皇太子殿下お誕生日に際し(平成8年)

皇太子同妃殿下の記者会見

会見年月日:平成8年2月22日

会見場所:東宮御所

皇太子同妃両殿下のお写真
記者会見をなさる皇太子殿下
(写真:宮内庁)
問1 36歳のお誕生日を迎える感想をお願いします。そして,この1年を振り返っての印象と今後の抱負をお聞かせください。
皇太子殿下

会見に先立ちまして,先の北海道のトンネル崩落事故により亡くなられた方々に対し,心から哀悼の意を表しますとともに,ご遺族の皆様に心からお悔やみを申し上げます。それとともに,救出活動にあたられた方々のご労苦を深く多といたします。それから質問に対するお答ですけれども,36になりまして今年は年男ということでありますけれども,昨年のこの会見でもって,35というのは四捨五入をすればもう40になってしまうということを申しましたが,また一つ40に近づいたわけであります。しかしまだまだ若いつもりでおりますし,自己の研鑽に務めながら様々なことにチャレンジしていきたいと思っております。昨年1年間を振り返ってみますと何よりも心を痛めましたことは,阪神・淡路大震災により,多くの方々が亡くなられたことであります。先日一周年の追悼式典に出席いたしましたが,その際被災地の方々が力を合わせて復興に取り組み,町を立ち直らせることに本当に全力で取り組んでおられるその力強さに深い感銘を覚えました。それとともに,昨年は様々な社会的な不安をあおる事件が多くありましたが,一日も早く国民の皆さんが以前のように安心して生活できる環境が整うことを心から希望しております。また,昨年は秩父宮妃殿下の薨去という私にとっても悲しいこともございました。大体昨年を振り返ってみますとそういうことだと思います。

問2 殿下は以前,理想の皇室像について「国民の中に入っていく皇室」と話されました。具体的なイメージはお持ちですか。また,妃殿下は「皇室という道で自分を役立てることが果たすべき役割」と述べておられました。ご結婚前のキャリアが十分に生かされていないのではという声もありますが,どのように思われますか。お二人は今後どのようにして国民の中に入り,どのように自分を役立てていきたいとお考えでしょうか。
皇太子殿下

「国民の中に入っていく皇室」ということを発言したのは,今から10年程前,イギリスを訪問した折の記者会見であったというふうに記憶しておりますが,これは以前より天皇陛下がおっしゃっておられる「国民と共にある皇室」と概念としては非常に類似するものがあると思います。要は常に国民と共に苦楽をともにし,そして国民が皇室に対して何を望んでいるか何をして欲しいかということを認識することであると思います。そのようなことを実現していくためにも,私としましても今後ともいろんな分野の方々とお会いし,そのような方々のいろいろな知識を吸収していこうと思いますし,また併せてそういう機会を通じて,国民の声というものを聞いていきたいと思っております。また,一つ言い落としましたけれども,それとともに,社会でもって目立たないけれども地道に活動しておられる方々にも理解を示していきたいというふうに思っております。

皇太子妃殿下

私は皇室に入りましてからまだ2年半余りと日も浅いことでございますので,ようやく皇室の儀式ですとか様々な行事ですとか,そういった年間を通しての過ごしようというものがわかってきたところであるような気がいたします。その中にあって,どのような役割を自分として果たしていくべきかということについては,日々考え,そして努力していかなければならないという気持ちは,確か一昨年の2月の会見だったと思いますけれども,その時に申し上げた時とその気持ちは変わっておりません。具体的に今後どのような役割を担っていくべきかということについては,皇太子殿下にもご相談申し上げながらこれから考えていきたいというふうに思っております。先程私のキャリアという話がございましたけれども,私がしておりました仕事も年の浅いものでございましたので,その仕事というよりはむしろ皇室に入る以前の生活ですとか経験の中から得られたことが何らかの助けになってくれればというふうに感じますが,先程殿下もおっしゃいましたように,これからいろいろな方にお会いしてお話を伺ったりすることを通じまして視野を広げていくことができたらというふうに考えております。

問3 今年の6月で結婚3周年を迎えられますが,これまでの結婚生活をどのように振り返られますか。友人や親族との交流,家事,夫婦ゲンカなど,日常の様子を教えてください。また,ご家庭のこれからの事についての考えをお聞かせください。将来についてお二人で話し合ったり,どなたかに相談することはありますでしょうか。
皇太子殿下

そうですね,このことにつきましては,この6月で結婚3年を迎えるわけですけれども,振り返ってみますと,本当にあっという間に過ぎているようにも感じますが,非常に充実してそして楽しい毎日を送っております。そして,楽しい中にも安らぎのひとときをもつことが出来ていると思います。それから私の先生,それから友人などとの交際ですけれども,色々時間的な制約などもありますけれども,今後とも続けていきたいと思っております。それからまた,雅子の親族ですとか,それから先生方,そしてまた友人の皆さんなどともお会いすることができるのは私としても大変うれしく思っております。また結婚したことによりまして,以前にも申しましたけれども,以前よりもまた関心の幅が広がってきたように思っておりまして,私としても大変うれしく思っております。今後の家庭についてですけれども,今までと同様に思いやりの心を持って,そして充実した日々を二人で過ごしていきたいというふうに思っております。

