デンマーク・ポルトガル・スペインご訪問に際し(平成16年)

皇太子殿下の記者会見

ご訪問国:デンマーク・ポルトガル・スペイン

ご訪問期間:平成16年5月12日~5月24日

会見年月日:平成16年5月10日

会見場所:東宮御所

記者会見をなさる皇太子殿下
(写真:宮内庁)
<宮内記者会代表質問>
問1 訪問されるデンマーク,ポルトガル,スペインについての印象と,ご訪問に当たっての抱負をお聞かせください。結婚に臨むデンマーク,スペインの皇太子殿下とはどのような思い出がおありですか。また,今回ヨルダンは訪問が見送られましたが,殿下のお気持ちをお話いただければと思います。
皇太子殿下

この度,デンマーク,ポルトガル,スペインの3か国からのご招待によりこれらの国々を訪問する運びとなったことを大変有り難く思っております。このうちデンマーク,ポルトガルについては今回が初めての訪問となります。デンマークは童話作家で有名なアンデルセンですとか,それから人魚姫の像,ハムレットの舞台となったクロンボー城,こういったものがすぐに浮かびますけれども,福祉政策の進んだ国であり,また国際人道支援においても大きな役割を果たし,女性の社会への進出が目覚ましい国と聞いております。ポルトガルは我が国が最初に接したヨーロッパの国であり,古くからの両国の交流についてはとても興味があります。スペインについては,私は以前に3回ほど訪問したことがあります。人々の明るさも印象的でしたけれども,アルハンブラ宮殿や城壁に囲まれたトレドやアビラの街並み,ベラスケスやグレコなどの絵画にも深い感銘を受けました。また,先ごろのマドリッドにおける列車爆破事件については多くの方々が亡くなられたり負傷されたりしました。ここに心から哀悼の意とお見舞いを申し上げます。

デンマーク,スペイン両国では皇太子殿下のご結婚式への出席が目的ですので,私たちからのお祝いをお伝えしようと思います。また,そこに同席される諸外国の王室の方々を始めとした方々との旧交も温めてきたいと思っております。ポルトガルも含めて,今回の訪問が,それぞれの国と我が国との友好親善関係の増進に役立つことを願っております。また,今回は雅子が同行できないのが残念ですが,雅子と二人で将来外国訪問ができることを心から願っております。

デンマークのフレデリック皇太子殿下にお会いしたのは平成9年に殿下が訪日された際に,東宮御所でお昼をご一緒した時です。さらに2年前のオランダの皇太子殿下のご結婚式の際にもお目にかかっていますが,とても明るく気さくな方という印象を持ちました。所属しておられる軍隊の関係で,潜水夫・フロッグマンとしてのかなり大変な訓練を受けられたことなどを話しておられました。また,スペインのフェリペ皇太子殿下には,私がイギリスに留学中にスペインのマヨルカ島にあるスペインの国王陛下のご別邸にお招きを頂いた折,国王陛下とご一緒に終始温かくおもてなしを頂きました。また結婚後には,平成10年にフェリペ皇太子殿下が公賓として日本を訪問された際に東宮御所でお昼をご一緒し,その後鎌倉方面にもご一緒いたしました。フェリペ皇太子殿下は非常に大きく,2メートル近くおありになって,とても背の高い方でして,鎌倉での昼食会場となった日本家屋が何か小さく感じられました。

ところで,5月1日にEUは25か国に拡大されました。今回の3国は従来からEUの加盟国ですが,これらの国々が新しいEUの中でどのように進んでいくかということも今回感じ取ることができればと思っています。また3国とも伝統的な海運国でありますので,私の専門としています海上交通あるいは河川交通の面からも何か新しい知識が得られればと思っています。

ヨルダンについては,9年前に訪問しておりますけれどもその際は日程を大幅に短縮することとなりながら,当時のフセイン国王陛下を始め大変心のこもったおもてなしを頂きました。その後フセイン国王陛下には残念ながら亡くなられ,ご葬儀に参列させていただいたことも大変感慨深く思い出します。その意味でも,日本で以前にお会いしたこともあるハムザ皇太子殿下のご結婚に伴う祝宴に出席して,そしてお祝いをお伝えすることができればと思っておりましたけれども,今回は諸般の事情で訪問することができずに誠に残念です。お二方の末永いお幸せをお祈りするとともに,お会いする機会を楽しみにしています。

問2 今回,皇太子妃殿下のご訪問については,ぎりぎりまで検討されましたが,最終的には見送られました。殿下お一方でご訪問されることに至った経緯,結果についての殿下,妃殿下のお気持ちをお聞かせください。妃殿下の現在のご様子,ご回復の見通しについても改めて伺えればと思います。
皇太子殿下

