主な式典におけるおことば(平成12年)

皇后陛下のおことば

国際子ども図書館開館記念式典
平成12年5月5日(金)(東京芸術大学奏楽堂)

国際子ども図書館が,その第一期の工事を終了し,こどもの日の今日,開館されることとなりました。子どもの本や読書にかかわる中で,いつか日本にも国立の子ども図書館ができればと,永年にわたり願ってこられた大勢の方々,そしてその声に耳を傾け,その実現のために協力された方々の御努力によるものと,心よりお祝いを申し上げます。また,この式典には,ドイツ,フランス,インド,大韓民国,タイ,米国からも,この分野に豊かな経験を持たれる方々が出席してくださいました。御参加は,これから国際図書館として育っていくこの館の成長を見守る私どもにとり,大層心強く,皆様の友情に対し厚くお礼を申し上げます。

この度開かれる図書館は,今から94年前創建された日本最初の国立図書館の建物を改修して造られました。歴史的建造物の指定を受けた建物であり,その大方の意匠や構造の保存,土台の耐震工事など,設計者を始めとし,工事に当たった方々にはどんなにか御苦労の多いお仕事であったことと思われます。しかし,今世紀の初頭に明治の人々が気概を込めて造った建物が,その内外装共に最大限に保存されつつ改修されたことは意義深いことでした。この歴史的な建物の中で,これから子どもたちは日本や世界の沢山の書物に触れていくことでしょう。同時にこの館は,子どもの本を書いたり,研究したりする人々,また,日本の各地の図書館で働く人々にも便宜を供し,その仕事を支援するという,もう一つの大きな役割も担っています。直接子どもに奉仕するとともに,「子どもに奉仕する人々に奉仕する」という,この図書館に課せられた二重の役割を,社会が深く認識し,支持していくことが,これからの館の発展の上で非常に大切なことになっていくのではないかと考えております。

現在日本には約2,600の公立図書館があり,その多くが児童室を備えています。まだ,十分とは申せぬまでも,ここに至るまでの先人の御苦労がしのばれます。自らの体験から,本と子どものつながりに深い意味を感じとられた方々が,多くの困難の中にも夢を捨てず,子どもの図書館の今日をもたらしてくださいました。

日本には,戦後,主に女性によって始められ,昭和45年以降野火のように全国に広がった,我が国独特の子ども文庫の活動があります。文庫は,個人が所蔵する本と住まいの一部を,近隣の子どもたちに開放する形で始められた小規模の児童図書館で,現在その数は公立図書館の倍近くにも及び,「BUNKO」という日本語のまま,世界からも注目を受けるところとなっています。

公立,私立,学校,文庫と,図書館の形はそれぞれに違っても,そこにはきっと一人一人,子どもたちと本とのよい巡り合いを願う図書館員が働いておられるでしょう。日本の各地で子どもと深くかかわり,子どもへのよりよい奉仕の道を模索している人々の気持ちをしっかりと汲み上げつつ,国際子ども図書館が,これらの組織と常によい連携を保ち,共に学びつつ支援を続けてくださることを期待しております。

大きな責任を担って開館時の仕事に当たる方々が,皆体を大切にされ,元気に任務を果たされますように。また,この機会に,日本の各地の図書館や文庫で,地道に活動を続けておられる大勢の方々の健康をお祈りいたします。皆様方のお仕事が,これからも沢山の子どもたちに,本を通し楽しみと喜びを与え,子どもの中に自ら考え,健やかに生きぬく力を育てていくことを願い,お祝いの言葉といたします。

平成12年全国赤十字大会
平成12年5月10日(水)(明治神宮会館)

本日,全国赤十字大会に出席し,日ごろ赤十字の活動にたゆみない努力を続けておられる皆様と親しくお会いできますことを,大変うれしく思います。

赤十字は,国際的な強い(きずな)で結ばれ,人道的事業を通じ,広く世界の人々の福祉を増進し,平和な国際社会を築くため,大きな力となって活動を続けておりますが,我が国においても,日本赤十字社が,皆様の深い理解と尽力により,年々充実し,着実な歩みを見せていることを,誠に喜ばしく思っております。