皇太子妃殿下

結婚して以来,殿下には大変に広いお心を持って私を受け止めてくださっていますことを心から感謝申し上げております。そして私の里の家族ですとか先生方や,それから友人のものに対しても,大変に大切に考えてくださることをとてもありがたく存じます。結婚以来,殿下とご一緒に何度か山歩きをしたり,そういった機会にも恵まれましたけれども,そういったことを通して新しい楽しみというものを見いだすことができました。私の方でも殿下にご健康で充実した日々をお送り頂けますように努めてまいりたいというふうに考えております。

問4 戦後50年がたちまして,若い世代に皇室に無関心な人々が増えるなど皇室に対する国民の感じ方も変わってきているように思います。それを踏まえ,お二人は皇室が今後国民に対し,どのような存在であるべきだとお思いになりますか。将来,天皇・皇后となるお立場として,両陛下や他の皇族方とこうした事についてお話しになることはありますでしょうか。
皇太子殿下

これは非常に難しい問題ですけれども,基本的には前から申し上げている国民と共にある皇室を基本の姿勢として皇太子としての務めを精一杯果たしていきたいというふうに思っています。時代というものは非常に目まぐるしく推移しておりますので,そういった中にあって時代の要請を的確に感じとって,そして物事の本質を見極めて,そして精神的なよりどころとしての役割を果たしていくことが非常に重要であると思います。そのようなことをするためには,やはり国民が何を希望し,何を望んでいるかということをしっかり認識することが非常に重要であるというふうに思っています。また,天皇皇后両陛下にも折に触れてお会いいたしますけれども,いつも両陛下がいかに国民のために心を砕いておられるか,国民の幸せを祈っておられるかというお姿に接しまして,私自身色々と学ぶところがたくさんあります。

皇太子妃殿下

私も殿下の考えを大切にしながら自分の務めを果たしていきたいと思います。

問5 ご公務がないときのご生活はどのようにお過ごしでしょうか。何かに打ち込んでいることやご興味をお持ちになっていること,これから取り組んでみたいとお思いであることはございますでしょうか。
皇太子殿下

公務がないとき,いろいろその道の専門の方をお招きして,そしていわゆる進講という形でもって,いろいろなお話を伺う機会もありますけれども,それ以外の時間については自分の研究をしたり,それから読書をしたり,それから健康を維持するためにも戸外でのスポーツをしたり,それから後は趣味の音楽をしたり,後は山のガイドブックを見たりとかそのような形でもって時間を使っております。後,今後取り組んでみたいことですけれども,今まで自分がやっていなかったようなことで何か今後,自分としても取り組む事ができるようなものがあればというふうに今思っているところです。それからまたそれ以外の時間としまして,雅子と二人でもってスポーツをしたり,それから後は散策をしたりすることも健康維持の上でも非常に楽しいことであります。それから最後になりましたけれども,どうも皆さんコウノトリのご機嫌についてお聞きになりたいというふうに何か伺っておりますので一言申したいと思いますけれども,コウノトリはどうも静かな環境を好むようでして,もし飛んで来るのであれば結婚の時と同じマイペースであろうというふうに思っています。

皇太子妃殿下

普段のご生活では,皇太子殿下は大変にご趣味も広くいらして,いろいろな面の才能に恵まれていらっしゃるので,私としては本当にいつも羨望の眼差しで拝見していることが多くございます。今後私自身もなるべく多くの分野に関心を持っていろいろなことを身につけていけたらいいかしらなどというふうに考えております。皇室の大切な伝統でございます和歌ですとか書道といったものも,大変にいい先生のご指導をいただいて楽しく学んでおりますけれども,なかなか上達への道程は長いようで,気長に一歩一歩努力していかなければいけないかしらと…。

皇太子殿下

上達していると思うよ。

皇太子妃殿下

四苦八苦しておりますけれども,でも先生方のお陰で楽しく教えていただいております。それ以外の時間では読書をいたしましたり,それから気分転換のために殿下とご一緒に散策をいたしましたり,スポーツをしたり,それから音楽を一緒に聞いたりそういう事もして,お陰様で殿下の幅広い趣味のお陰で私もいろいろと新しい楽しみをいたしております。

皇太子殿下

それと一つ言い落としましたけれども,二人でもって大体ニュースを見たり,それからドキュメンタリーの番組を見たりして,そして後でお互いに感想を話し合ったりすることもあります。それからまた新聞ですけれども,だいたい各紙ひととおり目を通すようにしております。

