皇太子同妃両殿下ご成婚10年に際しての文書回答(平成15年)

皇太子同妃両殿下ご成婚10年に際しての文書回答

皇太子同妃両殿下のお写真皇太子同妃両殿下と愛子内親王殿下のお写真
皇太子同妃両殿下と愛子内親王殿下(東宮御所)
(写真:宮内庁)
問1 両殿下それぞれに,改めて結婚10年を振り返ってお尋ねします。
殿下は今年のお誕生日に,「自分自身を見つめて,そして,自分自身を成長させることができた」とおっしゃいました。一方,妃殿下も昨年,「本当に大きな選択であった」とし,「私なりにいろいろと努力をしてきた」と振り返っていらっしゃいました。
この10年間,うれしかったこと,つらかったこと,希望の家庭を築くために互いに努力したことなどおありだと思います。様々な思い出と共に,それぞれお聞かせください。
皇太子殿下

この10年間を振り返ってみますと,早かったようにも思いますし,また長かったようにも思います。以前にもお話ししたように,この10年は「自分自身を見つめて,そして,自分自身を成長させることができた」10年だったと思います。結婚により,私の生活も雅子ほどではないですが,変わりました。その過程で,私自身どうしたらよいか迷ったこともあったように記憶していますが,二人で様々なことを一緒にやり,二人で喜びや悲しみなども分かち合いつつ歩んできたと思います。私自身としては二人で様々なことを共に行ったり共有することの中に喜びが存在したように思います。また,お互いを信じ合い,互いの人格を尊重し合うことにも努めてきたつもりです。

今までの経験を糧に,新たな気持ちでこれからの10年を過ごしていきたいと思います。この10年間私たちを温かく見守ってくださった全ての方々に,心からお礼を申し上げます。

皇太子妃殿下

10年間という月日を思い起こしますと,大変深い感慨に包まれます。10年前の6月9日に多くの方々からの沢山の祝福を受けて結婚の日を迎えましたことを,心からの感謝をもって懐かしく思い出します。結婚当日に先立ち,様々な準備をしていたころを思い出しますと,随分と前のことであったようにも思われますし,逆に自分が,今こうしてここにもう10年もいさせていただいているのだと思うと,信じられないような気もいたします。

10年の間には,様々な喜びや楽しみも皇太子様と分かち合わせていただきました。同時に,人は誰でもそれぞれの境遇の中で困難に出会い,乗り越えていかなくてはならないものと思いますが,私自身,それまでとは全く異なった新しい世界に入り,それまで想像できなかったような難しさというものに出会うことも度々ありました。そのような時,皇太子様にはいつも私の側にいらして相談に乗ってくださり,私を励まし,支えてくださったことに,心からの感謝を申し上げたいと思います。

登山や散策を通しての自然とのふれあい,そして,音楽の楽しみも皇太子様から沢山教えていただきました。また,犬のピッピ,まり(この夏でもう8歳になります。)を交えての生活は,私の心にいつも安らぎと潤いを与えてくれました。

そして,今は何より,ちょうど1年半になりました娘の愛子が本当に元気に明るく育ってくれていることを,うれしく有り難く思いますとともに,おととし暮れの愛子の誕生とその後の成長に対し,国民の皆さんより寄せていただいている温かい祝福の気持ちを心より有り難く思い,この皆さんからの温かい気持ちを大切にしていきたいと思っております。

この10年間,沢山の方々に助けていただいて,こうして10周年の記念日を迎えることができますことに,心から感謝したいと思います。

問2 両殿下にそれぞれ,お尋ねします。
これからの10年,どのような家庭,生活様式(ライフスタイル)を希望されますか。二人目のお子様についても併せて,具体的にお聞かせください。
将来の皇室像やご自身について,両殿下は「若い世代の皇族としての望ましい姿勢を常に模索して,21世紀の皇室にふさわしい活動ができれば」「子供を通してまた世の中のいろいろな新しい面も見えてくるのでは」などとおっしゃっていますが,これから,皇族としてどのような姿を国民に示そうとお考えですか。公務に取り組む上での視点やテーマ,国民との触れ合いの持ち方についても,お考えをお聞かせください。
皇太子殿下

