ブラジルご訪問に際し(平成20年)

皇太子殿下の記者会見

ご訪問国:ブラジル

ご訪問期間:平成20年6月16日~6月27日

会見年月日:平成20年6月11日

会見場所:東宮御所

記者会見をなさる皇太子殿下
(写真:宮内庁)
<宮内記者会代表質問>
問1 日本人のブラジル移住100周年に当たって訪問される抱負をお聞かせください。日系ブラジル人は今や150万人を数える一方,その5分の1に当たる30万人が日本で生活するようになり,天皇皇后両陛下は4月に群馬県を訪れて日系ブラジル人の仕事振りなどを視察されました。こうした現状を殿下はどのように見ていらっしゃいますか。皇后さまは昨年の誕生日の文書回答の中で,「残念ながら現地にはまいれませんが,日本にあって,陛下とご一緒に日系移住者の苦労を思い,幸せであるよう祈りたい」とのお気持ちを示されました。訪問に向けて両陛下からお聞きになったことがあれば,併せてお話しください。
皇太子殿下

日本人のブラジル移住100周年に当たり,ブラジル政府からのご招待により,ブラジル国を訪問することができますことを大変うれしく思っております。ご招待頂いたルーラ大統領閣下を始めブラジル国政府に対し心から感謝の意を表したいと思います。私のブラジル国への最初の訪問は昭和57年ですので,今回は26年振りになります。

今年は,ブラジルへの最初の移民船である笠戸丸(かさとまる)がブラジルへ渡って100年に当たります。移住された方やそのご子孫とお会いし,お話を伺い,これまでの皆さんのご苦労に思いを致すとともに,ブラジル国内において活躍されている様子も拝見したいと思います。

今回の訪問に先立って,私は,日本ブラジル交流年の名誉総裁として,4月24日には,天皇皇后両陛下ご臨席の下,東京で開催された日本ブラジル交流年・日本人ブラジル移住100周年記念の式典に出席いたしました。また,4月28日には,神戸で開催された日伯交流年・ブラジル移住100周年記念式典にも出席しました。神戸では,100年前に,海外移住者が出発前の日々を送った,海外移住センターで「友情の灯」が,採火され,当時の笠戸丸の出航の時刻にちょうど合わせて,神戸港からブラジルのサントス港へ送り出されました。笠戸丸が出航した明治41年当時に思いをはせ,感慨深いものがありました。笠戸丸に始まり,その後もブラジルに渡られた数多くの移住者の方々の不安,ご苦労はいかばかりであったかと思います。その一方で,ブラジルに渡った方々からは,今回の式典の折もそうでしたが,ブラジルという国は自分たちを温かく受け入れてくれたというブラジルに対する感謝の言葉を幾度となく伺いました。

私が最初にブラジルという国を身近に感じたのは,私が7歳のときにブラジルと日本とのサッカーの試合を観戦した折ではなかったかと思います。ブラジルのサッカーはとても上手なのに驚いたことを記憶しています。その後は,ブラジルの日系の方々と東宮御所を始めとした場所でお会いする機会もありました。

私の最初のブラジル訪問の際には,笠戸丸で52日掛かったところを,飛行機で2日で移動し,ブラジルの方々に大変温かく迎えていただきました。ブラジルの国土の広さ,多様性,そして人々の明るさが殊に印象に残っています。そして,何よりも,同じ日本人としてのルーツを持つ日系の方々が幾多の困難の中で地道に努力されてきたことに対するブラジル社会の高い評価が両国関係の基礎になっていることを強く感じたことを覚えております。

笠戸丸から100年後の今日,日本とブラジルとの関係は,100年前には想像もできなかったほどに緊密になり,現在では30万人以上の日系人がブラジルから日本に来て生活するようになりました。また,日本とブラジル両国ともそれぞれに発展し,国際社会の中で,様々な課題の解決に向けて今後とも一層緊密な連携が求められております。

日本とブラジル両国の間を行き来された日系人の存在は,正に両国間の懸け橋になるものと思います。日系人の皆さんの長年にわたる地道なご努力への敬意と日本人移住者を温かく受け入れてきたブラジル政府及びブラジル国民への感謝を忘れずに,両国が将来にわたって関係を発展させていくことを希望します。私自身も今回のブラジル訪問を通じて,近年著しい発展を遂げているブラジルの今の姿を見てみたいと思います。そして私の訪問が,両国の友好親善関係の更なる発展に少しでも貢献できるのであれば幸いです。

私は小さいころから折に触れ,天皇皇后両陛下から地球の反対側に移住した私たちと同じ日本人について,その多くのご苦労や,移住した国に対する大きな貢献について伺ってきました。移住者の皆さんが,厳しい環境の中でまじめに努力を積み重ね,地域の人々から信頼されるようになったこと,そして今日,日系人の方々が様々な分野で活躍し,ブラジル社会に貢献していることを頼もしく感じていらっしゃること,また,それまでの日系人のご苦労に深く思いを致されるとともに,その陰には長年にわたって,日本人移住者を温かく受け入れてきたブラジル政府並びにブラジル国民の厚意があったことを忘れることはできないとのお話を伺っています。実際に今日まで,日系人の方々が歩んでこられた困難な道のりについて,ご存じの話をしてくださったり,入植した日系人が,胡椒(こしょう),ピメンタですけれども,そのピメンタの栽培で苦労されたことについて書かれた本を読むように言われたり,今日まで,いろいろな話を伺っています。また,私も海外への最初の公式訪問がブラジルであり,弟の秋篠宮や妹の清子も同じく,ブラジルが最初の公式訪問国になったことを両陛下がとても喜んでおられたことを記憶しております。