<関連質問>
問1 先日,殿下の恩師の安田先生が亡くなりましたが,殿下の中で思い出に残るエピソードがございましたらお願いしたいんですが。
皇太子殿下

そうですね,本当に安田先生の訃報に接して,本当に残念に思っておりますとともに,安田先生とご一緒に過ごさせていただいた日々を非常に懐かしく思い出しています。本当に安田先生には大学の授業の折だけでなくて戸外の研修旅行ですとか,あるいはご一緒に飲みにいったりとか,本当にいろんな思い出がありますけれども,もちろん指導に関しまして一つ強く印象に残っていますのは,やはり資料を,歴史の場合の資料を非常に厳密に読まなければいけないというようなことを何回も指導していただきまして,こういった資料を厳密に読むということは,私が後にオックスフォードに行きましてイギリスの交通史を研究する上でも大変に役立ったことだと思います。本当に安田先生には学問だけではなくて,本当にいろんなことを教えていただいたと思います。あと一つあげるとすると,例えばお寿司屋さんに行ったときのお寿司の食べ方は手でこうするとか,そんなことも教わったことがありますし,いろいろエピソードはたくさんあります。今後とも先生の御恩に報いるべく学問の道を志していきたいというふうに思っています。

問2 こちらの御所には,皇后陛下が皇太子妃時代にお作りになったキッチンがあるというふうにお伺いしているんですけれども,妃殿下はそちらのキッチンの方で料理を作られたりすることはありますか。もしあればお得意な料理と殿下のお好きな妃殿下のお作りになったお料理などをお聞かせいただきたいんですが。
皇太子殿下

はい,今までも何回も作って貰いましたけれども,私大変おいしく食べました。

問3 お得意な,何かレパートリーはございますか。
皇太子妃殿下

お得意はあんまり…。

皇太子殿下

いろいろ…。

皇太子妃殿下

何だか何をやっても時間ばっかりかかって…働く前は料理は好きかしらと思ってたんですけども。何んとなく時間ばかりかかってお恥ずかしいものを差し上げているような。

皇太子殿下

でも,本当に一生懸命作ってくれますし,率直に言ってとてもおいしいもんですから大変うれしく思っています。

皇太子妃殿下

余り頻繁には。公務との関係で時間があるときだけで。

皇太子殿下

忙しい中をね,よく。

皇太子殿下

先程の1番の質問の中で,よろしいですか,1年を振り返る中で,私重要なことを一つ言い落としてたんですけれども,やっぱり昨年はちょうど戦後50年という年でありましたので,自分としてもいわゆる戦争を知らない世代ではあるわけですけれども,本当に戦争のことについて思いを致す機会になりましたということを,一言申し添えたいと思います。

問4 公務のない日にいかがお過ごしですかという質問があったんですけども,仮にですね,全く公務と離れて自由な一日をお二方それぞれ差し上げますということになりましたら,それぞれどんなことをして過ごしたいと思われますか。
皇太子殿下

そうですね,やはり普段でも公務のないときは色んなことを,先程ちょっと申し上げたようなことをやっておりますけれども,そうですね…。

皇太子妃殿下

殿下は多分天気がよかったら,お外にお出になってジョギングかテニスか,何か体を動かしていることを一日のうちのどこかにお入れになるんじゃないかしらという感じです。

皇太子殿下

確かにそうですね,天気がいいときなどはやはり体を動かして,そして汗を流すということは是非やりたいと思いますしね,それからまた後,先程も言いましたけれども,音楽を聴いたり,音楽を弾いたりすることも是非やりたいと思っていますし…。

皇太子妃殿下

全く自由な一日があったら山か何か…。(笑)

問5 妃殿下の方はいかがですか。
皇太子妃殿下

私でございますか。どうでしょう…。今の生活で自由な一日があったらということですね。

皇太子殿下

まさか書道ばっかりしているというわけには。

皇太子妃殿下

少し片付け物をしたりして気持ちの整理をして,それから外で何か少し体を動かすような気分転換をしたり,今ちょうどここの御用地の中,梅も咲いて綺麗でございますし,色んな花が咲いてますのでそういったものを見たりですとか…。

皇太子殿下

そうですね,あと,私の場合,やっぱり公務がありますと,研究の話になりますけれども,なかなか研究というのはまとまった時間が必要な場合が多いわけなんですね。そうするとなかなか細切れに公務が入ってきたりするとなかなかまとまった時間がとれないので,もし時間がかなりとれるようでしたら,そういったものもやりたいと思っていますし,今雅子の話を聞きまして,私は整理が余り上手じゃなくて,机の上がだいぶ乱雑に,曽我さんの机ほどではないんですけれど,なんと言いますか,でも,整理もしなければいけないなと思っています。

皇太子妃殿下

ご研究の面では,殿下は本当に短いお時間がおありになると,本当にちょこちょことご本をお読みになったり,ワープロに考えてらっしゃることを打ち込んだりとか,とってもお時間の使い方がお上手でいらっしゃいますので,私も学びたいと思ってるんですけれども。