皇太子殿下お誕生日に際し(平成13年)

皇太子殿下の記者会見

会見年月日:平成13年2月15日

会見場所:東宮御所

皇太子殿下のお写真
記者会見をなさる皇太子殿下
(写真:宮内庁)
問1 この1年,また20世紀を振り返り,印象に残った出来事をお聞かせ下さい
皇太子殿下

新しい世紀を迎えて,20世紀を振り返ってみますと,そこにはいろいろな事があったと思います。世の中が,大きく変わった20世紀を一言でくくるということは,非常に難しいことですが,まず,20世紀には二つの大きな戦争があったということが挙げられます。戦争の悲惨さや平和の尊さについては,両親である天皇皇后両陛下から,折に触れて伺っており,私も生まれる前のこととはいえ,今後とも,このような戦争が二度と繰り返されることの無いように,心に刻んでいかないといけないと思っております。そして,戦後は,東西の体制間の長い冷戦の時代を経ました。1989年の冷戦の終結は,一つの新しい秩序を生み出すかに思えましたが,新たなる民族紛争や地域紛争を引き起こしています。20世紀には,戦争や紛争により多くの一般の人々が犠牲になったことは,悲しいことでした。他方では,この世紀には,民主主義が広がり,また,世界の各地で植民地だった地域の多くが独立をしました。ちなみに,私の生まれました1960年に独立したアフリカの国も幾つかございます。また,工業化の進んだ国では,経済的に発展し,豊かになりました。そして,交通や通信技術の目覚ましい発達により,人々の往来が活発になり,物・サービスも国境を越えて移動して,この結果,世界は驚くほど小さくなったと言えると思います。しかし,工業化の進展は,一方で,特に近年において,深刻な環境問題を生み出しております。20世紀はまた,科学技術が発達した世紀とも言えると思います。戦争との関係では,人類は,核兵器という瞬時にして人類を滅亡させることのできる兵器を発明しました。これからの世紀では,核の安全な利用ということも大きな課題になってくると思います。そして,ここには科学者を含む人類の叡(えい)知が求められます。また,遺伝子の研究の発達により人間の遺伝子を解読することも可能となり,また,遺伝子の組替えによる最先端の医療も行われつつあると聞いております。いずれにせよ,このようなものは生命の倫理の問題とも大きく関係しますので,今後この面においても人類の叡(えい)知が求められるものと思います。

コンピューターの発達も20世紀後半の大きなことだったと思います。私が幼少のころは,コンピューターといいますと大型の機械で,自分にはとても扱えないものだというような印象を持っておりましたが,今やそれが非常に小型化され,使うのが当たり前になってきました。インターネットの普及によりまして,膨大な情報がどんなに離れたところにも瞬時にして送ることができるようになったということは,本当に画期的なことだと思います。また,私も原稿を書く時にはパソコンを使っておりますけれども,私が小さいころはがり版刷りで,そう言うと世代がばれてしまいますけれども,いちいち鉄筆を使用して原稿を作成し,時には手を黒くして印刷したことを懐かしく思い出します。もっとも,その当時にも和文タイプはあったわけですけれども,これは操作が複雑でとても私には使えないと思いました。当時は英文のタイプライターはありましたので,英文ではきれいな活字が打てたわけですけれども,なぜ和文は難しいのだろうということを幼心に思ったものでした。それが今や,ワープロやパソコンを使用することによって,いとも簡単に活字の文章が打てるようになり,これは大変大きな変化であったと思います。

私自身が記憶している大きなこととしましては,私が4歳の時の東京オリンピックがまず挙げられます。体操や水泳の競技などを見に行きましたけれども,世界のたくさんの国からいろいろな競技をする人が大勢集まる大きなスポーツの催しであるという印象を漠然と持ちました。そして,1970年の大阪の万国博覧会に及んで,世界の中の日本ということを幼心に認識して,世界にはいろいろな国があるものだと思ったことをよく記憶しています。

ほぼ同じころ,人類は初めて月に着陸しました。当時,天体観測が好きだった私は,初めて見る月面への着陸の様子,そして月面の様子をテレビで大変興味深く見たことを記憶しています。

