皇太子殿下お誕生日に際し(平成18年)

皇太子殿下の記者会見

会見年月日:平成18年2月21日

会見場所:東宮御所

皇太子殿下のお写真
記者会見をなさる皇太子殿下
(写真:宮内庁)
問1 この1年,国内外で様々な出来事がありました。特に皇室では,天皇皇后両陛下のサイパン慰霊訪問や清子さんのご結婚などがあり,2月には秋篠宮妃紀子様のご懐妊の兆候が明らかになりました。こうした出来事やご慶事を振り返り,具体的なエピソードを交え,率直なお気持ちをお聞かせください。
皇太子殿下

この1年間,国の内外で様々なことが起こりました。まず,この冬の雪害では多くの方々が亡くなられ,心を痛めております。亡くなられた方々へ心から哀悼の意を表するとともに,被害に遭われた方々に心からお見舞いを申し上げます。

昨年6月には天皇皇后両陛下がサイパン島を訪問されましたが,戦後60年に当たり,先の大戦によって命を失ったすべての人々を追悼され,平和を祈念されるものでした。お心を込めて慰霊をされているお姿に心を打たれるものがありました。

昨年の3月から9月にかけては,愛知万博が,国内外から多くの来場者を迎え,成功裡(り)に閉幕したことは大変うれしいことでした。私は,かつて昭和45年の大阪の万国博覧会と平成4年のスペインのセビリアで行われた万国博覧会に行きましたが,今回の愛・地球博はそのいずれとも異なり,環境問題を前面に打ち出し,各国での取組を紹介し,その結果として,多くの人々が地球の将来に思いをはせ,環境について共に学ぶ良い機会になったと思います。大阪万博ではあの太陽の塔がシンボルでしたが,今回の愛・地球博ではシンボルは会場の森であったような気がします。いずれにしても,とても意義のある博覧会になったように思います。

7月には,知床が国内では3番目の世界自然遺産に登録されたこともうれしく思っています。殊に,知床には雅子と一緒に結婚の翌年の平成6年に訪れ,羅臼岳の登山など,自然のすばらしさや奥深さに感動した思い出があるだけに,知床の生態系の希少さが,多くの人々に広く理解され,この地域の自然が末永く大切にされることを心から願っています。

11月には,妹の清子が結婚しました。その時は,清子が皇室を離れることに一抹の寂しさを覚えましたが,幸せそうな様子に兄としてとてもうれしく思っています。少しずつではありますけれども,新しい生活にも慣れてきたと思いますが,末永い幸せを祈っています。

昨今,子供が犯罪や災害の被害者になるというニュースが多いことには心が痛みます。子供は古くから世の宝ともいわれます。子供たちが安心して健やかに育っていくことができるような世の中であることを心から願います。子供たちのために良い環境をつくっていくことは,大人や社会の大切な責任だと思っています。

つい先ごろ報じられた秋篠宮妃の懐妊の兆候は,私たちにとっても大変うれしいことです。秋篠宮から電話で報告を受けましたので,私からは,「それは良かった。」ということと「お大事に」ということを伝えました。ただ,まだ正式に発表できる前の段階だと思いますので,殊に今は,静かな環境が保たれることが大切なのではないかと思います。私たち二人共に順調な経過を心から願っています。

現在行われているトリノでのオリンピック競技も,折々にテレビで観戦しています。時には録画したものを愛子と一緒に見ることもあります。4年間,このオリンピックの舞台に向けて厳しい練習を重ねてきた選手のたゆまぬ努力を思い,健闘を祈っています。

問2 敬宮愛子様が今春,学習院幼稚園に入園されます。最近のご成長振りについてお聞かせください。殿下ご自身が受けられた皇族としての教育を振り返りつつ,教育方針についてもお聞かせください。
皇太子殿下

愛子も4歳を迎え,今年の4月からは学習院幼稚園に通うことになりました。この場をお借りして,多くの国民の皆さんに温かく見守っていただいていることに心から感謝いたします。今年度は「こどもの城」での同年代のお子さん方とのグループ活動を通じて,様々なことを経験し,刺激を受ける良い機会となっていると思います。また,東宮御所での体操教室や「こどもの城」が休みの期間に音楽教室も継続して行っておりますが,少し年齢の幅のあるお子さんたちと一緒の活動も意義あるものと思っています。

最近は,いろはガルタや神経衰弱などをよくやっており,正月には餅(もち)つきやカルタ,凧(たこ)揚げ,コマ回しなど昨年に引き続き行いました。愛子にも日本の良き遊びを経験してもらうことができたと思います。昨年は,菜園で野菜を育てることを通して,植物の成長を見守ることや収穫の喜びを体験できたように思います。ともかく毎日,水やりに菜園に行っていることに感心しました。今はイチゴが採れるのを楽しみにしています。菜園で収穫したものは両陛下の所にお持ちしたり,あるいは友達にあげたりして,みんなと分けることも楽しんでいるようです。