しかし,いまだ世界の各地では紛争が相次ぎ,また,頻発する自然災害に苦しむ人々は後を絶たず,今後とも,赤十字に寄せられる人道的援助の要請は,ますます高まっていくものと思われます。

これからも,皆様が赤十字の尊い使命を深く胸に刻み,広くこの思想の普及を図りつつ,一層力強い活動を国の内外において進められることを切に希望いたします。

創立50周年記念全国母子寡婦福祉大会
平成12年11月12日(日)(東京簡易保険会館)

財団法人全国母子寡婦福祉団体協議会の創立50周年に当たり,この記念すべき大会に出席し,日本各地からお集まりになった皆様にお会いいたしますことを,心よりうれしく思います。

この会の前身である未亡人団体協議会が誕生したのは,終戦後5年を経た昭和25年,それは,さなきだに困難の多かった戦後の日々を懸命に生き抜いてこられた母子家庭のお母様方が,自らの力をもって結成された組織であったと伺っております。協議会の発足に当たって出された宣言文には,「われらは皆,孤影悄然,幼きを擁して暗夜に佇んだ経験を持っている」との文字が見られ,いか程の苦難の中からの誕生であったかがしのばれます。

任意団体として発足したこの会は,その後財団法人として厚生大臣の認可を受け,さらに昭和57年には,「母子及び寡婦福祉法」の成立と共に,名称を今日のものに変更し,現在の姿をとるに至っています。この間会員の方々は,組織を持つことによって,お互いがお互いの支えとなり,慰め,励まし助け合って,困難な日々を生き抜いてこられました。また,会員の自立への願いは,ある時は強い叫びとなって地域や国に呼び掛け,そのひたすらな活動は,戦後の日本社会に母子福祉が育っていく上の,大切な火種の一つとなったと伝えられています。

母子家庭の母が,どのようにして自活の道を得られるか,どのようにすれば,子供を健全に育て,子供に勉学の道を確保することができるか ─ 初期の未亡人会がまず行政に求めたものは,将来の返済を約する自立のための援助資金であり,子供が教育を受けるための資金の貸与でした。行政がこのいちずな願いを受け入れ,昭和27年に「母子福祉資金の貸付等に関する法律」を制定したことは,どれ程に大きな安堵(あんど)を母子家庭にもたらしたことでしたでしょう。生活資金,子供の修学資金など,この法律によって定められた七種類の低利貸付金を,会員が「七色の虹」と呼んだという記録からも,当時の会員方の喜びが想像され,胸を打たれます。

会員の方々は,この(のち)も引き続き,社会参加によってそれぞれの地域の新たな要望をくみ上げ,日本の社会福祉,とりわけ母子福祉の向上に,大きな貢献を果たしてこられました。戦争未亡人によって興された組織は,やがて戦争とは関わりなく,すべての死別母子家庭の,そして生別母子家庭の福祉増進へと活動の幅を広げ,さらに子供が成人した後の寡婦に対する福祉対策の推進とその充実,また,近年においては,女性の社会進出に伴う就労支援の拡充へと,活動内容は常に時代の要求を受け,広げられ,深められてきております。

今日ここにお集まりになった皆様方,また,全国に広がる会員の方々は,皆,想像を越える困難の中で,自立への道を歩み,お子たちを育ててこられました。「幸せは われらの手で」を会の標語とし,会員一人びとりがこれまでに払ってこられた自助努力に対し,心からの敬意を表します。また,この様な組織が,戦後の最も苦しい状況下に結成され,その時より,孤独と将来への不安を抱く数知れぬ婦人方を支えつつ,また,日本の社会福祉に寄与しつつ,50年の歳月を歩み通したことを思い,この会を創(つく)り育てた大勢の方々のお力をたたえ,関係者の尽力に深く感謝申し上げます。

