主な式典におけるおことば(平成11年)

天皇陛下のおことば

第145回国会開会式
平成11年1月19日(火)(国会議事堂)

本日,第145回国会の開会式に臨み,全国民を代表する皆さんと一堂に会することは,私の大きな喜びであります。

国会が,永年にわたり,国民生活の安定と向上,世界の平和と繁栄のため,たゆみない努力を続けていることを,うれしく思います。

ここに,国会が,当面する内外の諸問題に対処するに当たり,国権の最高機関として,その使命を十分果たし,国民の信託にこたえることを切に希望します。

科学警察研究所創立50周年式典
平成11年2月26日(金)(科学警察研究所)

科学警察研究所創立50周年を,移転後間もない新庁舎において,多くの関係者と共に祝うことを誠に喜ばしく思います。

この50年間に,研究所は地道な研究や鑑定業務の積み重ねにより,困難な犯罪捜査の進展のために数多くの業績を上げ,社会の安寧に寄与してきました。ここに関係者のたゆみない努力に深く敬意を表します。

今日科学技術の著しい進歩と国境を越えた交流の増大は,社会に様々な影響をもたらしております。このような状況の下,人々の人権と安全が守られる幸せな社会を築いていくために,科学的で公正な資料の提供を始め,この研究所の果たすべき役割は,非常に重要なものとなってくると思います。

研究所の職員が新しい設備の下,内外の研究者との交流などを通じ,有意義な研究を進め,将来にわたって国民の期待にこたえていくことを期待し,お祝いの言葉といたします。

1999年第7回IAAF世界室内陸上競技選手権前橋大会開会式
平成11年3月5日(金)(グリーンドーム前橋)

ここに,1999年第7回IAAF世界室内陸上競技選手権前橋大会の開会を宣言します。

財団法人結核予防会創立60周年記念第50回結核予防全国大会
平成11年3月24日(水)(ホテルニューオータニ)

第50回結核予防全国大会に当たり,日ごろ結核予防事業に尽くしている関係者と一堂に会することを誠に喜ばしく思います。

60年前,我が国の著しい結核の(まん)延を阻止することを目指して結核予防会が設立されました。当時は戦時下にあり,国民の栄養状態も悪化し,特効薬もない状況の中で,結核を患う人々の苦しみと医療に当たる人々の苦労は筆舌に尽くし難いものがあったと察せられます。戦後,ストレプトマイシンを始めとする新薬の開発やレントゲン検査の普及により,結核対策が強力に推進され,結核をめぐる状況は急速に改善されました。60年の歳月を通じて関係者が払ってきたたゆまぬ努力に対し,深く敬意を表したく思います。

今日,結核の予防,治療への対策は非常に進んできていますが,世界各地には今もこの病気に悩んでいる多くの人々があり,国境を越えた協力が強く求められています。また我が国においても近年,社会の高齢化,結核菌の耐性化など,結核の予防や治療に困難な状況が現れてきており,関係者の更なる努力が必要であると思われます。1882年コッホ博士により結核菌発見の報告が行われた3月24日が「世界結核デー」とされ,本日ここに,結核予防全国大会が開催されたことは,結核の問題を世界的な視野において考える上で,誠に意義深いことであります。

この大会を契機として,結核予防に対する人々の関心が更に高まることを期待するとともに,皆さんが,国内の各地であるいは国際協力を通じて,結核の予防と治療のため,今後とも力を尽くしていかれることを切に希望して式典に寄せる言葉といたします。

第25回日本医学会総会
平成11年4月2日(金)(東京国際フォーラム)

第25回日本医学会総会が,多くの医学関係者の参加の下に開催されることを誠に喜ばしく思います。

今世紀の初頭,この総会の第1回に当たる日本聯合医学会が開かれて以来,総会はほぼ4年ごとに行われ,ここに今世紀最後の総会を迎えることになりました。

この100年の間に我が国の医学は目覚ましい進歩を遂げました。歴史を振り返ってみますと,今世紀前半にはまだペストを始めとする伝染病の流行があり,乳幼児死亡率も非常に高いものでした。昭和10年の日本人の平均寿命は男女ともまだ50歳にも達していません。先の大戦後のペニシリンやストレプトマイシンなどの抗生物質の普及が,我が国の医療状況をいかに変えたかということを思わずにはいられません。

