皇太子殿下お誕生日に際し(平成11年)

皇太子殿下の記者会見

会見年月日:平成11年2月15日

会見場所:東宮御所

皇太子殿下のお写真
記者会見をなさる皇太子殿下
(写真:宮内庁)
問1 昨年一年間は長野五輪,長野パラリンピックへの行啓や来日した賓客への御接遇など御公務に大変お忙しい毎日だったと思います。この一年間を振り返っての御感想と「不惑」の年を前にしての抱負などがございましたら,お聞かせください。
皇太子殿下

この一年間を振り返ってみましても,本当にいろいろなことがあったと思います。昨年の誕生日以降のこととしまして,まず大きなこととしては,長野のパラリンピック冬季競技大会が挙げられると思います。私も,名誉総裁を務めさせていただいた関係で,2回ほど現地を訪れ,幾つかの競技を見ることができました。パラリンピック競技大会は,日本選手団の活躍もあり,国民の多くが障害者スポーツによって示される人間の限りない可能性に深く感動するものとなり,障害を持った方々はもとより,国民の多くの人々に夢と希望を与えました。

このほかのものとしましては,昨年のフランスにおけるワールドカップ,スペースシャルに乗船されたジョン・グレン上院議員,向井千秋さんの活躍などが挙げられると思います。

しかし,一方では,日本の国内の深刻な不況や,昨年,国連の監視団員であった秋野豊さんがタジキスタンで亡くなられたこと,昨年の夏の豪雨による被害,国外にあっても地震や津波や洪水による大きな被害がありました。

そのほかとしましては,先ごろ,ヨルダンのフセイン国王が亡くなられまして,私どももアンマンに赴きまして,47年間にわたって様々な困難に直面されながら,中東和平のために尽力してこられたフセイン国王の御遺徳を心からおしのびいたしました。

このようにみてきますと,昨年も,明るい話題もありましたけれども,一方で,悲しい出来事も多くあった一年間であったと思います。

「不惑」の年というお話が出ましたけれども,「不惑」というのは御存知のように,孔子の論語の中に出てくる「四十にして惑わず」からきているものでありますけれども,これは,言ってみれば「人間が四十になれば,事に当たって惑うことがなくなる」という意味であると思います。あと一年でこのようなことになれるとは到底思えませんけれども,日々研鑽に励み,毎日を充実したものとしていきたいと思っております。

問2 天皇陛下は今年で即位満十年を迎えられました。皇太子殿下も皇太子になられて十年という節目の年です。殿下はこの十年の両陛下の御活動をどのように御覧になり,今後の御公務に皇太子としての自分らしさ,皇太子像をどのように反映させていきたいとお考えですか。
皇太子殿下

天皇陛下もかねてよりおっしゃっておられますように,日本国憲法の天皇の規定と,常に幸せを願ってこられた歴代の天皇の歴史に思いを致され,国民の幸せを願われ,国と国民のために懸命に尽くされてこられていると思います。

殊に,私が拝見しておりますところ,両陛下には,国民と常に心を共にされ,苦楽を共にされたいというお気持ちを,いろいろな機会にお示しになっておられます。殊に,雲仙普賢岳の噴火,北海道南西沖地震,阪神・淡路大震災等の自然災害による被害に対し,大変に心をお痛めになられ,現地に赴かれ,被災者を見舞われ,そして励まされております。

また,海外への御旅行や,外国からの実にたくさんのお客様をお迎えになる折など,日本とそれらの国との友好親善と,相互理解の増進に大変に心を砕いておられます。また,外国からのお客様などをお迎えになる場合,私も国賓,公賓,公式実務訪問等で来られる方々をお迎えする際,御一緒させていただくことがございますけれども,どの国からのお客様に対しても同等に,誠心誠意,歓待しておられることがよく分かり,これは非常に大切なことではないかと思います。

私も,このような陛下のお気持ちを大切にしながら陛下をお助けし,皇太子としての務めを果たしていきたいと思っております。

常に,今,自分に与えられている職務に対して積極的に取り組んで,そして今の自分に一体何ができるかということを常に考えながら,日々を過ごしていきたいと思います。今,国際的にも,そして,国内でも起こっている様々な問題にも理解を示し,関心を持っていきたいと思っています。

中でも,子供の教育の問題,環境の問題などは,非常に大切な問題だと思います。このようなことに対しても,引き続き関心を持って理解を深めていくことができたらと思っています。

それから,私と同世代の方々との交流も非常に大切にしていきたいと思っています。そのような交流を通じて,私と同世代の方々がいったい皇室に対してどのようなことを考えておられるか,どのようなことを期待しておられるか,そのようなことが少しでも分かればと思っています。

問3 先日の妃殿下の御誕生日会見では,御夫妻の仲が円満な秘訣をお話しいただきましたが,妃殿下と夫婦のきずなを深められたようなエピソードがございましたら,お聞かせください。
皇太子殿下

夫婦のきずなを強めたようなエピソードというのはいろいろございまして,どれをお話ししたらいいか分かりませんけれども,私たち二人の場合,できるだけお互い話し合うことにしております。私たちは,幸い,言ってみれば夫婦一緒に共働きをしている,一緒に行動するというような毎日を送っておりますので,幸いなことに二人で話し合う時間というのは比較的取ることができ,そのような時間を大切にしております。

