皇太子妃殿下のお誕生日に際し(平成12年)

皇太子妃殿下の記者会見

会見年月日:平成12年12月7日

会見場所:東宮御所

皇太子妃殿下のお写真
記者会見をなさる皇太子妃殿下
(写真:宮内庁)
問1 20世紀最後の今年,国内外でさまざまな出来事がございました。この一年を振り返りながら,皇太子殿下とともに新しい世紀の皇室像をどのように描かれていらっしゃいますか。
皇太子妃殿下

この一年を振り返ってみますと,今年も国の内外でさまざまな出来事があったと思います。国内では,北海道有珠山の噴火や三宅島の噴火といった自然災害がございました。これらの地域では,いまだに多くの方々が住み慣れた家から遠く離れ,避難生活を送っておられることを大変お気の毒に思っております。一日も早く山の活動が鎮まり人々が元の生活に戻ることができますことを祈っております。

このほかにも,東海地方の豪雨による被害ですとか,それからまた,鳥取県の西部を中心といたしました地震などの自然災害もございましたし,また,幾つかの痛ましい事故や事件にも心が痛みました。

今年の6月には,皇太后様が崩御(ほうぎょ)になりとても残念に思っております。結婚以来,時々,皇太后様のお住まいでございました吹上大宮御所に伺わせていただきましたことを懐かしく思い出しております。

うれしいニュースといたしましては,筑波大学の白川名誉教授がノーベル化学賞を受賞されたこと,また,シドニーでの夏のオリンピック,パラリンピック大会での日本選手の活躍などが挙げられると思います。シドニーのオリンピック,パラリンピックは私たちもテレビで観戦いたしましたけれども,今世紀の最後を飾るにふさわしい,人々に感動を与える大会だったと思います。

また,今年の夏には,サミットの会合が沖縄で開かれましたことも印象に残りました。海外に目を向けますと,中東和平の行方や,それからまた,世界の幾つかの国や地域で起こっております紛争には心が痛みます。これらの国や地域に一日でも早く平和が訪れることを祈っております。

また,最近では,地球環境に対する関心も高まっており,私たちの地球をこれからどう守り,どのように次の世代へ引き継いでいくかということについて地球規模で真剣に討議がなされていると思います。

また,最近では,IT革命という言葉も耳にするようになりましたが,コンピューターなどを利用した情報通信技術の革新に向けて,国の内外でさまざまな取組がなされていると思います。このように,一年を振り返ってみますと毎年本当にさまざまなことがあると思います。また,今年が20世紀最後の年ということで,この世紀について思いを巡らせてみますと,実にたくさんの出来事があり,そして社会にも大きな変化のあった時代だったのではないかと思っています。このような中で,皇室について考えてみますと,皇室が古くから受け継いできた伝統というものを大切にしながら,そして,同時に将来に向けて日本や世界にとって,何が大切なことかということを常に考え,そして,時代の中で,皇室がどのようなことを期待されているのかということを感じ取ることができるように努められればというふうに思っております。いろいろな事が国際的になっております今日,世界の人と人とを結ぶ上で果たす役割もございましょうし,そしてまた,社会のさまざまなところで難しい状況に置かれている人々に心を寄せていくということが,殊に大切なことではないかと思っております。常に国民の幸せを祈っていらっしゃる天皇皇后両陛下の国民への深いお心を私も心に留め,皇太子様とご一緒に務めを果たしていかれたらというふうに思っております。

問2 昨年末には残念な出来事がありました。これまでのお気持ちをお聞かせください。
皇太子妃殿下

国民の皆さんの期待もある中で,昨年の暮れの結果は私も残念に思っております。そしてまた同時に,非常に早い段階から報道が過熱してしまったということについて,正直申しまして戸惑いを覚えたことも事実でございます。その間,皇太子殿下には常に深い思いやりをもって私を包み支えてくださいました。また,両陛下にもこれまでずっといつも変わらず温かく支えお励ましいただきましたことを心より感謝申し上げております。お陰様でお医者様方に大変良くしていただきまして順調に快復することができましたことを深く感謝しております。そしてまた,国民の皆様からも大勢お便りを頂きましたり,温かい励ましを頂きましたことも忘れられない事でございます。どれほど多くの方々の善意に支えられて自分があるのかということを身にしみて感じました。国民の皆さんの温かいお気持ちにこの場をお借りして深くお礼を申し上げたいと思います。

問3 今年の夏には体調の理由から,斂葬(れんそう)の儀や地方でのご公務の日程を変更されました。9月以降には那須御用邸や裏磐梯などでご静養の機会も設けられました。この間のご体調やお気持ちをお聞かせください。
皇太子妃殿下

夏には体調を崩してしまい,香淳(こうじゅん)皇后の斂葬の儀に伺えなかったことをとても残念に思いました。また,体調を崩したのは,その時一時的なことでございましたけれども,日程の変更などがありましたことなどから,一部で誤解も生じてしまったように思いますけれども,その後は体調も戻り,お陰様ですっかり元気にしております。いろいろご心配いただきありがとうございます。

9月には,福島県からの有り難いお申出によって,育樹祭の公務の後に裏磐梯で数日間を過ごす機会を頂き,大変楽しく過ごさせていただきました。また,今年も秋には,那須,そして御料牧場などで何日かずつを過ごす機会も頂き,有り難いことでございました。

以前にもお話しましたが,広々とした自然の中で過ごすことのできる機会というのは,私にとって大きな楽しみでございまして,今年も那須や裏磐梯で皇太子様とご一緒に自然の中を歩き,美しい風景を眺めたり,また,植物を眺めたりすることができましたことは,大変有り難いことでございました。