また,沖縄が日本に復帰したニュースもよく覚えております。そしてまた,ベトナム戦争の終結も記憶しています。さきにお話ししましたように,第二次世界大戦のことについては,私の両親からもいろいろと聞いておりましたけれども,幼いころの記憶としまして,自分が生きている今のこの時代に,戦争が行われているということに驚きを覚えました。ピューリッツァー賞を受賞された沢田教一さんが撮影された「安全への逃避」と題するベトナム戦争の写真を見たことが,戦争というものとの関係で深く私の脳裏に刻み込まれております。それからしばらく時は経(た)ちますが,ソ連邦が解体し,冷戦が終結したことは大きな出来事だったと思います。私は冷戦が終結するしばらく前のベルリンを訪れて,ベルリンの壁を見ましたけれども,その時には,この東西を隔てるこのベルリンの壁が,それ以後数年して崩れるとは思ってもみませんでした。

記憶に残っている限りでも,私の幼いころは,日本の戦後の復興がある程度進んだ時代ではなかったかと思います。そしてそれが東京オリンピック,万国博覧会の開催に至り,その後石油ショックを経ながらも,経済成長を遂げましたが,やがてバブルの時代を迎えて,バブルの崩壊後は経済的にも社会的にもなかなか難しい時代に入ったというような印象を持ちます。

この一年間を振り返ってみましても,実に様々なことがあったと思います。まず,自然災害については,有珠山や三宅島の噴火がありました。これらの地域では,いまだに避難生活を送っている方々が,大勢おられることを大変お気の毒に思います。状況が早く良くなることを願っております。また,地震では新島,神津島でも長いこと地震が続きました。鳥取県西部を襲った地震もありました。また,東海地方の夏の大雨の被害も大変なものだったと思います。世界規模で見てみましても,エルサルバドルや最近ではインドでも大きな地震があり,多くの人々が亡くなったことも記憶に新しいことです。このほか,オーストリアでのケーブルカーの事故や,ハワイの沖合での宇和島水産高校の実習船の事故にも大変に心が痛みます。うれしいニュースとしては,昨年のシドニーのオリンピック,パラリンピックで日本選手団が活躍したことですとか,白川英樹博士がノーベル化学賞を受賞されたことがあります。昨年の6月には香淳皇后が崩御になり,小さい時から現在の天皇皇后両陛下と御一緒に,毎週のように吹上御所に伺いお目に掛かっていただけに,とても寂しい気が致します。

問2 21世紀という新たな時代を迎え,今後の皇室像をどう思い描かれ,そして,それに向け何か心に期されることがございますか。
皇太子殿下

皇室として大切なことは,国民と心を共にし苦楽を共にすることだと思います。これは時代を超えて受け継がれてきているものだと思います。20世紀の激動の時代を経て21世紀という新しい時代へ推移しましたが,そのような中にあって,時代の要請を的確に感じとり,物事の本質を見極め,精神的なよりどころとしての役割を果たしていくことが大切だと思います。皇室としての伝統を大切にしながら,そのようなことをしていくためには,国民が皇室に対して,何を望んでいるか,何を期待しているかを的確に感じとることが重要です。いろいろな面で国民との接点を広く持つことが大切になってくると思います。私もそのような点に留意しつつ,今後とも務めを果たしていきたいと思います。また公務の内容も時代ごとに求められるものがあると思います。時代に即した公務の内容というものも考えていく必要があるのではないかと思います。そして常に根底にあるのは,天皇皇后両陛下が常になさっているように,国民の幸せを願っていくことだと思います。

問3 妃殿下との8年近いご結婚生活を振り返られて,今後,どのような夫婦のご関係を築いていきたいとお考えでしょうか。
皇太子殿下

結婚してからこのかた雅子には皇太子妃として本当によくやってきてくれていると思い,心から感謝しています。私は夫婦というものは大切なパ-トナ-であると思います。うれしい時は共に喜び,困難に出会った時は,共に悩んで共に考えるということが大切です。また,私が今まで気が付かなかったことを教えてくれたり,物事に対する見方や関心の対象も結婚後広がってきたことも雅子のお陰だと思っております。夫婦生活を送る上で,共通の趣味を持つということも,とても大切なことだと思います。お互いの興味や関心を分かち合いつつ今後とも夫婦としての絆(きずな)を深めていきたいと思っています。