これから先も,この会が会員の心の拠所(よりどころ)として,長くその大切な役割を果たすとともに,会員の方々が,これまでと変わらず母子家庭の母と子,そして寡婦となった人々の,健全に生きていかれる道を求め続けていってくださいますよう願っております。

50周年を心よりお祝い申し上げ,会の一層の充実と,会員の皆様の健康とお幸せをお祈りして,本日の式典に寄せる言葉といたします。

全国公立小・中学校女性校長会結成50周年記念式典
平成12年12月8日(金)(東京国際フォーラム)

全国公立小・中学校女性校長会結成50周年に当たり,心よりお祝いの言葉を申し上げます。

戦後50余年の歳月を経,ここ数年,様々な50周年行事が執り行われ,改めて往時を振り返ることの多い昨今でございますが,皆様方の女性校長会も,終戦後の大きな社会変革の中,昭和26年,80名の会員をもって誕生した会であったと伺っております。

民主社会の形成という,高い理想を掲げての希望に満ちた変革であったとは申せ,男女雇用機会均等法や男女共同参画社会基本法の成立を,はるかにさかのぼる当時の社会や民情の中にあって,草創期に任に就かれた方々にとり,それは遠い遠い灯を見つめ,ただ一心に歩むような,計り知れぬご苦労の多い日々であったと想像いたします。結成当時,会長が会員に贈られた,「同志よ,弱らないで」という励ましの言葉は,そのころの女性校長の困難な立場を如実に語っているようであり,胸をつかれます。

そのような状況下,女性校長方は,強い使命感と児童生徒への深い愛情をもって,任地校の教育の充実を図り,その実績により,学校教育の場で,また地域社会で,次第に人々の評価を得ていかれました。全国から会員が集まって研修し合う毎年の全国大会は,順次各県を巡って開催され,先生方の真()な研修の姿は,各地で女性校長に対する理解と信頼を深め,それぞれの地域において女性の管理職進出を促す力となったと伝えられています。お互いに磨き合って向上を図り,また,どのような苦労の中にあっても,児童生徒への愛情を自らのうちに温かく育てるべく,不断の努力を重ねられた多くの女性校長方の上を思い,皆様方のたゆまぬ研(さん)と強い精神力に対し,ここに深く敬意を表します。また,この機会に,女性校長会の結成以来,会を支え励ましてこられた文部省,各自治体当局及びその教育委員会,各校長会等,関係者のこれまでの支援に対し感謝の念を表します。

今日教育の現場への期待や要請は,これまでにも増して大きく,多岐にわたるものになってきております。申すまでもなく,このことは,独り学校教育にのみその任を負わせるものであってはならず,家庭や地域もまた,改めてその担うべき役割を再確認せねばならない時がきていることをしみじみと感じます。どうか先生方には,なお一層児童生徒の保護者との(きずな)を大切にされ,また各地域の教育力を様々に堀り起こし,学校,家庭,地域という三者の力強い連携の中で,子どもたちが心身共に安全に守られつつ,自らのうちに豊かな人間性をはぐくんでいくことができますよう,力をお尽くしくださいませ。

時代の要求は,これからも多くの変革を教育の場にもたらすことと思われます。変化を恐れてはならないと思いますが,同時にいかなる変革も,その時期に在校する児童生徒を犠牲にするものであってはならず,校長先生のお一人お一人が,どうか深い配慮をもってそれぞれの学校の運営に当たってくださいますよう,心より希望しております。

50周年の式典に当たり,皆様方を始め,全国の公立小中学校に奉職なさる会員の方々のこれまでの(あゆ)みに深く思いを致し,改めてそのご苦労をおねぎらい申し上げます。皆様方はきっとこれからも,お互いが照らし合い,響き合って会を高め,その成果をそれぞれの学校に,また地域社会に,還元していらっしゃることでしょう。日々,激務に携わられる皆様方の,これからの御健康と充実した日々をお祈りし,お祝いのごあいさつとさせていただきます。