問4 秋以降,皇后陛下が体調を崩され,たびたび検査を受けていらっしゃいます。両陛下のご公務を軽減すべきではないかという声も挙がっていますが,今後のご公務の分担をどのようにお考えですか。
皇太子妃殿下

皇后様には今年もご公務が大変たくさんおありになり,また,6月には外国ご訪問からお帰りになられて程なくして香淳皇后が崩御になり,深いお悲しみの中にお在りになりながら,さまざまなお儀式のご準備なども一つ一つ大切になさり,そして滞りなく香淳皇后をお見送りになれるようお心をお砕きになっていらっしゃいました。そのような中でいろいろなお疲れが重なっていらっしゃったのではないかとご案じ申し上げております。先達てお目のご治療がご無事にお済みになられましたことは,本当に何よりのこととほっといたしましたが,ご公務の合間を縫ってのご検査,ご手術ということでいらっしゃいましたので,どんなにか大変でいらっしゃいましたことと存じ上げております。皇后様のご体調がすっかりご快復なさいますことを心よりお祈り申し上げております。

やはり天皇皇后両陛下にお健やかでいらしていただきたいというのが何よりの願いでございます。公務につきましては両陛下のご公務は簡単にお削りになったり,あるいはほかの者が代わったりということのできない性質のものも多くおありになることと存じます。このことも心に留め,私でどれほどお役に立てますのか大変心もとないことでございますけれども,皇太子様ともご相談しながら少しでも両陛下のお心に沿ってお助け申し上げることができますように努めていきたいと存じます。

問5 世間ではIT革命をはじめとするさまざまな新しい動きが出ています。皇太子殿下との生活の中で,新たに関心を持たれた事柄や,きずなを深められた印象的なエピソードがありましたらお聞かせください。
皇太子妃殿下

先ほどもちょっと触れましたけれども,そのIT革命という言葉にも代表されるように,このところの情報通信技術の発達には大変目覚ましいものがあると思います。世界の誰もが,本当に良い意味で,インターネットなどを利用することのできる時代が来ることを望んでおります。

私自身も最近,少しずつですけれども,電子メールなどを使っていますが,国の内外を問わず一瞬のうちに情報が送れ,そしてコミュニケーションが取れることには感心しております。と言いましても,使い始めました当初は,せっかく打っていた文書が突然消えてしまったり,どこかに消えていたと思っていた文書が,必要のない時に突然画面に現れたりといろいろなことがございました。

このようにインターネットが普及し,コミュニケーションの手段が便利になって,また多くの情報が得られるようになりましても,これまでのとおり人と人との直接の交流ですとか,結び付きといったものも大切にされていくことを心から望んでおります。それからまた,子供たちが人間性豊な心をはぐくんでいくことができますよう,本に親しむという習慣がこれまでどおり続いていくことを願っております。

また,自然に触れるということも大切なことなのではないかと思います。先達てある会合で,子供の心の成長や,そして傷ついた心のリハビリに,自然の中で動物たちと過ごすといったことがどれほど大きな力になり得るかということについてお話を伺う機会がございました。このように,動物や自然との触れ合いといったものがもたらしてくれる可能性というのはたくさんあると思います。私たちも毎日の生活で2頭の犬たちと過ごしていますけれども,犬との触れ合いの中で,心の安らぎやたくさんの楽しみを与えてもらっています。

それから,先ほども少しお話しましたけれども,時々自然の中に入って自然に触れる機会がございますと,自然から本当にたくさんのことを教えられるということを実感いたします。

<関連質問>
問6 2番目の質問に対する御回答の中で,多くの国民の方からいろいろと励まし等を頂いたというような趣旨のことをおっしゃいましたけれども,差し支えない範囲で結構ですが,どういった形でどういった内容のものであったのか,お話をお伺いできれば幸いかと存じます。
皇太子妃殿下

いろいろございますけれども,1月になりましてから寄せられたお手紙などでは同じような経験をなさったということで,励ましてくださる方々が随分たくさんいらっしゃいました。

問7 先ほどからいろいろ自然環境のお話をされてましたけれども,世界自然遺産会議へのご出席など,いろいろお考えがあると思いますが,改めて新世紀を前にして,自然環境,環境保護に関する国民の関心も強まっていると思いますが,妃殿下のお考えをお聞かせください。また,妃殿下はふだんのご生活の中でですね,そういった面から心掛けていることなどもありましたら,お願いします。
皇太子妃殿下

特に20世紀になりましてから,大変な勢いで工業化というものが進みまして,生活はとても便利になりました。その一方で,人間の経済活動が広がったことによって,自然が失われたり,それからまた,自然の環境に大きな負担が掛かったりということも起きてきているように思っています。これからやはり地球というのは一つしかないわけで,この地球で人類がこれからも生存していくことができるということも大切ですし,また,地球上の生き物というのは人間だけではなくて,ほかにたくさんの動植物が生存しているわけで,その意味からも絶滅の危機に瀕(ひん)しているものなどがたくさんあるということもとても心配なことですけれども,そういった意味からもやはり,環境を守っていくということはとても大切なことなのではないかと思っています。そして,ふだんの生活の中ではなるべく水を無駄に使わないですとか,水だけでなくて,いただく物などもそうですけれども,なるべく無駄にしないようにということは心掛けております。それから,ゴミなどもなるべく燃やしていい物と,そうでない物は分けて捨てるようにとか,そういったことには心掛けておりますけれども。