天皇皇后両陛下 カナダ・アメリカ合衆国ご訪問時のおことば

カナダ・アメリカ合衆国ご訪問ご出発時に当たって

平成21年7月3日(金)
カナダ・アメリカ合衆国ご訪問ご出発に当たっての天皇陛下のおことば(東京国際空港)

この度,総督閣下からの御招待によりカナダ国を皇后と共に訪問し,その帰路皇太子奨学金の記念行事に出席するためハワイ州を訪問いたします。

カナダは昭和28年,私が昭和天皇の名代としてエリザベス二世女王陛下の戴冠式に参列するために英国に向かう途次,訪問しましたが,それから56年,今回は皇后と共に再び訪れることをうれしく思っております。私どもの訪問が修好80周年を迎えた両国の相互理解と友好関係の更なる増進に資するよう願っております。

私どもの結婚を祝ってハワイの日系人が中心となって設立された奨学金財団が本年50周年を迎えます。記念行事では奨学金財団に尽力した人々の労を謝するとともに,かつて奨学生として会った人々と再会するのを楽しみにしています。

終わりに内閣総理大臣を始め,この訪問に心を寄せられた多くの人々に深く感謝いたします。

カナダ

平成21年7月6日(月)
公式歓迎行事(リドー・ホール)における天皇陛下のおことば(ご答辞)

総督閣下,御夫君

この度,総督閣下の御招待により,皇后と共に貴国を訪問し,ただ今は総督閣下より丁重な歓迎のお言葉を頂き,深く感謝いたします。

3日前オタワに着いた私どもは週末を緑豊かな自然の中で過ごし,貴国の人々が首都圏の自然を保つために大きな努力を払い,健康な生活を営むことを心懸けていることに深い感銘を受けました。

私どもは,これから訪れる各地で,日系を含む貴国の人々と接し,古くからこの国に住んできた人々と,様々な国々から移り住んできた人々が,それぞれの文化を受け入れ,穏やかに今日の国の姿を創り上げようと,努力を重ねてきた貴国の在り方への理解を深めることに努めたいと考えています。

この度の私どもの訪問が外交関係樹立80周年を迎える貴国と我が国の相互理解と友好関係の増進に資するよう心より願い,歓迎式典にあたっての感謝の言葉といたします。

平成21年7月6日(月)
カナダ総督同夫君主催晩餐会(リドー・ホール)における天皇陛下のご答辞

総督閣下,御夫君

今夕は,私どものために晩餐会を催してくださり,また,ただ今は,総督閣下から懇篤なお言葉を頂き,厚くお礼申し上げます。

貴国と我が国との交流は,1877年,長崎県出身の永野萬蔵が,ブリティッシュ・コロンビア州のニュー・ウェストミンスターに上陸し,貴国に移り住んだことに始まります。その後,両国間の交流は順調に発展し,1887年にはバンクーバーと横浜の間に太平洋航路が開通し,2年後バンクーバーに我が国の領事館が置かれました。1928年には,オタワに我が国の公使館が,その翌年には,東京に貴国の公使館が,それぞれ開設されました。貴国が開設した在外公館としては,英,米,仏に次ぐ4番目の公館であり,当時,貿易を含め,両国間の交流が,既に活発になっていたことを示すものであります。

それだけに,このようにして発展してきた両国の関係が,第二次世界大戦により損なわれたことは悲しむべきことでした。この戦いによって苦難を経験した多くの人々があったことに心が痛みます。戦後は,外交関係の再開以来,両国民の英知と不断の努力によって,再び順調に発展を続け,今日,両国は,基本的な価値を分かち合う大切な友邦国として,緊密な友好協力関係を築き上げております。貿易,投資など経済面での交流のみならず,学術,文化の分野でも交流は着実な広がりを見せております。昨年の外交関係樹立80周年を祝して,昨年から本年にかけ,両国で様々な記念事業が行われていますが,これまで,両国間の友好関係を重視し,協力の増進に尽してきた人々に対し,深く感謝の意を表したく思います。