一昨年暮れに子供を授かったことは,とても有り難いことでした。愛子もお陰様で順調に育っており,日々の成長が楽しみです。これからも愛子を二人で一生懸命育て,明るい家庭を築いていきたいと思います。幼いうちに子供に対し,しっかりと愛情を注ぐことは,この上なく大切なことです。その意味でも,以前にも申し上げたことの繰り返しになりますが,今しばらくは,愛子の子育てを大切にしていきたいと思っています。二人目の子供について質問がありましたが,今後,一人目に至るまでにあったような内外からのプレッシャーを是非とも避けたく,この点につき,よろしくお願いしたいと思います。

将来の皇室像については,今までの繰り返しになりますが,時代の要請を的確に感じ取って若い世代の皇室にふさわしい活動ができればと思います。私は,皇族として,公務というものはとても大切なものと思います。公務を通して様々な事を知り,国民ともふれあっていきたいと思います。かねがね私たちは,21世紀の皇室にふさわしい活動ができればと申してきましたが,それは,目まぐるしく変化の大きい今の時代を考えたとき,公務として,自分たちがするのに何が大切かということを見極めることです。今までの公務も含め,ここでもう一度,私たちの公務についてもそのような視点で考えてみたいと思います。そして,今後の日本や世界の将来を担っていくことになる若い人たちとの交流を,大切にしていきたいと思います。

また,海外への親善訪問は皇族としての活動の中でも大切なものですので,今後も機会を見つけては諸外国を訪問し,親善訪問の分野でもお役に立ちたいと考えます。

皇太子妃殿下

とても難しい質問ですが,現在,世の中は大変な速度で変わりつつあるように思います。私が皇室に入りましたころと今を比較してみますと,この10年間で,例えばインターネットの普及一つとってみましても,どれ程世の中が変わったかということに驚かされます。

このような中で,皇族としての私たちの世代に,これからどのような姿が望まれるかということについては,様々な角度から考えていくことが大切なのではないかと思います。広く人々の幸せを祈りつつ,これからの日本や世界の人々にとって何が大切になってくるかという将来像を自分なりに把握するように努め,広い視野に立って世の中に関わっていくことを考えていかれればと思います。そして,皇太子様とよくご相談しながら,皇太子様にとっても少しでもお力になることができるよう,努めていきたいと思います。

家庭にあっては,娘の愛子が日々沢山の喜びをもたらしてくれることを大変幸せに感じます。また,同時に,急速に変化している社会の中にあって,皇室において子供を育てていく上での親としての責任の大きさも感じますが,愛情をもって子供を育て,皇太子様にとっても,また子供にとっても安らぎのある温かい家庭となればうれしく思います。同時に,子供が広く世の中を知って育っていくことができるよう,心懸けていきたいと思っています。

また,今の時点で,公務ももちろん大切に考えていますが,子供にとって,人生の最初の何年間はとても大切な時期とも聞きますので,愛子の成長を見守り,助けていく育児も,親として大切にしていきたいと考えています。

問3 両殿下にそれぞれ,お尋ねします。
10年という節目に当たり,お互いに相手に対し,どのような言葉をかけたいと思われますか。そして,殿下は妃殿下を妻,母親として,妃殿下は殿下を夫,父親として,何点をお付けになりますか。その理由は何でしょうか。夫婦の間で大切にしてきた約束事や子育ての方法など,家庭での「主導権」を握るのはどちらか。「夫婦円満」の秘訣は。お互いに感謝したい点,学んだ点,そして注文したい点を,具体的なエピソードも交えて,お聞かせください。
皇太子殿下

本当にこの10年いろいろとご苦労様でした。よく努力しました。いろいろとありがとう。と言いたいです。点数を付けるのは難しいのですが,最初にお話ししたことからもお分かりのように,私は,雅子は,「努力賞」と「感謝状」ならぬ「感謝賞」のダブル受賞ではないかと思います。

