皇太子殿下お誕生日に際し(平成14年)

皇太子殿下の記者会見

会見年月日:平成14年2月20日

会見場所:東宮御所

皇太子殿下のお写真
記者会見をなさる皇太子殿下
(写真:宮内庁)
問1 この一年を振り返って印象に残った出来事,その感想をお聞かせください。
皇太子殿下

この一年,国内にあっては失業率が高まるなど,国民にとっても大変な一年ではなかったかと思います。また,狂牛病の牛が発見されたことも多くの人々にショックを与え,酪農,畜産農家の方々の御苦労も一方ならないものがあったのではないでしょうか。一方,痛ましい事故,事件として,宇和島水産高校の実習船がハワイの沖合でアメリカの原子力潜水艦と衝突した事故,大阪の池田小学校での痛ましい事件を始め,様々なことがありました。また,三宅島の噴火により避難を余儀なくされている方々にも,避難生活が長くなってきており心配をしております。日本の経済が一日でも早く立て直され,人々の生活が良いものとなることを念願せずにはいられませんし,人々が安全に暮らせる社会であることを願わずにはいられません。

一方,海外では,昨年の9月11日にアメリカで起きた同時多発テロは全世界に大きな衝撃を与えましたが,多くの尊い命が失われたことは大変残念なことでした。それに引き続いて,アフガニスタンには空爆が行われましたが,現在アフガニスタンでは暫定政権の下,諸外国からの援助や協力の下,新しい国づくりが行われております。アフガニスタンの地に一日でも早く平和が訪れることを願わずにはいられません。イスラエル,パレスチナを巡る中東情勢も混迷を深めてきており,今後のことが心配です。

また,今年はヨーロッパでユーロが単一の通貨として流通し始めた年です。私がちょうどオランダに行く直前に,オランダではオランダ固有の通貨であるギルダーが最終的にユーロに取って代わられました。私はかつてイギリス留学中にヨーロッパ諸国を訪れる機会がありましたが,そこで感じたことは,国が一つ違えばたとえ隣り合っていても異なった風土や文化がある,言い換えれば国ごとに独自の個性があるということを認識しました。そのような個々に個性を持った国々が,今ユーロという単一の通貨で結ばれていることに,ヨーロッパの今というものを見たように思いました。

このほか,うれしいニュースとしましては,大リーグにおけるイチロー選手などの活躍,そして一昨年の白川博士に引き続いて野依教授がノーベル賞を受賞されたことが挙げられます。また,現在行われているソルトレーク・シティー冬季オリンピックでの選手の活躍も強く印象に残っています。

また,昨年には私たちに子供が生まれ,新しい家族の一員が加わりました。

問2 敬宮様が誕生されましたが,改めてその時の喜びと,生活の中で新たに発見,感動されたこと,命名に当たって「敬宮(としのみや)」「愛子(あいこ)」の文字や読み方に込められたお気持ちなどをお聞かせください。また,普段はお子様をどのように呼んでいらっしゃいますか。
皇太子殿下

昨年の12月1日に無事に子供が生まれたことを,大変有り難く思っています。天皇皇后両陛下を始め今まで温かく見守ってくださった多くの方々に,心からお礼を申し上げたいと思います。また,本当に多くの方々に祝っていただいたことに感謝いたします。新しい生命が誕生するということは,実に神秘的なことで,大きな感動を伴ったものでした。雅子には,本当に「御苦労様」という気持ちです。正直言って子供の姿を見るまでは,父親になるということは実感として湧(わ)きませんでしたが,生まれた子供の元気そうな様子を見て,初めてそれを実感したように思います。それとともに,この子供を今後大切に育て,守っていくことの責任を強く感じています。

ところで目を世界に向けてみますと,世界の各地では,多くの新しい命が,紛争や飢餓などにより失われたり危険にさらされたりしています。また,国内でも幼児の虐待は,大きな問題となってきています。多くの人々に祝福されて生まれてきた子供の親として,幼児を取り巻く環境がより良いものとなるよう,子供たちが温かく見守られ,安心して暮らせる,平和な世の中が実現することを願わずにはいられません。

子供の方は,お陰様で健康で順調に育っており,最近では,表情も豊かになって,声を発したり,それから笑ったりする回数も増えてきています。体も一回り大きくなったような感じがしまして,こういったことの中に,成長の様子をうかがうことができうれしく思います。子供とはこんなに可愛いものだったかと,改めて知ることになりました。

