主な式典におけるおことば(平成16年)

皇后陛下のおことば

日本・ラテンアメリカ婦人協会創立30周年記念午餐会
平成16年5月7日(金)(ホテルオークラ)

ラテンアメリカ婦人協会の創立30周年おめでとうございます。本日はこの席にお招きを頂き,日頃協会のため,様々な形で尽くしておられる皆様方とひと時をご一緒いたしますことを,大層うれしく思います。

名誉総裁常陸宮妃殿下の温かいご支援のもと,園田名誉会長,橋本会長を始めとするラテンアメリカ協会の皆様方が,バザーを始めとし,福祉活動に,文化交流活動に熱心に取り組んでおられることは,これまでも度々耳にしておりました。今ではこの協会が催すバザーの日を,年毎のカレンダーに書き込み,楽しみに待っておられる常連のお客様もおられるのではないでしょうか。会場それ自体が,ラテンアメリカの国々を紹介するこの上ない場となるこの勝れた企画が,これからも楽しく,活き活きと続けられてまいりますよう,願っております。

私が初めてラテンアメリカの地を踏みましたのは昭和39年(1964年)5月,この年,当時皇太子でいらした陛下の御旅行に随伴し,初めてメキシコ合衆国を訪れました。飛行機のタラップの上に立ちますと,機側で待っていてくれたソンブレロのおじさん達が,一斉ににぎやかにマリアッチを奏で,重い務めである筈の旅の第一歩を,何とも心楽しく踏み出すことが出来たことを思い出します。その後の3回にわたる南米訪問で,ペルー,アルゼンチン,パラグアイの3共和国及びブラジル連邦共和国をたずねる機会にも恵まれました。リマ,ベレン,マナウス,サルバドル,ブラジリア,ベルオリゾンテ,サンパウロ,ロランジア,マリンガ,クリチバ,リオデジャネイロ,アスンシオン,移住地イグアス,アセライン,ブエノスアイレス等,訪れたどの土地にも懐かしい思い出があり,その思い出は,常にその土地で出会った人々と共にあります。海外に住む日系社会の人々に対する私の思いも,こうした国々を訪れる中で芽生え,育てられました。

ラテンアメリカの諸国は,明治32年(1899年),まずペルー国が,佐倉丸で海を渡った790名の日本人移住者を受け入れてより,次々と,私どもの同胞を受け入れてくれました。先述した,訪問先の国々で,常にこれら日本人移住者が,困難の中でも正直に勤勉に努力を重ね,その多くが,受け入れられた国々の良き市民として,それぞれの社会に貢献して来たことを聞くことは,陛下の,そして私の大きな喜びであり,誇りでございましたが,同時にその事から私どもは,他国民をこの様に温かく迎え入れたラテンアメリカ諸国の人々の心の寛さを学び,異なる民族を包容しつつ発展する国々の,健全さと力強さとを学びました。

佐倉丸から百年余を経た今日,この度は私どもの国日本が,かつて日本人を受け入れたラテンアメリカの国々から,多くの就労者を迎えています。この人々が,ここ日本において,移住者が常に直面しなければならない様々な困難を味わっていることを思う時,30万余に及ぶこれらの人々が,どうかその困難を乗り越え,日本の社会に融和しつつ,幸せに過ごしていかれるよう,また,その子弟が,日本の社会の中で安全に守られ,健やかに育っていくよう願わずにはいられません。私どもは,かつて日本の移住者たちが,移り住んだ国で,日本の文化や日本人としての特性を失うことなく,異なる文化に少しずつなじんでいったように,日本に移り住む人々が,日本社会に適応することを助けるとともに,その人々,とりわけその子弟たちが,長期の不在により母国の文化から切り離されることのないよう心を配っていくことも必要ではないかと思います。どうかこの人々のことを,皆様方のお考えの中にお置き下さい。

ラテンアメリカの国々と日本との関係が,これからも平和で友好的であり続けますように。そして,この協会の活動の場を通し,世界平和の基である国際間の友情が,常に豊かに育まれていくことを願い,お祝いのご挨拶とさせて頂きます。

平成16年全国赤十字大会
平成16年5月13日(木)(明治神宮会館)

本日,全国赤十字大会に出席し,日ごろより赤十字活動に深いかかわりを持たれる皆様方と親しくお会いできますことを,大変うれしく思います。

赤十字は,国際的な強い(きずな)で結ばれ,人道的事業を通じ,広く世界の人々の福祉を増進し,平和な国際社会を築くために活動を続けておりますが,我が国においても,日本赤十字社が,多くの人々の理解と尽力により日々その使命を果たしていることを,誠に心強く思います。

自然災害の発生に加え,今日,世界の各地には,相次ぐ紛争によって,厳しい環境におかれている人々が数多くおり,赤十字に寄せられる期待と要請は,今後ますます高まっていくものと思われます。

この様な時にあって,私どもは改めてジュネーブ条約を基盤とする赤十字の理念を思い,より多くの人々とこの理念を確認し,共有し合っていくことが必要ではないかと思います。

これからも,皆様方が赤十字の尊い使命に想いを致され,より一層力強い活動を国の内外において進められますよう,切に希望します。