問4 外国訪問を始め両陛下は公務が多忙で,昨年は皇后様は体調を崩されたこともありました。両殿下は平成6年から7年にかけての中東諸国の訪問以来,外国への親善訪問がありませんが,殿下ご自身は,今後,皇室の中でどのような役割を果たしていくべきだとお考えでしょうか。
皇太子殿下

昨年,皇后陛下には体調を崩され,私も心配をしておりましたが,快復されてほっとしております。両陛下のご公務については天皇皇后両陛下でなければ成されないものも多く,私たちを含むほかの皇族が代わることのできないものが多くあることも事実であると思います。しかし,両陛下のご日程が過度にならないように目配りをすることも大切だと思います。両陛下に過度のご負担をお掛けすることなくご公務をしていただく配慮が求められているのではないでしょうか。

外国訪問については,国民の皇室に望むもののうちの大きなものであるというふうに思いますけれども,機会があればいつでもお役に立ちたいと思っております。ただ外国訪問については私たちの一存では決められないものであることは,あるいは皆さんも御存じかもしれません。皇室の中での私の役割ですが,以前にもお話ししましたように,皇太子としての自分に何ができるかを常に考えながら天皇陛下をお助けし,皇太子としての務めを果たしていきたいと思っています。

問5 現在の日本は高齢化への対応や経済の回復など様々な課題を抱える一方,青少年の凶悪犯罪が増えるなど,若い人を取り巻く社会や家庭そのものにも大きな変化が現れているように思われます。こうした社会の困難な状況を殿下はどのように感じ,どのような点に関心を持っておられますか。
皇太子殿下

高齢化社会や青少年犯罪の低年齢化への対応は,今非常に重要な問題となってきていると思います。高齢化社会については,政府も様々な対策を考えていると思いますけれども,お年寄りが生きがいを持って暮らすことのできる住み良い社会が出来上がることを願っています。

また,青少年犯罪にも心が痛みます。殊に,若年層における凶悪な犯罪が増えつつあることも心配です。子供たちが社会のルールを守ることを家庭そして学校で教えることも大切である一方,子供たち一人一人が,自分たちが社会に受け入れられているということが実感できて,そして,将来に夢を持つことができる環境づくりも大切なのではないかと思います。個人的には,私自身の経験からも,小さい時から自然に触れ,生き物と接することにより,命の大切さを学ぶことも子供たちにとっては大切な勉強だと思います。お年寄りが明るく生きることができて,また,青少年にも希望を持って日々を送ることができる社会の実現が望まれます。

また,最近の情報通信技術の発展には目覚ましいものがあります。瞬時にして機械を通して多くの情報をやり取りができるようになったことは大変結構なことだと思いますが,一方で,今まで築かれてきた人と人との結び付きも引き続き大切にされるよう願っています。また,通信手段の発達は人々をより忙しくするようにも思います。ともすれば,どこにいても情報に追い回され,休む時間も取れなくなることもあるかもしれません。その辺りのことも,情報化の時代を迎え考える必要があるように思います。

<関連質問>
問6 殿下が2番目にお答えされた,将来の皇室像に絡むところのお答えに関連して質問させていただきたいのですが,殿下のお答えの中で今後の皇室像,皇室の仕事という点でとらえてよろしいのかと思うのですけれども,時代の要請に即した公務を考えていかなければいけないと,このようなお答えを頂きました。具体的に殿下の頭の中でですね,どういったお仕事が正にこれからの21世紀のですね,皇室の仕事としてよろしいものか,ふさわしいものと考えていらっしゃるのか,その辺について具体的にお話いただけないでしょうか。
皇太子殿下

私,以前から,その時代に即した公務をやっていくということが非常に大切なことではないかというふうに思っておりました。以前からずっと引き継がれていくような公務を続けていくことも私はとても大切なことだと思いますけれども,先ほども言いましたように,時代というものは,非常に大きく変わってきておりますし,その時代ごとに新しく生まれてくるような様々な動きというものもあるような気が致します。ですから具体的にどのようなことを,今,私が頭に描いているかということをお話しするのは難しいと思いますけれども,その時代ごとに,特にこれからの時代において,私なども,こういうものが今の時代に要求されているのではないかと思うようなものを見付けられたら,そういうものを積極的にやっていく事ができたらと思っています。