夫婦として,よく心懸けたこととしては,お互いによく話し合うことと相手の立場に立って物事を考えていこうとしたことだったと思います。公務でお互い忙しいときもありますが,食事の折りや機会を見付けては,どんなに小さいことでも,気付いたことがあればお互いに意見を交換するようにしてきました。雅子にとって,私がとても大変だったのではと思うことの一つに,常に人に見られ注目されるということが挙げられます。私の場合は生まれながらに皇族でした。そして,そのようなことには,時間をかけて徐々に慣れてきたように思います。雅子の場合はそれが私と結婚したとたんに始まったわけです。(それ以前からとも考えられますが....。)よく,今日まで視線に耐えて頑張っていると思います。私は,人に見られることや注目されることに疑問を持った自分自身の幼少のころや,それに徐々に慣れていく過程を思い出しながらアドバイスするように努めたつもりです。(ただ,自分として,これらをどこまで実践できたかは分かりませんが。)また,懐妊へのプレッシャーはとても大きなものがありました。雅子にとっては本当につらい日々だったと思いますが,二人で乗り切ることができたことは有り難いことでした。「夫婦円満の秘訣」は何でしょうか?先ほどお話ししたお互いよく話し合うことと相手の立場に立って物事を考えることに加えて,自分が間違っていたと思ったら素直に謝ることでしょうか。

子育ての方法としては,できるだけ私も育児に参加したいと思ってきましたし,今後もそうしたいと考えています。これからは父親の役割,母親の役割というものも自ずと分かれてくるでしょうから,母親と子供とのコミュニケーションも父親の立場から大切にしていきたいですね。

感謝したい点は,まず,雅子がそこにいてくれることです。雅子がいてくれるだけで心が明るくなるのを感じます。ユーモアがあるのもうれしいことです。学んだ点としては,今までの本人の経験や体験などから私が学ぶことが多かったと思います。海外での生活や外交官としての仕事あるいは帰国子女としての体験などがそうでしょうか。そして,そのような経験や体験を基に形作られる雅子の物事のとらえ方や考え方からも多くのことを学びましたし,自分の世界が広がったように思います。趣味の音楽や山歩きでも,結婚後関心の対象が膨らんだこともうれしいことです。学んだ点は即感謝したい点とも言えるのではないでしょうか。一つ付け加えれば,結婚当初私が学んだこととして丹念に資料に目を通すことが挙げられます。私などは,繰り返しの公務については当時は余り資料には目を通していませんでしたが,雅子の態度を見て改めて資料を読み直し,気付いた点もありましたし,自分のいい加減さに反省させられました。

注文したい点は,余り無理をしないようにということかもしれません。大変まじめで忍耐強く,よく努力するので,少し気を抜けるように私も力添えができればと思います。殊に,子育てと公務を同時にすることはとても大変なことですので,その辺りの調整も必要になってくるかと思います。くれぐれも体を大切にして欲しいと思います。

皇太子妃殿下

皇太子様にこのように仰っていただいて胸に熱く迫ってくるものを感じますと同時に,私としては穴があったら入りたい気分でもございます。(皇太子様の仰った「資料によく目を通す」件も,もう既にはるか昔のことになってしまいました...。)

皇太子様に,私からは,全てにわたり本当にありがとうございました,と感謝の気持ちで一杯です。

この10年間,どのような時も私に優しくお心を配って支えてくださいましたことに,感謝の念は尽きません。いつどのような時でも,物事を平常心でお受け止めになり,堂々となさっていらっしゃると同時に,ユーモアもお忘れにならないゆとりのおありになる皇太子様からは,教えていただくことが本当に多く,日々の生活の中でも大きな安堵感を与えてくださっています。

また,娘が生まれましてからは,本当に素晴らしいお父様ぶりで,愛子も皇太子様に大変なついております。このことは,私にとり,とてもうれしいことであると同時に,とても心強いことに感じます。これまでもそうでしたが,これから皇室の中にあって,子供を育てていく上で,私がいろいろと迷った時に,皇室の中でお育ちになった皇太子様が,良きお父様として,確かな手で導いてくださると信じられるからです。

皇太子様に点数を差し上げることは少々はばかられるような気もいたしますが,もし,満点というものがあるのでしたら,皇太子様は満点以上でいらっしゃることは確かではないでしょうか。

これまで,皇太子様にお助けいただいて,私が10年間の時を無事に過ごしてくることができました分,これからは私も皇太子様のおみ足をお引っ張り申し上げないよう,皇太子様がお元気にお役目を果たしていらっしゃれますよう努めてまいりたいと思います。

ところで,私自身は,今日は全ての質問への答えをまとめることが難しく感じられ,試験で落第点をとった夢を見そうな気がしています...。