モンゴルご訪問に際し(平成19年)

皇太子殿下の記者会見

ご訪問国:モンゴル

ご訪問期間:平成19年7月10日~7月17日

会見年月日:平成19年7月6日

会見場所:東宮御所

記者会見をなさる皇太子殿下
(写真:宮内庁)
<宮内記者会代表質問>
問1 初めて訪問されるモンゴルの印象と,ご訪問にあたっての抱負をお聞かせください。手術後1か月ほどでのご訪問となりますが,術後の経過や滞在中の体調管理についても併せてお聞かせください。現地では伝統的な食事や酒などでのもてなしも予想されますが,いかがですか。
皇太子殿下

モンゴル国エンフバヤル大統領のご招待により,この度,モンゴル国を初めて訪問することを大変うれしく思います。大統領のご招待に心から感謝いたします。

モンゴル国は民族的にも歴史的にも我が国とかかわりの深い国であり,かねてより大きな関心を抱いていました。モンゴルとの私の最初の出会いは幼少時に「スーホの白い馬」という絵本を読んだことです。モンゴルの民族楽器である馬頭琴のいわれの物語ですが,悲しいけれどもとても良い話だったことを今でもよく覚えています。

モンゴルといいますと,歴史的には,モンゴル族を統一したチンギス・ハンや13世紀の2度にわたる蒙古襲来が有名です。私も大学3年生の時に,九州への日本中世史のゼミ旅行で,蒙古の上陸に備えて築かれた防塁や蒙古の兵士を弔った塚などを見ましたが,その一方で,この時期に,モンゴル,当時の元ですけれども,そことの間に人の往来や貿易が活発に行われていたことも忘れてはならないと思います。人の往来としては禅のお坊さんが多く,14世紀には日本からは百数十人が元に渡航し,元から来日した僧も30余人になるといいます。また,貿易についても,1度目と2度目の蒙古襲来の間の1278年には,元のフビライが日本との貿易を許可しており,実際に,14世紀には鎌倉の建長寺や大仏の造営のために貿易船が派遣されています。

また,1976年に韓国西南部の木浦(もっぽ)に近い新安(しんあん)の沖合から引き上げられた14世紀前半の沈没船からは,膨大な量の中国陶磁器や銅銭が見つかっており,その積荷からは,この船が,火災にあった京都の東福寺の再建のための費用を賄うための唐船であったことが推測されています。室町幕府になってからも,後醍醐天皇の冥福(めいふく)を祈るために造られた天竜寺の造営費調達のために天竜寺船が元に派遣されています。

私自身,日本中世の海上交通史を研究してきたこともあり,中世に,海をとおしてこのような人や物の往来があったモンゴルを訪問できることをうれしく思っています。

モンゴルは,民主化を経てここ十数年の間に大きく変わったと聞いています。我が国との関係も,政治,経済,文化の各分野で大きく発展してきました。モンゴルは大変親日的な国であると伺っていますし,日本国民の間でも相撲でのモンゴル力士の活躍などをとおして,モンゴルへの関心が高まっています。そのような中で,この度,モンゴルにおける最大のお祭りである「ナーダム」の開催される時期に大統領のご招待により,同国を訪問できることを有り難く思っています。この訪問がモンゴルと日本両国の友好親善の増進に寄与するものとなることを願っております。それと同時に,モンゴルは自然の美しい国と聞いています。私も初めて訪れるモンゴルという国の風土,歴史,文化などについて理解を深めてきたいと思います。

今年は「モンゴルにおける日本年」に当たり,様々な日本紹介の行事が行われていると伺っていますし,「モンゴル日本センター」の設立5周年に当たります。

「モンゴル日本センター」の活動を含めて我が国は,モンゴルの発展のためにいろいろな分野で協力を行ってきていると聞いていますが,モンゴルに派遣されている青年海外協力隊の皆さんもそのような協力の大切な一翼を担っています。私は,青年海外協力隊の皆さんが日本を出発する際に,毎回お会いをしていますが,今回の訪問でも現地で地道に活動を繰り広げられておられる皆さんと,またお会いして,活動の様子などを伺う機会があればと思っています。

