皇太子妃殿下のお誕生日に際し(平成7年)

皇太子妃殿下のお誕生日(平成7年12月9日)に際して
宮内記者会の質問に対する文書ご回答

問1 この1年間で最も印象に残った出来事と,感想をお聞かせください。また,これから勉強・研究したいテーマ,取り組んでみたいとお考えのことはありますか。
皇太子妃殿下

今年は,年初の阪神・淡路大震災で,多くの尊い命が奪われ,多くの人々が計り知れない悲しみ,苦しみを味わわれたことを思い,また,その後にも,痛ましい社会的事件が起きるなど,深く心の痛む一年でした。その一方で,阪神・淡路大震災の被災地では,被災された方々が互いに励まし合い,助け合いながら大きな困難を乗り越えていこうとされる姿,そして,ボランティアの方たちや海外からの援助を含め,被災地の救援・復興のために尽くそうとされる多くの人々の善意を知り,強く感銘を受けました。

今年はまた,戦後50年という年でもありましたが,多くの一般市民の犠牲を伴った今世紀二度の世界大戦という人類の不幸な歴史を顧み,先の大戦で払われた多くの方々の犠牲に深く思いをはせ,平和への思いを新たにいたしました。同時に,世界の中では,まだ,争いや戦火の絶えないところがあることも心に留め,50年という節目の年を過ぎても,今後とも世界の平和を希求していくことを忘れてはならないと改めて感じます。その意味でも,旧ユーゴスラビア諸国の和平への道のりに願いを託すとともに,中東地域の和平に力を注いでこられたイスラエルのラビン首相の不幸を残念に思います。

皇室では,秩父宮妃殿下の薨去という悲しい出来事もございました。この1年間,国の内外において多くの苦難があったことを振り返るとき,来年が安らかな年となることを祈らずにはいられません。

私自身につきましては,今後とも,国民の福祉の向上や国際親善関係の増進などに関心を寄せ,国内そして広く世界で起きている様々な問題について理解を深めていきたいと思います。

問2 ご結婚から2年半になります。皇室の生活にはお慣れになりましたか。当初,抱かれていた印象と現実との違いや,難しいと感じられることなどがあれば,お聞かせください。
皇太子妃殿下

2年前,皇室に入りまして初めて迎えた誕生日の折に,結婚後の最初の2~3か月は無我夢中で日々を過ごしていたように感じますと記したことを懐かしく思い出します。

皇室の生活については,まわりの方々に温かくお教えをいただき,支えていただいておりますお陰で,新しい環境に大きく戸惑うということも余りなく今日まできておりますことを大変有り難く思います。現在の立場に実際に身を置いてみますと,その時々の状況においてどのように心配りをすべきか苦心することはありますし,また,後になって自分の至らなかったことに気付き反省することもあります。そのような中で,天皇皇后両陛下並びに皇太子殿下には,結婚以来今日まで,私の至らないところもお優しくお受け止め下さり,常に温かくお導き,お見守り下さいますことを心から感謝申し上げております。

問3 両陛下,皇族がたは「国民とともに歩む皇室」をモットーとされています。妃殿下は,「国民とともに歩む」とは,具体的にどのようなことだと思われますか。いまの国民と皇室との関係について,どんな印象をお持ちでしょうか。
皇太子妃殿下

「国民と共に歩む皇室」の具体像を描くことは容易ではないと思いますが,国民が皇室に何を希望し期待しているかということを常に考えて行くことが大切であると思います。人々の苦しみ,悲しみを自らのものとして感じ,また人々の喜びを共に分かち合い,国民の幸せを祈り続けていくことが,国民と共にある皇室の基本にあると思います。殊に,苦しみ,悲しんでいる人々,恵まれない境遇に置かれている人々の痛みに心を寄せ,そのような人々の幸せを祈りつつ,その時々に皇族としてどのようなことができるのか考えていくことが大切であると思います。希望を失いかけている人々が,何らかの希望を見いだす一助となることができればと感じます。

皇室に入りましてから,両陛下のお姿をお側で拝見し,両陛下が常日ごろよりどれほどか国民の幸福を念じられ,人の不幸や苦境というものにお心をお痛めになり,お心をお砕きになっていらっしゃるかを存じ上げ,深く感銘を受けますとともに,そのようなお姿から様々なことをお教えいただいております。

問4 私的な時間は,どのようにすごされていますか。ご自身の健康管理で配慮していること,最近読んだ本などで印象深かったものがあれば,あわせてお聞かせ下さい。
皇太子妃殿下

公務の準備などに充てる時間以外は,読書を含め,世の中の事をなるべく広く知り,深く理解できるよう研鑽を積むことに努めて日々を過ごしていきたいと思っています。それとともに,健康な体と心を保っていくためにも,気分転換を図ることも大切にし,散策や戸外でのスポーツを楽しんだり,関心をもっている動植物や自然界のことについて知ることを楽しみにしています。年に何回か殿下にご一緒して豊かな自然の中で過ごすことは私の大きな楽しみとなっています。

問5 ダイアナ妃のテレビインタビューはご覧になったと思います。ダイアナ妃は王室入りした当初,皇太子妃としての自分の役割について戸惑い,葛藤があったと話されていました。妃殿下には,同じような経験がおありですか。皇室におけるご自身の役割について,お気持をお聞かせ下さい。
また,ダイアナ妃は「自分に対するマスコミの過剰報道に恐怖を感じた」とも話されました。妃殿下も雑誌やテレビで頻繁に取り上げられています。ご自身に関する報道について,どう感じていらっしゃるかお聞かせください。
皇太子妃殿下

皇室に入りましてから今日まで,皇太子殿下にお導きをいただきながら日々の務めを大切に過ごしてまいりました。その中で,公務などを通じ,様々な場面で多くの人々の善意と献身を目の当たりにするとき,大きな喜びを感じ,私自身にとっても励みとなっています。これからも,天皇皇后両陛下を皇太子殿下とともにお助けし,また,皇太子殿下にお力添えすることができますよう,一つ一つの事柄を大切に学びながら,心を込めて務めを果たしていくことを心がけたいと思います。

報道に関しましては,私自身についての報道をすべては承知しておりませんが,私自身のことに留まらず,一般論として,個人を尊重し,正確で公平な内容の報道がなされることを願っております。