に対し抗議をされたことをご存知かと思います。両殿下でこの本をお読みになられたことはありますでしょうか。また,この件について思っていらっしゃること,お考えなどがありましたらお話しください。
皇太子殿下

この本については,私は読んでおりませんけれども,内容については,東宮大夫の方からも話を聞いておりますので,大体内容については,把握しているつもりです。ただ,このことについては政府が対応しておりますので,私からそれ以上のことを申し上げることはありません。

問3 3問目の質問の中で愛子様のご様子について,幼稚園に入られてから大きく成長されたと殿下がおっしゃっていたのですが,具体的なエピソードというか,幼稚園に入られてからどういう面でより顕著なご成長が感じられるのか,お聞かせいただきたいのですが。
皇太子殿下

やはり,今までの生活と比べて幼稚園という大きな集団に入って,そこで友達もできて,友達とのお付き合いの中からいろんなことを学んでいるように私には思われます。その中で,特に友達への思いやりみたいなものですね,誰かが休んでいたりするととても心配をしたりとか,誰々がちょっと怪我(けが)をしちゃったけれども大丈夫だっただろうかとか,そういうふうな人に対する思いやり,人のことに対する心配というか,そういうことを折々に私も愛子から聞きまして,成長しているんだなというふうに親としても嬉(うれ)しく思うわけです。

皇太子殿下のお誕生日に際してのご近影

(参考資料)

水に関連するご公務の例

世界水フォーラムに関連する行啓

【地方行啓】

平成15年3月15日~17日 京都府行啓
3月16日 第3回世界水フォーラム開会式ご臨席
皇太子殿下記念講演
「京都と地方を結ぶ水の道
-古代・中世の琵琶湖・淀川水運を中心として-」
水と気候変動分科会ご臨席
3月17日 第3回世界水フォーラム
水と交通分科会ご臨席
平成15年3月23日~24日 京都府行啓
3月23日 第3回世界水フォーラム
閉会式ご臨席

平成18年2月14日埼玉県行啓見沼通船堀等ご視察

【外国ご訪問】

平成18年3月15日~21日 メキシコ国ご訪問(カナダ国お立ち寄り)
3月16日 第4回世界水フォーラム開会式ご臨席
3月17日 全体会合において基調講演
「江戸と水運」

【今後の予定】

平成19年12月3・4日 第1回アジア・太平洋水サミット(大分県)

その他昨年の水に関連する行啓
平成18年2月28日 「東京エコシティー新たなる水の都市へ」展ご覧
(東京都江戸東京博物館)
平成18年7月4日 東京都水道施設ご視察
(朝霞浄水場(埼玉県朝霞市))
(東京都水道局本郷庁舎(水運用センター,水質センター,水道歴史館))
平成18年7月30日 第30回「水の週間」ウォーターフェア'06東京「水の展示会」ご覧
(科学技術館)
平成18年10月4日 「水辺の都市空間」ご視察
(隅田川・東京港(水上バスご乗船))
水に関連する主なご接見・ご進講・ご説明
平成13年6月6日 世界水会議会長ムハマド・アブザイド
第3回世界水フォーラム運営委員会会長橋本龍太郎
平成14年1月21日 第3回世界水フォーラム事務局長尾田榮章
平成14年4月22日 ナイル川流域水閣僚会議参加水資源大臣
平成14年11月20日 東京大学教授虫明功臣
平成15年4月7日 第3回世界水フォーラム運営委員会会長橋本龍太郎
平成16年12月10日 統合水資源管理に関する国際会議出席者及び
国連水と衛生に関する諮問委員会出席者
平成17年10月25日 第4回世界水フォーラムに向けた
アジア・太平洋地域会議出席者
平成18年1月23日 国土交通省河川局長渡辺和足
日本水フォーラム事務局長尾田榮章
平成18年3月7日 日本大学名誉教授三浦裕二
平成19年2月7日 日本水フォーラム事務局長竹村公太郎