私たちや周囲への心遣いもかいま見ることがあります。雅子が昨年の12月の誕生日の夕方に風邪で寝込んだ時も,その前に自分が風邪をひいたときによくしてもらったので,という意味のことを言って雅子の寝室にバースデーケーキを持って見舞いに行ったり,「こどもの城」で,年下のお子さんに「愛ちゃんができないときにだれだれちゃんがしてくれたから」と言いながら手を貸したりすることがあるようです。ちなみに,今年の元旦に御所に上がる折に,門の所で一般の方や記者の皆さんが立っているのを見て「みんな寒い所で立っているからわんちゃんの手を振ってあげるの」と言っていたようです。

大相撲にもとても興味を持っており,私たちや職員と相撲を取るときに相撲の技を再現したりしています。また,相撲の本の力士の四股名(しこな)に付けられた振り仮名の部分を読んで,力士の上の名前と下の名前をよく覚えています。例えば横綱朝青龍であれば朝青龍明徳というようにです。それを平仮名で書いてみたりもしています。力士の名前については正直私もかないません。また,相撲をテレビで観戦しながら「だれだれに,星がついたよ,うれしいな」と七五調の文を作るなどしています。子供の好奇心や子供らしいユーモアを大切にしながら,意欲や自主性を大切に見守っていきたいと思っています。

一方,4歳という時期は,自己主張も強くなる時期と聞いておりますが,社会のルールやマナーは大切ですので,徐々に教えて,身に付けていってもらうことが大切であると考えています。子育てに経験豊富な私たちの両親の世代のアドバイスも大切にしながら,同世代の親御さんと子育てにまつわる情報を共有することも必要でしょう。

外出なども外の世界を知る良い機会となっていると思います。また,東宮御所へお客様が来られた時もご挨拶に出る機会も多くなりました。度々,御所へうかがうこともありますが,大変楽しみにしているようです。幼稚園入園まで間もないのですが,それまでの期間を大切にし,なるべくいろいろな経験をさせてやりたいと思っています。

皇族としての教育ということについては,もう少し先の段階だと思います。私自身が幼稚園に入園する段階では,一人の子供として成長することに重きが置かれたように思います。ただ,幼稚園という初めての集団での学習をする場に入るのに当たって,今の両陛下がいろいろと心を砕いてくださったことは記憶にあります。殊に,幼稚園に入ってほかの子供たちと一緒に楽しく遊べるような体力を付けること,例えば跳んだり跳ねたり走ったり,あるいは木に登るなど,そういうふうなことをいろいろと考えていただけたと思います。また,学校の方針を信頼して,すべてをゆだねてくださったことも有り難いことと思っています。

幼稚園の年少組のころの記憶は断片的ですが,ありますので,そのような年齢に子供が達しつつあることに一種の感慨を覚えます。雅子も育児に心を砕いており,二人で話し合う機会も多く持つようにしています。これからは,学習院幼稚園の先生方の教育方針を尊重しつつ,愛子が幼稚園では同世代の子供たちとの遊びを通して社会のルールを始め様々なことを学び,健やかに成長していってほしいと願っています。

問3 雅子様の最近のご様子と今後のことについてお聞きいたします。昨年12月,「東宮職医師団の見解」が出されました。殿下はこの見解をどう受け止められましたか。子育てと公務の両立や,ライフワークになるような活動,研究,それらを公務にいかしていくのか,医師団見解の提言を実現させるために,殿下の具体的なイメージをお聞かせください。
皇太子殿下

雅子はお陰様で少しずつではありますが,順調に回復に向かっていると思います。天皇皇后両陛下を始め多くの国民の皆さんに温かく見守っていただいていることにこの場をお借りして心からお礼を申し上げます。昨年12月に雅子の最近の様子ということで,医師団の見解が発表されたのは,病名と治療方針,現在の病状及び今後の課題について国民の皆さんに理解していただくためで,これはあくまでも医師団の専門的な判断に基づいて行われたものです。私ももちろんこの判断を尊重しています。雅子もお医者様の治療方針に従って,努力していますし,私もこれからも支えていくつもりです。雅子は皇族としての自身の役割と皇室の将来を真剣に考え,これまでも努力してきましたし,現在もそのように考えて行動しており,私もそれに支えられています。環境の改善を勧めた医師団の見解は,こうした私たちの努力を更に実現していくために有意義なものであると考えてのことと思っています。

私自身雅子には今までの経験をいかしたライフワーク的なものが見つかると良いと思っています。私自身が主として,今まで水上交通史を研究しており,そのことが,いわばライフワークになりつつあることが,いろいろなことをする上で,支えになっているように思うからです。また,乗馬やテニスを始めとした運動も治療の一環として行っておりますが,それも良い効果を上げているようで,今後も続けてほしいと思っています。

