天皇皇后両陛下 アメリカ合衆国ご訪問時のおことば

アメリカ合衆国

平成6年6月13日(月)
歓迎行事(ホワイトハウス南庭)における天皇陛下のおことば

大統領閣下,令夫人並びに御臨席の皆様

ただ今の丁重な歓迎のお言葉に対し,厚く御礼を申し上げます。

また,この度の御招待,誠にありがとうございました。

我が国が貴国との間で初めての条約を締結してから,今年で140年になります。我が国が開国し,独立を保ちつつ発展を遂げてゆく中で,貴国を始めとし,諸外国から学んだ学問や技術には誠に大きなものがありました。当時,貴国に対し我が国が持った関心の深さは,ベンジャミン・フランクリンの12の徳目を題として,私の曾祖父,明治天皇の皇后,昭憲皇太后によって和歌が詠まれていることからもうかがえます。この歌の詠まれた時期がまだ貴国との国交成立から20数年しかたっていない時のことであることを考えると深い感慨を覚えます。

今日,両国は戦争による悲しむべき断絶を乗り越え,両国民の英知と不断の努力により緊密な協力関係を築き上げました。それには,歴史的,文化的背景が異なるにもかかわらず,両国間に長年にわたり培われた幅広い交流があったことに負う面も大きかったと思います。

我が国民は,戦後貴国が我が国に物資による援助と共に,留学生の受入れ等次代への配慮を含む寛大な支援を提供され,また貴国が半世紀にわたり,我が国の安全と世界の平和を確保するためにかけがえのない役割を果たしてきたことを忘れません。

貴国は,独立以来の伝統に立脚し,民主主義がもたらす寛容と,その根源にある個人の自由を守る強靱な精神によって国を築き,また国際社会にあっては多くの苦難を越えて冷戦を克服し,今日また,変化に満ちた新しい時代を先導する役割を担っています。

日本は,古くから海を介して海外の文化に接し,我が国独自の文化にそれを受容しつつ,伝統と変化の歴史を経て今日に至りました。戦後は,国民の強い平和への志向の中で民主主義が定着し,我が国は次第に安定を得,活力を増すに至っております。

今後,日米両国が,それぞれの歴史と特性をいかし,過去半世紀の成果を基礎に,その関係を一層強固なものとし,相携えて冷戦後の新たな要請に応えていくと共に,アジア・太平洋の平和と繁栄に寄与することが両国の大きな課題になるものと思われます。前世紀末,後に国際連盟の事務次長を務めることとなった新渡戸稲造博士は,自分の若き日の夢を「太平洋の橋」になることとして海を渡り,貴国の地にまいりました。

それからほぼ一世紀後,その少年期を日本で過ごし,後に日米の懸け橋として尽くされた貴国の駐日大使,エドウィン・ライシャワー博士は,晩年を過ごされたラホヤで,病院の窓から絶えず太平洋を見つめておられたと聞いております。このような幾多の個人の努力にも支えられて互いの絆を深めて来た両国の間に,これからも平和な交流が長く保たれ,太平洋が真に「平和の海」となることを切に希望いたしております。

私が初めてホワイトハウスにアイゼンハウァー大統領をお訪ねして以来,40年以上の歳月が流れました。その間,皇后と共に何度か貴国の地を踏みましたが,いつも人々の善意に触れた快い旅であったことが懐かしく思い起こされます。

この度の訪問では,私ども二人にとって初めての地域を含む各地を訪れ,多くの人々に接し,貴国の歴史と今日の姿に理解を深めるよう努めたく思います。この訪問が日米両国民の友好の更なる増進に資することを心より願っております。

終わりに,貴国の一層の繁栄と貴国民の幸せを願い,感謝の意を込めて私の答辞といたします。


平成6年6月13日(月)
アメリカ合衆国大統領夫妻主催晩餐会(ホワイトハウス ローズガーデン)における天皇陛下のおことば

大統領閣下,令夫人並びに御列席の皆様

今夕は,私と皇后のために晩餐会を催して下さり,大統領御夫妻の心温まるおもてなしを頂き,深く感謝いたします。

今日午前には,ここホワイトハウスで,大統領御夫妻と,親しく歓談する機会を持つことが出来ましたことを誠にうれしく思います。楽しい再会の一時でありました。

貴国民は,建国以来,自国の在り方を絶えず省みつつ,良心をもって自らを変革してきました。この度の貴国の最初の訪問地アトランタにおいてこのような貴国の経て来た道の一端にふれたことを印象深く思っております。

この度の訪問の機会に,私どもは貴国の歴史と現在に対する理解を深めると共に,日米両国の過去の歴史に深く思いをいたしたく思います。今日まで先人が築いてきた両国間の絆が改めて認識され,さらに深められていくために,この訪問が少しでも役立つことを心から願っております。

ここに御列席の皆様と共に,大統領閣下及び令夫人の御健勝,米国国民の幸せ,そして,日米両国の友好のために,杯を挙げたいと思います。

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