今回の外国訪問については,私も雅子も是非二人で各国を訪問できればと考えておりましたけれども,雅子の健康の回復が十分ではなく,お医者様とも相談して,私が単独で行くこととなりました。

雅子には各国からのご招待に対し,深く感謝し,体調の回復に努めてきたにもかかわらず,結局,ご招待をお受けすることができなかったことを心底残念に思っています。殊に雅子には,外交官としての仕事を断念して皇室に入り,国際親善を皇族として,大変な,重要な役目と思いながらも,外国訪問をなかなか許されなかったことに大変苦悩しておりました。今回は,体調が十分ではなく,皇太子妃としてご結婚式に出席できる貴重な機会を失ってしまうことを,本人も大変残念がっております。私も本当に残念で,出発に当たって,後ろ髪を引かれる思いです。私たちには,ヨーロッパの王室の方々から,いつも温かく接していただいており,フレデリック,フェリペ両皇太子殿下とは,限られた機会の中ではありますけれども,楽しい思い出が多くあるため,今回のことはとても残念に思っているようです。

雅子の長野県での静養のための滞在は,幸い多くの方々のご協力を得て,静かな中で過ごすことができました。この場をお借りして,協力してくださった皆さんに雅子と共に心からお礼を申し上げます。雅子からも皆さんにくれぐれもよろしくと申しておりました。

長野県での滞在は,とても有益なものではあったと思いますが,まだ,雅子には依然として体調に波がある状態です。誕生日の会見の折にもお話しましたが,雅子にはこの10年,自分を一生懸命,皇室の環境に適応させようと思いつつ努力してきましたが,私が見るところ,そのことで疲れ切ってしまっているように見えます。それまでの雅子のキャリアや,そのことに基づいた雅子の人格を否定するような動きがあったことも事実です。

最近は公務を休ませていただき,以前,公務と育児を両立させようとして苦労していたころには子供にしてあげられなかったようなことを,最近はしてあげることに,そういったことを励みに日々を過ごしております。そういう意味で,少しずつ自信を取り戻しつつあるようにも見えますけれども,公務復帰に当たって必要な本来の充実した気力と体力を取り戻すためには,今後,いろいろな方策や工夫が必要であると思われ,公務復帰までには,当初考えられていたよりは多く時間が掛かるかもしれません。早く本来の元気な自分自身を取り戻すことができるよう,周囲の理解も得ながら,私としてもでき得る限りの協力とサポートをしていきたいと思っています。今後,医師の意見によって,公務復帰に向けては足慣らしのために,静かな形でのプライベートな外出の機会を作っていくことも必要であるかと考えています。引き続き,静かな環境を保たれることを心から希望いたします。

<在日外国報道協会代表質問>
問3 この度のヨーロッパご訪問に際し,王室のご婚礼にご参列されますが,我が国デンマークでは王室と国民が近い位置にあり,また女性が王位に就いております。日本では女性が皇位に就くことと皇太子ご一家のご公務のご負担を軽減されることの2つの点について話題になっております。女性が皇位に就くことと皇太子ご一家のご公務ご負担を軽減されることについてデンマークの王室から何か学ばれることがございますか。
皇太子殿下

先ほども申しましたけれども,私がデンマークを訪問するのは今回が初めてですけれども,今回はフレデリック皇太子殿下のご結婚式に出席させていただきますので,この機会にデンマークの王室始めデンマークのいろいろな分野について3日間という限られた期間ではありますけれどもいろいろと学べればと思っています。もちろん,王室の制度を始めとして,各国の制度はそれぞれの国の歴史や文化,あるいは,国民の考え方に根ざしたものでありまして,今回の訪問でもいろいろな制度について,その背景となっている歴史や文化あるいは国民の考え方について理解を深めたいというふうに思っています。

なお,公務の在り方については,私は以前にもお話したように,新しい時代にふさわしい皇室像を考えつつ見直していくべきだと考えます。女性が皇位に就くことについては,ここでは回答は控えたいと思います。

<関連質問>
問4 殿下,大変,ちょっと失礼な質問になってしまうかもしれませんが,先ほどお答えになった時にですね,妃殿下のキャリアや人格を否定するような動きがあるとおっしゃいましたが,差し支えない範囲でどのようなことを念頭に置かれたお話なのか質問させていただきたいのですが。
皇太子殿下

そうですね,細かいことはちょっと控えたいと思うんですけれど,外国訪問もできなかったということなども含めてですね,そのことで雅子もそうですけれど,私もとても悩んだということ,そのことを一言お伝えしようと思います。