両陛下ご自身もこの100周年という記念すべき年に,日系人の方々に何かできることはないかと考えられ,4月には,日系ブラジル人が多く暮らす,群馬県の大泉町(まち)を訪問されて,日本で生活するブラジル日系人へのお心遣いを示されましたが,さらに,既に発表されているように,サンパウロにあるブラジル日本移民史料館にご下賜金をお出しになることにされました。今回,そのご下賜金を,私が現地でお渡しすることになっています。

問2 今回のブラジルは,前回のモンゴルに続いて皇太子殿下お一人での訪問になります。最初から単独での訪問として準備が進められましたが,どのような判断だったのでしょうか。妃殿下のお気持ちも含め,殿下のお考えをお聞かせください。7月のスペイン訪問についても単独でと発表されましたが,妃殿下の海外訪問の見通しについてもお聞かせください。
皇太子殿下

今回,ブラジル国政府からご招待頂いたことを雅子もとても有り難く思っています。お伺いできないことを本人はもとより,私も残念に思っています。今回の訪問においては,訪問国が遠隔の地であることに加えて,各地で執り行われる移住100周年記念行事への出席という訪問の目的のために訪問期間が長く,また連続して出席する必要のある式典・交流行事が予定されているので,お医者様ともご相談の上,総合的に判断して,私一人で訪問することにいたしました。また,現地での準備の都合などを考え,早い段階で決定しました。私たち夫妻での訪問をと願っておられた,現地のブラジルの方々,そして日系人の方々のご期待にそえないことは忍びないものがありますが,ご理解いただきたく思います。

スペインについても,検討に時間的な余裕がありましたが,同様に総合的に判断して難しいということになりました。今後の外国訪問についても,ケース・バイ・ケースでお医者様と相談しつつ判断することになろうかと思います。基本的には,前からお話ししているように外国訪問は我が国と諸外国との友好親善を増進する上でも良い機会であり,今後とも大切にしていきたいと考えております。

<在日外国報道協会代表質問>
問3 三つ目の質問をさせていただきたいと思います。
今年は,日本人のブラジル移住100周年の年に当たります。一方,皇太子殿下のおっしゃいましたように,多くの日系ブラジル人が日本で生活を営んでおります。しかし,現実には日本の社会に順応するのに多くの苦労をされているようです。少子高齢化で日本の人口が減少し始めた今,移民又は外国人に,より開かれた社会を作るために日本はどういったことができますでしょうか。お考えをお聞かせ願えますか。
また,移民に開かれた社会を作るということが,日本として優先的に取り組むべき課題であるとお考えになりますでしょうか。
皇太子殿下

現在,我が国には200万人を超える外国の方々が滞在しており,そのうち,ブラジルから来ている方々は,繰り返しになりますが,30万人を超えていると伺っています。こうした外国の方々には,様々な分野で日本に多くの貢献をされていると思います。その一方,言葉や習慣の違いから,ご苦労されることも多いかと思います。特に子どもの場合は,教育面で,例えば日本語が十分でないために授業についていけなかったり,就学できないことも少なからずあるように聞いています。私としては,子どもたちも含め,日本で生活する外国人と日本人がお互いの文化を尊重しながら,共に暮らしていけるような環境づくりがされていくことが大切ではないかと思います。その意味でも,4月24日の日本ブラジル交流年・日本人ブラジル移住100周年記念式典で,日本の小学校で机を一緒に並べて勉強している日本人と日系人の子どもたちが,日本とブラジルの懸け橋になりたいという発表を行ったのはとても印象深いものでした。

<関連質問>
問 先ほど妃殿下がご一緒に行かれないことに関連して,殿下は,今後ケース・バイ・ケースでお医者様と相談されて判断することになるでしょうということをおっしゃいましたが,そのケース・バイ・ケースというのはちょっとなかなか漠然としていて,はっきりしないのですが,ブラジルの場合は,非常に広大なところで期間も長く,行事もたくさんあるということで,非常に具体的によく分かったのですが,もう少しケース・バイ・ケースの例えばこういうときだったら,大丈夫かなというものが,もし想定できるようでございましたらお話しいただければと存じます。
皇太子殿下

お話のように,ブラジルは非常に遠隔地にありますし,それから連続して出席する行事,式典や交流行事がいろいろありますので,いろいろなことを考えて今回は難しいというふうに判断したわけです。これは,いろいろな条件が考えられると思いますけれども,今の雅子の体調にもうまく耐えられるのではないかと思われるような,そういうものが将来出てきた場合には,その場合として考えていければというような意味です。いずれにしましても,そのような訪問が雅子の回復の上でも役立つものであればということを強く考えております。