それからまた,共通の関心事を持つことというのも非常に大切なことではないかと思います。一緒に様々なことを考えたり,一緒にスポーツをしたり,年何回かの登山を一緒にしたり,天体観測であるとか,そのほかいろいろありますけれども,あと日々の犬の散歩を一緒にすることも挙げられます。そういった共通の関心事を持つことが,あるいは,夫婦のきずなを強めることにも貢献しているのではないかというふうにも思います。

問4 御結婚から間もなく6年を迎え,国民の間で高まっているお子様誕生への期待をどのように受け止められていらっしゃいますか。
皇太子殿下

このことに対する国民の期待の大きさ,そして事の重要性についてはよく認識しております。

問5 最近,興味を持って勉強されていることや,始められた趣味やスポーツ,取り組んでいらっしゃることなどがございましたら,お聞かせください。
皇太子殿下

最近やっていることで,まず私の研究の話から申し上げたいと思います。引き続き,日本の中世の水上交通の問題を研究しておりますけれども,最近は,研究対象の地域を瀬戸内海から淀川の方に移しまして,淀川の水上交通であるとか,淀川の近辺に所領を持っている寺社や公家の交通と関係した経済活動について非常に関心を持っております。

趣味としては,引き続きビオラを弾いて折に触れ演奏活動等も行っておりますけれども,音楽についてはこのほか,雅子と一緒に合奏を楽しんだりすることもございます。それから,二人で天体観測などを折に触れてすることがございます。

二人で絵を描いたりといったこともしております。天体観測につきましては,昨年話題になりました,獅子座の流星群,それから双子座の流星群が12月にありまして,数はあまり多くはなかったですけれども,幾つか見ることができました。また,最近の話題としましては,日本の国立天文台が,ハワイのマウナケア山の山頂に「すばる」と呼ばれる望遠鏡を設置しましたが,この「すばる」による観測活動についても非常に今後関心がございます。また,2月23日という日は聞くところによりますと,惑星の木星と金星が最も接近する日ということでありまして,それを見るのも楽しみにしています。

スポーツに関しましては,テニス,ジョギング,あとは登山等をやっておりますが,最近では犬を連れての散歩もいたします。特に冬の寒い時期などは,進んで外に出るというのも難しいことかもしれませんが,犬がいますと散歩をすることになりますので,一日のうち,朝,犬を連れて散歩することによって,ある程度自分の健康のためにもよいのではないかと思います。最近ウォーキングというのが非常に流行っており,やはり歩くというのは健康を保つ上で非常に大切なことなのではないかと思います。それから,犬を連れてたまにジョギングをすることもありますが,ジョギングをする場合は,私の腰から犬にリードでつないでおりますので,運悪く犬が猫などを見つけてしまった暁には,大変に引っ張られることがございます。

あと,今,関心があることとしましては,歩くスキーにも関心があります。以前に,日光に行きました時,戦場ヶ原の辺りで歩くスキーをしたことがありますが,ゲレンデを離れて自然の中にどっぷりと浸かって,自然を楽しむ,そういうことも非常に魅力的なことなのではないかと思います。

<関連質問>
問6 先ほども殿下お触れになりましたように,ジョルダン国でですね,おいでになりまして大変御立派なお務めをされたということで,かの地においてはですね外国の主要な方々とのごあいさつ,たくさんの方々とのごあいさつを交わされたというふうにお伺いしておるわけです。それでオリンピック等でいろいろな要人の方がいらしゃってお会いになる機会もございましょうし,また,中東の方を御訪問されて,その御経験がこの度の葬儀の参列の際にもいかされたのではないのではないかと,勝手に自分の方でも思っているのですが,そう考えてまいりますと,殿下が広く海外の国々にお行きになって様々な方と御交流を深められることが,今後もよろしいのではないかと思っておるわけですが,今回の訪問を踏まえられまして,今後御自身として外国との交際,あるいは海外の御訪問についてお考えがございましたらお聞かせください。お願いします。
皇太子殿下

今回のジョルダンの訪問についてまず申し上げたいのですけれども,前回ジョルダンを訪問しましたのはちょうど4年前の1月になります。その折は阪神・淡路大震災の後のこともありましたので,3日間の日程を1日に切り詰めて帰国いたしましたけれども,そのような日程の変更にもかかわらず,亡くなられたフセイン国王,王妃陛下,ハッサン前皇太子殿下御夫妻が本当に心温まるおもてなしをしてくださいまして,今回はその時の御厚意に対して少しでもお礼ができるとよいと思いましたことと,フセイン国王陛下の御遺徳に対して心からの弔意を表したいと思って現地に参りました。

私自身のことを顧みますと,私は幸い小さいときから今の天皇皇后両陛下のお心遣いによっていろいろな外国のお客様とお会いする機会が多くあり,このようなことが,今,外国の方々とお会いする上で非常に役に立っていると思います。

よく皇室外交という言葉を言いますけれども,私は皇室の訪問というのは外交というよりは親善訪問,友好親善を深めるためのものであるということで,皇室外交という言葉は皇族の訪問の場合は少しなじみにくい言葉なのではないのかと思います。

国と国との相互理解というのは,人,一人一人の相互理解に基づくものであるということを考えるときに,私たちの外国訪問というものも,今後の活動の上で大きな柱の一つになるのではないかと思っております。