スペインご訪問に際し(平成25年)

皇太子殿下の記者会見

ご訪問国:スペイン

ご訪問期間:平成25年6月10日~6月16日

会見年月日:平成25年6月6日

会見場所:東宮御所

記者会見をなさる皇太子殿下
<宮内記者会代表質問>
問1 スペインは,約400年前から我が国と交流が続いてきた国であり,天皇,皇后両陛下が1994年にご訪問され,皇太子さまも過去に5回訪れるなど日本の皇室とも縁が深い国です。皇太子ご夫妻は6月9日にご結婚20周年の節目を迎えられますが,お二人が初めて出会われたのは,1986年のエレナ王女の歓迎行事でもあり,ご夫妻にとっても思い出深い国と推察します。今回は,両陛下との関係も深いサラマンカ訪問,東日本大震災の津波で大きな被害を受けた宮城県石巻市から出航した支倉常長らの慶長遣欧使節団関連の行事も予定されていますが,ご訪問にあたっての抱負をお聞かせください。
皇太子殿下

この度,スペイン国からのご招待を受けて,「日本スペイン交流400周年」名誉総裁として,同国を訪問できることを大変うれしく思いますとともに,ご招待に心から感謝いたします。「日本スペイン交流400周年」には,フェリペ皇太子殿下がスペイン側の名誉総裁をお務めになられていますが,フェリペ皇太子殿下とご一緒に,長い歴史を持つ日スペイン間の交流を更に進めるために,少しでもお役に立てればと考えております。また,今回の訪問においても,フアン・カルロス国王王妃両陛下,フェリペ皇太子同妃両殿下にお会いできることを楽しみにしております。国王王妃両陛下には昼食会に,そして,皇太子同妃両殿下には晩餐会にそれぞれご招待いただいており,また,マドリード滞在中は,パルド宮殿に宿泊させていただくなど,温かいご配慮を頂いていることに心から感謝しております。

振り返ってみますと,天皇皇后両陛下には,長年にわたり,スペイン王室と交流を深めてこられました。私自身,今回の訪問が6回目のスペイン訪問となりますが,スペイン王室との親密な関係を更に深めることができればと思っております。

我が国とスペインの交流は,長い歴史を持つのみならず,様々な人々が関わり,幅広い分野で行われてきております。今後とも,経済,科学技術,文化,観光・スポーツなどを含め,交流が拡大し,更に深められていく可能性が多くあります。私は,1976年に初めてスペインを訪問して以来,スペインの幾多の都市や地方を訪問しておりますけれども,訪問するたびに多様なスペインの新たな魅力を発見しています。諸処に見られるイスラム文化の影響,地域地域で特色ある町の存在など,多様性に富んだ社会や文化を有しており,その魅力は豊富です。今回も多くの方々との新たな出会いや交流が生まれるのではないかと期待しております。

今年は,日本からスペインへの最初の公式使節団として,支倉常長が率いる慶長遣欧使節団が派遣されて400年になりますが,まず,この長い交流の歴史に思いをはせたいと思います。そして,遣欧使節団が派遣される2年前の1611年に,折しも,2年前に東北地方を襲った大地震と津波と同様の災害が東北地方に起こっていた事実を想起する必要があります。当時,日本を訪れていたスペイン人の探検家のビスカイノは,津波を船上から目撃し,上陸後にその惨状を記録にしたためています。遣欧使節団の派遣には,その当時,その地域を治めていた伊達政宗を始めとした人々の,地震・津波災害にも負けず,むしろ領国の復興のためにも海外との交易を実現させようとした強い意志を感じます。今回訪問するアンダルシア州のセビリアやコリア・デル・リオは,約400年前に使節団が訪れた縁のある土地です。400年前に,使節団がどのような思いで宮城県の石巻港を出発し,スペインの地で交流を始めたのか,訪問を通じその歴史をたどってみたいと思います。また,使節団の一部が永住し,その子孫と言われる,スペイン語で「日本」を意味する「ハポン」姓の方々は,現在,各方面で活躍されており,私も以前にも訪問したセビリアでその中の一人にお会いしたことを記憶しており,こうした皆さんとの更なる交流を楽しみにしております。ちなみに,私は,3年前にアフリカのケニアからの帰路立ち寄ったローマで,支倉常長と,その当時日本で布教をしていたスペイン人のフランシスコ会士,ルイス・ソテロが共に描かれたフレスコ画を,大統領官邸であるクイリナーレ宮で見ていますが,その時は,このような形で支倉常長の足跡をたどることになるとは思いませんでした。