お陰様で,雅子は順調に回復しておりますが,まだ回復の途上にあることを皆さんにもご理解いただき,静かに温かく見守っていただければと思っております。

問4 昨年の会見では,公務の新たなテーマとして,環境や福祉,子供の教育,国際文化交流などを挙げられるとともに,ご夫妻それぞれ別の公務をこなされていくケースも有り得るとの考えを示されました。こうした公務の見直しについて,なぜ変える必要があるのか,どのような形で,どのように変えていくのか具体的にお聞かせください。
皇太子殿下

公務についての考えは昨年の会見でもお話しましたのであえて詳しくは申しません。公務については,今まであった公務はそれぞれ意義深いものとして行われてきておりまして,大切にしていきたいと思っています。また一方で,皇室が今まで時代にあった,あるいは時代に先駆けた公務をしてきたことを考えますと,やはり今の時代にできること,私たちの世代だからできるものを真剣に考えていくことも必要ではないかと思います。それらはもちろん公務をしながら見いだしていけるものと思います。これに関して,以前の会見でお話したことが,今までの公務をやめるように一部で誤解された節がありますが,そのようなことはないので申し添えておきます。

雅子の公務については,今少し,体調が回復し,公私にわたる様々な活動をしていく中で考えていくことになるのではないでしょうか。また,雅子の場合,最近も幾つかの公務を行いましたが,これはあくまでも回復のための足慣らしの意味もありますので,そのあたりのことを皆さんにはお分かりになっていただきたいと思います。

問5 「皇室典範に関する有識者会議」が最終報告書を提出し,女性・女系天皇を容認する方針が示されました。今後の皇室のあるべき姿に関する考えや敬宮愛子様の将来について,父親としてのお気持ちをお聞かせください。
皇太子殿下

「皇室典範に関する有識者会議」が最終報告書を提出したこと,そしてその内容については,私も承知しています。親としていろいろと考えることもありますが,それ以上の発言は控えたいと思います。皇室のあるべき姿としては,私は,以前から申し上げているように,皇室の伝統を尊重しながら,天皇陛下をお助けしつつ,国民の幸せを願い,国民と苦楽を共にしていくことだと思います。これは時代を超えて存在するものと思います。宮中で行われている祭祀については,私たちは大切なものと考えていますが,雅子が携わるのは,通常の公務が行えるようになってからということになると思います。

愛子には,一人の人間として立派に育ってほしいと思います。名前の通りに,人を愛し,人からも愛される人間に成長してもらえればと願っております。

<関連質問>
問1 殿下がお答えいただいた愛子様とですね,トリノオリンピックについて,テレビ観戦しておられるとおっしゃったんですけれども,愛子様が興味を持って見られているのはどんな競技があるんでしょうか。
皇太子殿下

今まで一緒に見たものとしましては,スノーボードのクロスですとか,それからスピードスケート,それからスキーの大回転などがありますね。何かとても興味を持って見ているようです。

問2 愛子様が今度幼稚園にご入園されるということなんですけれども,愛子様ご本人が幼稚園を楽しみにしているようなご様子をお聞かせいただきたいのと,それから,幼稚園入園に当たって,学習院幼稚園を選択されたということなのですが,一番教育環境がいいということで選ばれたのだと思うのですけれども,そのあたり,学習院幼稚園を選んだ理由についてお聞かせいただきたいと思います。
皇太子殿下

愛子もどの程度その辺がわかっているかは私もわかりませんけれども,ともかく4月から今までとは違う環境で,幼稚園という所に通うということは少しずつわかってきているように思います。そして,本人の言うことの節々に,幼稚園が楽しみだというふうなことを,私は感じ取ることができます。

愛子が幼稚園に進むに当たっては,私も親として,どの幼稚園に行くことが本当に本人にとって幸せなことだろうかということを一番の大きな課題として考えてきまして,いろいろな方のご意見ですとか,それから実際にいろいろな調査をしてみました。

その結果としてやはり学習院幼稚園が,愛子に今後いろいろなことを学んでいくのに一番いい場所なのではないかというふうなことを結論に達したわけです。学習院の方でも,愛子が入園をすることを許可していただいたことを大変うれしく思っております。

問3 お祝いのお話の方なのですが,紀宮様がご結婚されて,幸せそうだとおっしゃいましたが,具体的にこんな風景を見て幸せそうだとか何か印象に残っていることがありましたら教えてください。
皇太子殿下

そうですね。まず一つは結婚式の当日ですね。その日の二人の様子を見ていたときにそのようなことを感じましたし,それから結婚式の後でも何回か会う機会がありましたけれども,その際に二人で交わしているいろいろな会話ですとか,本当にそのときの二人の様子から,これは本当に幸せなんだなということを感じました。