天皇皇后両陛下 サイパン島ご訪問ご出発にあたっての天皇陛下のおことば

平成17年6月27日(月)
サイパン島ご訪問ご出発にあたっての天皇陛下のおことば

終戦60年に当たり,サイパン島を訪問いたします。

サイパン島は第一次世界大戦後,国際連盟の下で,日本の委任統治領になり,沖縄県民を始めとする多くの人々が島に渡り,島民と共にさとうきび栽培や製糖業に携わるなど,豊かな暮らしを目指して発展してきました。しかし先の大戦によりこの平和な島の姿は大きく変わりました。昭和19年6月15日には米軍が上陸し,孤立していた日本軍との間に,二十日以上にわたり戦闘が続きました。61年前の今日も,島では壮絶な戦いが続けられていました。食料や水もなく,負傷に対する手当てもない所で戦った人々のことを思うとき,心が痛みます。亡くなった日本人は5万5千人に及び,その中には子供を含む1万2千人の一般の人々がありました。同時に,この戦いにおいて,米軍も3千5百人近くの戦死者を出したこと,また,いたいけな幼児を含む9百人を超える島民が戦闘の犠牲となったことも決して忘れてはならないと思います。

私どもは10年前,終戦50年に当たり先の大戦で特に大きな災禍を受けた東京,広島,長崎,沖縄の慰霊の施設を巡拝し,戦没者をしのび,尽きることのない悲しみと共に過ごしてきた遺族に思いを致しました。また,その前年には小笠原を訪れ,硫黄島において厳しい戦闘の果てに玉砕した人々をしのびました。

この度,海外の地において,改めて,先の大戦によって命を失ったすべての人々を追悼し,遺族の歩んできた苦難の道をしのび,世界の平和を祈りたいと思います。

私ども皆が,今日の我が国が,このような多くの人々の犠牲の上に築かれていることを,これからも常に心して歩んでいきたいものと思います。

終わりに,この訪問に当たり,尽力された内閣総理大臣始め我が国の関係者,また,この度の私どもの訪問を受け入れるべく力を尽くされた米国並びに北マリアナ諸島の関係者に深く感謝いたします。