私のこの度のポリープの手術については,国民の皆さんからご心配を頂き感謝しております。お陰様で手術後の経過も順調です。軽いジョギングや短時間のテニスも再開しています。日本とは多分風土や習慣の異なる,初めての土地での一週間の滞在となりますが,体調管理に気を付けて毎日を過ごしていきたいと思います。また,食事につきましては,香辛料やお酒についての制限もありますので,注意をしますが,モンゴルならではの料理や飲物も頂くことを楽しみにしております。

問2 モンゴル政府からは両殿下に対してご招待がありましたが,雅子さまの同行は見送られました。見送りの経緯や雅子さまのご体調について,また今後の両殿下の外国訪問・国際親善のあり方について,考えをお聞かせください。
皇太子殿下

今回,モンゴル政府からご招待を頂いたことを雅子は有り難く思っており,お伺いできないことを,本人はもとより,私も残念に思っております。今回の訪問においては,滞在期間も長く,連続してこなす必要のある行事が結構多くあり,お医者様の判断も難しいのではないかということでしたので,総合的に判断して,私一人で伺うことになりました。

私は,前から述べていますように,外国訪問は,我が国と諸外国の友好親善を増進し,昨年のメキシコでの「世界水フォーラム」のように,国際会議への出席などをとおして,社会に貢献するためにも大切であり,私たちとしては前向きに取り組んでいきたいと思います。

<在日外国報道協会代表質問>
問3 残念ながら,皇太子妃雅子様は,いまだ体調が思わしくないとのことで,モンゴルへのご同行は断念なさったとお聞きいたしました。2004年の発表では,皇太子妃は「適応障害」を患っておられるとのことでしたが,医学的な定義では,これは半年以内には回復する病と言われております。3年経ちました現在,皇太子妃のご担当医は,雅子様の容態を,どのように診断なさっておられるのでしょうか。また,今回のような外国訪問に再びご同行できる程度までのご回復の見込みはいかがでしょうか。
皇太子殿下

雅子の容態についてのお医者様の判断は,昨年12月の雅子の誕生日に際して発表された東宮職医師団の見解のとおり,引き続き治療が必要である状態と聞いております。本人も体調を見ながらよく頑張っており,最近では,長野県において,久しぶりに式典を含め,また,宿泊を伴う公的性格のある活動を行うことができましたし,東宮御所での行事への出席など,目に見える形で活動の輪が広がっていることを実感します。

徐々に回復に向かっておりますが,まだ回復の途上であり,お医者様の判断では,事前の準備も含めて,外国訪問が可能になるまでにはまだ時間が必要と伺っております。雅子も皆様の期待は有り難く思っておりますが,そのような状況ですので,長い目で見守っていただきたくお願いいたします。なお,質問にありました「適応障害」については,6か月以内に治るのは,医学的には急性の場合とお医者様から伺っております。

<関連質問>
問1 妃殿下の今回のモンゴルご同行見送りについてですけれども,少しずつ回復されてると今殿下もお話しになっていましたが,ここ何年かは,医師団ともご相談の上ご同行されないという状況が続いています。今回については,ここ何年かの中では見送りまでの決断に至るまでにも,ここ数年と比べてプラスの可能性というか,そういうものを含んだ上で見送られたのか,それとも,やはりご同行についてはここ数年とあまり変わらないという判断での今回の結果なのか,そのあたりを少し詳しくお聞かせいただければと思います。
皇太子殿下

今もお話ししましたように,雅子の公的な活動自体についても少しずつ活動の幅が広がっているということは私にも目に見えて感じられるところですけれども,さっきもお話ししましたように長期にわたって,そしてまた,こなさなければならない行事が続くような場合ですと,総合的に判断して,今回の同行は難しいのではないかという,これはお医者様の意見ですけれども,私もお医者様とご相談して,最終的にそのような判断に至りました。今回は残念ですけれども同行は見送った次第です。

問2 今回のモンゴルでは,モンゴル相撲のご鑑賞などをなさるようですが,お相撲好きの愛子さまとはやはりそういった話をされたり,殿下の方からお話しされたりされてますでしょうか。
皇太子殿下

愛子にも来週から1週間ほど留守にするという話はしておりますけれども,その時に私が朝青龍や白鵬の国に行くというふうな話をしまして,本人もとてもモンゴルに関心を持っているような感じがいたします。