皇太子妃殿下のお誕生日に際し(平成11年)

皇太子妃殿下の記者会見

会見年月日:平成11年11月29日

会見場所:東宮御所

皇太子妃殿下のお写真
記者会見をなさる皇太子妃殿下
(写真:宮内庁)
問1 この秋には皇太子様と共に3週間連続の地方ご訪問があるなど,忙しい日程をこなされましたが,一年間を振り返り,強く印象に残っている出来事は何でしょうか。
皇太子妃殿下

今年は,天皇陛下のご即位10年,そして天皇皇后両陛下のご成婚40周年を両陛下おそろいでお健やかにお迎えになりましたことを,心よりお喜び申し上げます。両陛下には,常に国民の幸せを願われ,数多くのご公務をお務めになり大変お忙しい日々をお過ごしになっていらっしゃいますので,これからも,くれぐれもお体をお大切になさっていただき,お健やかにお過ごしくださいますようにと心よりお祈り申し上げております。

今年も本当にたくさんのことがございました。気象も年によりかなり異なりますようで,最近は段々と予測が難しくなっている面があるようにも感じますが,今年は冬の北日本での大雪に始まり夏には西日本で長雨が続きました。そして梅雨時から夏にかけて豪雨による被害,また,秋には台風による被害により尊い人命が失われるなど,大きな被害がございました。このような中,国内各地で大変な思いをされた方が多かったのではないかと思います。

海外でもトルコ,ギリシャ,台湾などで大地震の被害が殊のほか大きく,阪神・淡路大震災の時も思い起こされ,本当に痛ましいことでございました。これらの災害の折には,日本からも救援隊が駆けつけ,いろいろな形で手助けをされたことを心強く思いましたが,被災した地域の人々が国際社会からも温かい支援を受けて,これからの寒い冬を乗り越え,そして復興に向けて順調に進んでいかれることを心より願っております。

また,今年はドイツのベルリンの壁が崩壊して10年という年でもございました。壁が崩壊した当時は,これで東西の冷戦が終結し明るい未来が到来し,そして平和な世界が築かれるという希望に満ちていましたが,その後,現実には世界各地で地域紛争や民族紛争が頻繁に起こり,多くの人や子供の命が失われていることに深い悲しみを覚えます。例えば,アフリカの各地の紛争の中には長期化しているものもたくさんあると聞きますし,また,旧ユーゴスラビア諸国においても,今年は,コソボの問題をめぐって再び悲しい現実を知ることとなりました。アジア地域でも東チモールの独立をめぐって大きな犠牲が払われましたし,それからまた,ロシアのチェチェン共和国をめぐる情勢も心配されるなど,世界の中には平和を築いていくための英知がまだまだ必要とされているように感じています。

そのような世界にあって,ヨルダンのフセイン国王が今年の2月に亡くなられましたことは大変残念なことでございました。フセイン国王は,中東和平のために大変お力をお尽くしになられたわけでございますが,5年ほど前に,皇太子殿下とご一緒に,私もジョルダンを訪問させていただきました折に,大変温かくお迎えくださいましたことを,いつも深い感謝の気持ちで思い出しております。そのフセイン国王が長いご闘病の末にお亡くなりになられたことは,大変悲しいことでございました。そのほか中央アジアのキルギスでは,現地の開発援助に携わっていた日本の技術者の方々が現地の方々と一緒に誘拐,拉(ら)致されるという事件もございました。人質の方々が無事であるという情報は折々に伺いましたが,その地域の複雑な情勢の背景,そしてまた,冬が足早に近づいてきていたということもございまして,人質の方々の無事と健康が気遣われましたが,皆さんそろってお元気の様子で解放されて安堵(ど)いたしましたとともに,2か月余りの間の人質としてのご苦労を思いました。

国内でもいろいろなことがございました。東海村での原子力事故が大変深刻な事態をもたらしたこと。そして夏の国内線旅客機のハイジャック事件で機長の方が残念ながら犠牲になられたことなど,心痛むことも多うございました。その外には,急速な高齢化社会を迎えるに当たっての準備が急がれていること,企業の再編成に伴う失業,再就職の問題など社会の変革の中で起きているさまざまな問題,大学生,特に女子大生の就職の難しさ,それから廃棄物処理などを含む環境の問題,そしてまた,コンピューターの2000年問題などが今年は印象に残りました。また,つい先日も幼い女の子の悲しい事件がございましたが,最近の子供たちをめぐる状況には心痛むこともいろいろとございます。特に最近は,児童の虐待が急速に増加していると聞きますし,また,青少年をめぐるさまざまな問題,例えばその一つには薬物の乱用が広がりを見せていることなどもありますが,これから子供たちを社会全体で守っていくことができるよう多くの人々が知恵を出し合い,そして手を携えて,良い解決方法を見いだしていかれることを心から望んでおります。

私たちは今,21世紀を目前に控えておりますけれども,新しい世紀にはより平和な世界が築かれ,そして日本の,また世界中の子供たちにとって明るい将来が開かれるようになることを心から願っております。

問2 ご結婚から6年が経過し,妃殿下にはさまざまなご公務をお務めになられてきました。最近は妃殿下お一人でのお出ましも数多くあります。こうした際に妃殿下が最も気を配っていらっしゃることは何ですか。また,国内外で新たにご公務として取り組まれたいことなどがありましたらお聞かせ願います。
皇太子妃殿下

結婚以来,さまざまな公務の機会を与えていただきましたこと,そして,いつも皇太子殿下に温かいお心遣いを頂きながら,また,周りの大勢の人たちに支えられて,ここまで私なりに何とか公務を務めてまいりますことができましたことを大変有り難く思っております。