第二に,これからの1年,交流年開幕記念音楽会を始め,日スペイン間の協力と多くの方々の自発的な参加により,様々な交流行事が企画されています。今後,交流の機運が更に高まることを期待しています。特に,日スペイン両国間では,政府レベルの協力に加え,経済界,学術界を始め,幅広い交流が進められており,今回,こうした民間レベルでの交流の進展を肌で感じてきたいと思います。経済の分野では,今回の交流年に併せて約10年ぶりに両国の経済人が参加して日西経済合同委員会が開催されます。この開会式において,経済のみならず,幅広い分野における将来の日スペイン交流をどのように考えるか,私自身の考えをお話しさせていただきたいと思います。また,学術分野では,スペイン最古のサラマンカ大学との協力関係は深まっており,1994年の天皇皇后両陛下のご訪問を契機に設立を進められた「日西文化センター」は,本年設立15周年を迎え,交流の拠点の一つとなっております。大学関係者などから,将来の交流の在り方について伺いたいと思っています。文化交流の分野では,マドリードの日本美術展のオープニングに参加するほか,「支倉常長とその時代展」を視察しますが,この美術展は,日本美術を専門とするスペインの多くの研究者が関与されており,交流の現場で活躍されている方々と,将来の文化交流についてお話しするのを楽しみにしています。

第三に,日本とスペインは,異なる地域,文化圏に属する一方で,両国が長い歴史と伝統を有することを始め,多くの共通点を有しております。ガリシア州では,キリスト教三大聖地の一つとされる古都サンティアゴ・デ・コンポステーラにおいてサンティアゴ巡礼道を訪問します。私は,先月,サンティアゴ巡礼道の姉妹道であり,共に世界遺産に指定されている熊野古道を訪れましたが,文化遺産の保存を通じ,いかに歴史から学び,伝統と文化を次世代に受け継いでいくのか,両国が相互に学び合うことも多いのではないかと思います。また,サラマンカでは,大聖堂を訪問し,パイプオルガンの演奏を鑑賞する予定ですが,このパイプオルガンは,1985年に天皇皇后両陛下が皇太子同妃両殿下時代に大聖堂を訪問されたのを契機に,日本人オルガン製作者の手で修復されたものです。今後とも文化の保存と振興のために,このような交流が行われることを願っております。

第四に,我が国とスペイン両国が高い関心を持つ「水」の分野でもお互いから学ぶことが多いと考えています。2008年には,「水と持続可能な開発」をテーマとするサラゴサ国際博覧会を訪問しました。スペインは,ローマ時代のセゴビアの水道橋を始め長い水管理の歴史を有しています。私は,歴史を専門とする立場からも,「水」の問題について,歴史から学ぶことの大切さを強く感じており,本年3月のニューヨークの国連本部における「水と災害に関する特別会合」でもこのことをお話ししました。今回のスペイン訪問中,1858年から運用されているマドリードの上水システムの管理センターを視察しますが,水管理においてのスペインの経験と歴史及びこれに基づく最新鋭の管理システムについて学びたいと考えています。また,サラマンカ大学は,「水資源研究・開発センター」を有するなど「水」の分野でも研究が盛んです。大学を訪問する際には,同大学が有する「水」に関する古文書を見て,水の研究者や学生の方々と意見交換をする予定です。さらに,スペインは,ドン・キホーテの風車の話が有名ですが,風力発電といった再生可能エネルギーへの取組でも進んでおり,「水」を含む環境分野やエネルギーの分野でも,日スペイン間の幅広い交流が進むことを期待しています。

最後になりますが,東日本大震災の際には,スペイン王室,政府を始めとする様々な方々から弔意と連帯の意が示され,支援の手が差し伸べられました。また,多くの地方自治体で連帯集会等が開催され,多数の民間企業や市民から,励ましや募金を頂きました。さらに,2011年10月には,福島第一原発事故の初動対応に従事した「フクシマの英雄たち」に,スペインで最も権威ある「アストゥリアス皇太子賞」がフェリペ皇太子殿下より授与されました。こうした温かい支援と連帯の表明は,両国のきずなを深めるものであり,私は,今回の訪問に際して,こうした支援に対する感謝の気持ちをお伝えし,両国のきずなを再確認したいと思います。そのためにも,多くのスペインの方々と交流することを楽しみにしております。

問2 オランダ王位継承行事ではご夫妻で即位式,レセプションにご臨席され,療養中の雅子さまにとっては11年ぶりの公務での外国訪問が実現しました。一方,スペイン訪問については,雅子さまが同行されないことが1カ月前に決まっています。雅子さまがオランダ訪問を決められた経緯,また,今回の同行を見送られた理由はどのようなものだったのでしょうか。雅子さまの現在のご様子や今後の外国訪問の見通しについても合わせてお聞かせください。
皇太子殿下

スペイン国への訪問は,「日本スペイン交流400周年」の機会に行われるものであり,また,我が国皇室とスペイン国王室とは親密な関係にあり,大変重要な訪問であると考えています。同時に,今回の訪問は,多数の公式行事があり,一週間で五つの都市を訪問するといった忙しい日程となっておりますので,私一人で訪問することとなりました。