子供の命名に当たっては,漢文学や国文学の専門の方々から,複数の候補を挙げていただきました。子供は自分の名前を選ぶことはできませんし,また,名前はその人が一生共にするものですので,私たち二人も,真剣にそれらの候補の中から選びました。選考に当たっては,皇室としての伝統を踏まえながら,字の意味や声に出した響きが良く,親しみやすい名前が良いというふうに考えました。両陛下には,私たちで考えるようにと,すべてをお任せいただいたことを大変有り難く思っています。候補の中では,孟子の言葉が内容としてもとても良いように思いました。また,敬と愛の二文字が入っているのも良いと思いました。いつの時代でもそうですが,とかく人間関係が希薄になりがちな今の世の中にあって,人を敬い,また人を愛するということは,非常に大切なことではないかと思います。そしてこの子供にも,この孟子の言葉にあるように,人を敬い,人からも敬われ,人を愛し,人からも愛される,そのように育ってほしいという私たちの願いが,この名前には込められております。

字の読み方については,歴代の天皇,皇后はもちろんですが,そのほかの過去の,そして現在の皇室の方々のお名前と字が重複したり,また読みが同じだったりすることを避けるようにし,その中から私たちの考えを基に候補を出してくださった専門の方々と御相談して決めました。普段の呼び方については,愛子の名前を基に幾つかのバリエーションがあります。

問3 敬宮様の養育や教育方針について,御夫妻でどのように話し合いをされていますか。今後,敬宮様が成長していく姿をどのようなかたちで国民に伝えていくのか,考えをお聞かせください。
皇太子殿下

まだ,生まれて3か月も経(た)っていませんので,今後の養育や教育の方針については,二人でいろいろと相談して考えていきたいと思います。父親,母親としては何しろ新米ですので,いろいろな方々の御意見を参考にすることもあるでしょうし,また,子供からも多くのことを教わると思います。ただ,子供には,親である私たちができるだけの愛情を注いで育てていくことが,何よりも大切なことではないかと思います。また,私は父親としてできるだけ子育てにかかわっていきたいと考えています。幸い,これまでも大変健康に育っていますので,今後とも良い折を見て子供の成長過程を国民の皆様にお知らせしていきたいと思っています。

問4 敬宮様誕生に際し,二日間で12万人もの記帳者が訪れたことをどのように受け止められましたでしょうか。国民が両殿下のお人柄に触れる機会は現状では限られています。国民の祝意に今後どのような公務や活動で応えていきたいとお考えでしょうか。
皇太子殿下

敬宮愛子内親王が多くの方々から温かく迎えていただいたということを大変有り難く思っています。正直言ってこれだけ多くの方々が,記帳してくださったということに内心驚くとともに,愛子内親王がたくさんの方に祝福していただいていることを,親としてとてもうれしく思いました。皆さんからの祝意におこたえする意味でも,この子供を立派に育てることの責任を強く感じています。私たちは今後とも国民と共にある皇室を念頭に置きながら公務をしていきたいと思いますが,前からお話しているように,国民にとって皇室が何を求められているかを感じ取っていきたいと思います。また父親,母親になった私たちとして,子供を取り巻く様々な問題にも理解を深めていきたいというふうに考えています。

問5 高松宮妃喜久子様が月刊誌の寄稿で女性の皇位継承を認める皇室典範改正について「不自然なことではない」と発言をし,元気なうちにあと2遍でも3遍でも喜びの歌を詠んで差し上げたい,雅子様は私の望みにもきっと再びお応え下さるだろうと思います,と男児出産への期待をにじませる反面,過度の期待が心理的負担となってはならないと書いています。手記を読まれて殿下はどのような感想をお持ちでしょうか。
皇太子殿下

高松宮妃殿下の記事は,私も大変深い感慨を持って読ませていただきました。妃殿下のお心遣いに心からお礼を申し上げたいと思います。皇室典範の改正の問題については,ここでは発言を控えさせていただきたいと思います。

<関連質問>
問6 殿下,ただ今のお答えの中でですね,多くのことを愛子内親王から教わることと思いますというふうにおっしゃいました。記帳の数が大変多いことに驚かれているというお話もありましたけれども,皇室が何を求められているか,ということを感じ取っていきたいというお言葉の中でですね,今回の御誕生と,それから祝賀の数の多さというところでですね,新しく求められているものとして,感じ取られたこと,考えられたこと,ございましたらお聞かせ願えますでしょうか。
皇太子殿下

今申し上げたように,本当にこの記帳に来られた方の数が多かったということ,私も本当に内心驚きましたし,これは本当にこの子供を,先ほど申し上げたように本当に大切に育てていかなければいけないという,そういうふうな責任感を強く感じています。私としては,本当に今後そういう子供を育てていくことによって,そういう皆さん方の期待にこたえていくことができたらというふうに考えているところです。

問7 御公務について何か変わるようなことがございますでしょうか。
皇太子殿下

公務については,今までしてきた様々な公務もありますけれども,今後もまた,新しい公務というのがいろいろ出てくると思うのです。先ほどもお話したように,父親になった私として,子供を取り巻く様々なことにも,今後理解を深めていきたいと思っていますし,何か子供に関する公務というものも,今後増えてくるのかなという感じもいたしますけれども,そういうものが来ました時には,積極的に私もやっていきたいというふうに思っています。