公務の際に気を配っていることというご質問にはなかなか良い答えが見付けられないのですけれども,例えば,何かの行事に出席する際にはその会の歩みですとか将来への展望ですとか,そういった行事の趣旨といったようなものをなるべく理解していたいというように思っております。

また,公務の中でいろいろな方とお話しする機会もございますが,そのような時は,もちろん時と場合によりますけれども,なるべく和やかな雰囲気でお話ができるようにと思いますし,また,相手の方の気持ちに立ってお話を伺えるようにしたいと思っております。また,そういったいろいろな方のお話の中から少しずつでも何かを学び取ることができたらというふうに思っております。また,いろいろな制約もございますけれども,なるべく多くの方と自然な形で触れ合い,お話をすることができればうれしく思います。

それから,公務に関してでございますけれども,皇室の一員としてお役に立てることがございましたら,必要とされるところには心を寄せていきたいというふうに思っております。そして,特に難しい境遇に置かれている人々や,さまざまな困難に直面している子供たちには,常に心を寄せていきたいと思っております。

そして,世界の中には日本ほど恵まれた生活のできないところもたくさんございますので,そういう地域の人や子供たちの将来の幸せというものを願っていきたいと思います。

問3 ご公務でお忙しい日々を送っていらっしゃる中での気分転換やリラックス法があればお聞かせください。
皇太子妃殿下

確かに私たちの生活では,仕事と生活の境というものが余りはっきりしていず,ふだんの生活と公務が非常に近く結び付いているという面がございますので,ふだんの生活の中でうまく気分転換を図るということは確かに大切なことのように思います。公務の間に余裕を見いだすことのできる何日間というのがございます時には,幸い御用邸の方で過ごさせていただき,そこで山へ出掛けましたり,それから,自然の中でゆったりと過ごさせていただいているということは大変有り難く思っております。また,ふだんの生活の中では,まず皇太子殿下に何でも,何についてもお話ができるということを本当に幸せなことと思っております。やはり話をするということでいろいろな意味で気分が楽になるということは随分とあることなのではないでしょうか。

それから,私にとりまして,今飼っております犬たちと一緒に過ごす時間というのもホッといたしますし,大切な時間となっています。例えば,一日の日程を終えて,あるいは夕方に公務があったりいたします時は,その公務の間の時間を見付けて,夕方,犬たちを連れてここの御用地の中を散歩いたしましたり,自転車で回ったりいたしますと本当に良い気分転換になります。もう少し時間があります時には,皇太子殿下とご一緒にテニスをさせていただきましたり,楽器のフルートの練習をいたしましたりもしますけれども,最近は,秋の日程が忙しかったこともあり,フルートの方はしばらくレッスンをごぶさたしてしまっているような状況になっています。後は,一日の終わりに,夜,本を読んだりというようなことも休息になるような気がいたします。

問4 今年は,北海道や岩手八幡平,那須などへの,皇太子様とのお出ましがありました。日常の生活も含めまして皇太子様との生活の中で夫婦のきずなを深められたことや新しく発見されたこと,そして,妻として皇太子様に望まれることがありましたら,お聞かせください。
皇太子妃殿下

今年は,北海道での冬の国体への出席の後,一日お休みを頂くことができまして,クロスカントリースキーを楽しむ機会に恵まれました。クロスカントリースキーを習うのは初めてのことでしたけれども,林の木立の中で木漏れ日を浴びながら滑るというのは,とても気持ちよく大変楽しい時間を過ごすことができました。夏には,先ほどおっしゃられた八幡平,そして,志賀高原の方に参ります機会を得て,そして,そこで美しい高原を歩き,また,案内の方から植物ですとか,自然のことについていろいろ教えていただくなど,大変楽しい滞在をさせていただきました。皇太子様とご一緒にこのような経験をさせていただいて,段々と世界が広がっていくということを大変うれしく思っております。

ふだんの日常生活では,先ほどもちょっと申しましたけれども,皇太子様がなるべくいろいろなことについて一緒に考え,そして,話し合おうというお気持ちでいらしてくださることを大変幸せなことと思っております。そしてまた,例えば音楽ですとか,自然や動植物との触れ合い,天体観測,時折絵を描くことなどを通じて,それから,日々犬たちを伴って一緒に過ごす時間などを通じ,いろいろな楽しみを分かち合ってくださいますことを大変有り難く思っております。

皇太子様は,大変お体がお丈夫でいらっしゃいますことを,私は心強く感じておりますけれども,これからも,いつもお元気でいらしていただけますようにと願っております。そしてまた,私自身,何かお役に立てますよう努めたいと思っております。

<関連質問>
問5 先ほどのお話にもちょっとありましたけれども,お一人でお出掛けになったり,おことばをお一人の際にお述べになったりというのは,少しずつ増えてきたように思いますけれども,その辺のご感想と,それから,これからかなり積極的にやっていこうというお気持ちがおありなのか,その辺をもしよろしければ伺いたいと思います。
皇太子妃殿下

今年は4月に,商工会議所で女性の経営者としてずっと活動してこられた婦人会の50周年の会にお招きを頂いて,出席させていただきまして,それから,また6月には,今年が更生保護制度施行50周年という節目の年に当たり,更生保護婦人会の全国の集いに出席させていただく機会を頂き,とても有り難いことだったと思っております。社会の中で,いろいろな形で地道に活動していらっしゃる方たちにお会いしたり,何かごあいさつをしたりということで,私がお役に立てることがあるようでございましたら,そういうことはうれしく存じますし,また,例えばあいさつをするというようなことは,自分から今度やりたいですというようなことでもないわけですけれども,そういう希望が寄せられます時には,その時その時の機会を大切にしていきたいというふうに思っております。