私の貴国訪問は2度目のことになります。前回は1953年エリザベス二世女王陛下の戴冠式に参列するため,英国に向かう途次の訪問でありました。11日間にわたる貴国訪問は19歳の私にとって心に残るものであり,それぞれ官邸に泊めていただいたマッシイ総督,ウォーレス・ブリティッシュ・コロンビア州副総督を始め,貴国の人々の厚情が懐かしく思い起こされます。また,貴国の各地で,そして厳しい寒さの中,列車が停車する駅で,日系の人々が心を込めて迎えてくれたことは忘れ得ぬことであります。それから56年がたち,今回,皇后と共に,再び貴国を訪れることは,私どもにとり誠にうれしいことです。

今日,国際社会の平和と繁栄のために,日加両国が相携えて努力を重ねることの重要性が,ますます増大しております。貴国が,これまで,国連平和維持活動や,国際的な平和構築活動に献身的に取り組んできたことに深く敬意を表します。なお,その間に犠牲となった人々に心から哀悼の意を表するものであります。

貴国は社会的,文化的な多様性を大切にしつつ,人々の間の絆を軸にして発展させてきました。このような多様性は,世界のあらゆる地域から多くの人々を受け入れてきた貴国の寛容で開放的な社会によって育まれてきたものと思います。私どもは,この晩餐会に同席されているベバリー・オダ国際協力大臣を始めとして,多くの日系の人々が,貴国のこのような社会の中で育ち,今日様々な分野で活躍していることを誠に喜ばしく思います。

この度の私どもの訪問が,両国の国民の間の相互理解を更に深め,友好協力関係の一層の緊密化に資することになれば,誠に喜ばしいことと思います。

ここに,総督閣下並びに御夫君の御健勝とカナダ国民の幸せを祈り,杯を挙げたいと思います。

平成21年7月9日(木)
皇后陛下の子どもたちへのお話(トロント 小児病院)(和訳)

(7月9日,両陛下で御訪問になったトロントの小児病院にて,お立ち寄りになった「読書室」において皇后陛下は子ども達10人を前にお話をされました。これまでもこの部屋の訪問者による読み聞かせは,全館に同時放映されており,皇后陛下のお話も館内テレビを通じ各病室に届けられました。)

私は美智子です。日本から参りました。国賓として,カナダをご訪問中の天皇陛下とご一緒に,今この地に来ています。

日本を発つ前から,この度伺うこの読書室で,私も何か皆様にお話を読んで差し上げられないだろうか,と,お勧めを頂いておりました。限られた時間内で読める短いお話を探すことが出来ず,かわりに小さな日本の歌,「揺り籠」を歌うことにいたします。歌手のようによい声で歌うことはできませんが,三人の子どもたちによく子守歌を歌った経験だけを頼みに歌ってみます。まだ眠くなるには早過ぎますが,これは今夜おやすみになる時のための子守歌です。

            ゆりかごの歌  一,二,四番 (北原白秋詩,草川信曲)

どうか今夜ぐっすりとお眠りになりますように。陛下とともに,皆様のお幸せを祈っております。

アメリカ合衆国

平成21年7月15日(水)
皇太子明仁親王奨学金財団50周年記念行事(ヒルトン・ハワイアン・ビレッジ)における天皇陛下の乾杯のおことば

本年は,皇太子奨学金財団が設立されて50年になります。この記念行事に当たり,関係する皆さんが各地から集い,今夕を共に過ごすことを誠に喜ばしく思います。

50年前,私どもの結婚を祝って,ハワイの日系の人々が中心となり,この奨学金が設立されたことは,私どもにとって大変嬉しいことでした。ハワイと日本の間で相互に留学が行われ,私どもはその留学生に毎年お会いしてきました。この機会に,かつてこの制度により,学んだ人々と再会することができることを楽しみにしています。

ここに,この奨学金を設立し,守り育ててこられたハワイと日本の関係者のこれまでの尽力に深く敬意を表し,奨学生の更なる活躍とこの制度がこれからも学ぶ人々の希望に応えて充実していくことを期待し,併せて,ハワイと日本との友好関係の一層の増進を願って,杯を挙げたいと思います。