この10年を振り返ると,雅子は,病気の治療を続ける中で,体調をその都度調えながら,公私にわたってできる限りの活動をしてきました。そうした中で,今年4月末に行われたオランダ国のウィレム・アレキサンダー国王陛下の即位式への参列のため,二人そろってオランダ国を訪問できたことに安いたしますとともに,このことを大変うれしく思っております。国王陛下の即位式はその国にとって,最も重く大切な行事の一つであることは言うまでもありません。オランダ王室からは,雅子の出席について,即位式とそれに続くレセプションという中心行事に出席していただければ,そのほかの行事についてはご無理いただかなくても結構ですとのご配慮を頂いたことは大変有り難いことでした。

かなり長いこと外国を公式に訪れていなかった雅子にとっては,大きな決断であり,大きな一歩でしたが,この行事に臨むことが,新たな一歩を踏み出す一つの契機になるのではないかと思い,雅子の体力的な点を含めて,お医者様とも相談の上で決まりました。雅子には,体調に波がある中での訪問でしたので,訪問と現地での行事出席の実現に向けての体調の調整には相当気を遣ったと思いますが,本人の努力も実り,無事に訪問を終えることができました。今回,オランダを訪問し,即位式に出席できたことは,雅子にとっても一つの自信になったように思います。

何より,天皇皇后両陛下が長年にわたり,オランダ王室との間に友好と信頼関係を築いてこられたことが,今回の訪問の実現につながったものと感謝しております。また,両陛下には雅子の体調にもお気遣いいただいたことにもお礼を申し上げます。そして,多くの方々にお励ましいただいたことも有り難く思っております。

このように,雅子は,確かに快方に向かっておりますが,これですぐに活動の幅が広がるというわけではないと思います。お医者様からご助言いただいているように,体調を調えながら,まずは,できることから少しずつ時間をかけてやっていってほしいと考えています。国民の皆様より私たちに対して温かいお気持ちを寄せていただいておりますことに改めて心より感謝の気持ちをお伝えしますとともに,引き続き温かくお見守りいただきたく思います。

<在日外国報道協会代表質問>
問3 日本とスペインの友好400周年にあたりますが,現在のスペイン王室と日本の皇室でも交流が多いと思われます。スペインでは,皇太子ご夫妻が来年のご成婚10年を控えて,今後のスペイン王室の将来像がどうあるべきか議論が高まっております。同じ皇太子として今後の皇室外交のあり方,役割についてどのように思われるでしょうか。
皇太子殿下

天皇皇后両陛下は,これまでフアン・カルロス国王王妃両陛下と交流を深めておられ,また,我が国皇室とスペイン国王室との関係は,頻繁に相互に訪問が行われるなど,親密であることは,先ほどもお話ししたとおりです。私自身,フェリペ皇太子殿下のご結婚式に参列し,また,雅子と共にフェリペ皇太子同妃両殿下を東宮御所にお迎えするなど,フェリペ皇太子同妃両殿下と親しく交流させていただいております。

公務としての外国訪問については,皇室の役割の一つとしての国際親善の観点から極めて重要であると考えています。特に,今回の訪問は,日スペイン交流400周年という記念の年に,名誉総裁という立場で,日スペイン関係のきずなを更に強固なものとすることに貢献できればと思っております。

<関連質問>
問1 今回スペインの訪問に当たって妃殿下も殿下と一緒にスペインについて,資料を見たりされることもあると思いますが,殿下に妃殿下から何かアドバイスといいますか,何かお話がございましたら教えてください。
皇太子殿下

確かに,スペインについては今回,6回目の訪問となりますが,雅子も地域は限られますけどもスペインの北部の方には行ったことがあるようですので,私としては今まで私が見てきたスペインのいろいろな場所について,そしてまた私が知っている範囲でスペインの社会や文化について,この訪問に当たって,折に触れていろいろ話をしてきております。

これからスペインに訪問して,そしてまた先ほども話しましたけれども,新たにいろいろな発見があると思いますので,そういったことについて帰国してからまた話をしてみたいと思っています。

問2 先ほどのオランダ訪問を終えての雅子さまのご様子なんですが,殿下は一つの自信になったようだとおっしゃいましたが,具体的に雅子さまご自身のお言葉やご感想など,もしご紹介していただけるようなものがあればお願いしたいと思います。
皇太子殿下

私が自信を持ったのではないかと思ったのは,雅子自身が今回オランダに伺うことができたことを本当に良かったというふうに喜んでいるということ,それからまた話をしている節々から,今回のオランダ訪問は本当に雅子にとっても良いことだったのではないか,一つの自信を持つことになったのではないか,そういうふうに感じたわけです。