今世紀後半の医学は,科学技術の発達とあいまって病気の早期発見や有効な治療法の開発を可能にし,今日我が国の人々はこの恩恵に浴し,今世紀前半には考えられなかったような健康で幸せな生活を享受することができるようになりました。しかしこのような進歩には光と陰が内包されており,誠に残念なことに,公害や薬害により健康に重大な影響を受けた人々があったことも,また事実であります。今後,進歩と共にもたらされ得る危険に対し,これを予見し,常に注意深く対応していくことが,医学界及び関係行政にとっての大きな課題となり,責任となっていくことと思います。また,今日の医学の著しい進歩は,医学の各分野に専門化と細分化をもたらしてきました。その結果,医学に携わる人々には,今までにも増して最新の医療技術に精通するのみならず,常に,人間と社会に対する深い洞察力と,広い総合的視野をもつことが求められてきています。日々医療に携わる人々の労苦はいかばかりのものかと深く察せられますが,どうか皆さんが力を合わせ,国民の,また,世界の人々の幸せのため,力を尽くしていかれることを切に希望します。

この度の総会が,様々な分野での医療関係者や一般市民をも対象として,医学と社会との接点にある多くの課題を幅広く取り上げようとしていることは,誠に意義深く,喜ばしいことと思っています。

ここに今世紀を振り返り,医学の発展に,また,人々の健康に尽くしてきた関係者の努力に対し,深い敬意と感謝の気持ちを表し,この度の総会が実り多いものであることを願って,式典に寄せる言葉といたします。

国賓 ルクセンブルク大公同妃両殿下のための宮中晩餐
平成11年4月5日(月)(宮殿)

この度,ルクセンブルク大公国ジャン大公殿下がジョゼフィーヌ・シャルロット大公妃殿下と共に国賓として我が国を御訪問になりましたことに対し,心から歓迎の意を表します。ここに今夕を共に過ごしますことを誠に喜ばしく思います。

私が初めて大公同妃両殿下にお目にかかりましたのは,今からほぼ46年前,英国女王陛下の戴冠式の折であり,御結婚後間もない両殿下も私も,この式に参列しておりました。その後貴国で,また我が国で,皇后と共に度々お目にかかる機会を持つようになりましたが,昭和天皇の崩御に際しては大喪の礼に御出席いただき,また,引き続き,私の即位の礼にも御列席くださいましたことに今も深く感謝しております。一昨年貴国を訪問いたしましたときには,両殿下を始め,御家族の方々の心のこもったおもてなしをいただき,楽しい一時を御一緒に過ごしたことが,ルクセンブルクの初夏の緑の美しさと共に(おも)い起こされます。

貴国との国交は1927年,安達峯一郎ルクセンブルク駐(さつ)初代日本公使が殿下の母君のシャルロット女大公殿下に信任状を捧呈したことによって始まりましたが,それ以前,貴国を訪れた日本人として記録に残っておりますのは,1886年,谷干城(たにたてき)農商務大臣の欧米の農業事情視察に随行した樋田魯一(ひだろいち)であります。その視察記録の中に,それぞれの国で最も着目されるものが掲げられていますが,ルクセンブルクでは土地の区画,耕作路,灌漑(かんがい),散らばっている土地の分合交換が記されています。200年以上にわたって続けられた鎖国政策を変更し,諸外国との間に国交を樹立してまだ日の浅い我が国にあって,様々な分野で,それぞれ欧米のしかるべき国々から力を尽くして多くのことを学ぼうとしていた当時の我が国の様子が想像され,感慨を覚えます。

ルクセンブルクの歴史は欧州諸国の歴史の変遷と常にかかわり,貴国国民はその間に様々な試練を経てきました。この歴史を顧みるとき,厳しい状況の中で貴国国民が独立を維持し,今日世界で最も豊かな国を築き上げたことに対し,深い敬意を表するものであります。

貴国は,第二次世界大戦後から始まった欧州統合への流れに,当初から積極的に参画してきました。そのような貴国と我が国との間で,近年,政治,経済,文化を含む幅広い交流が深まってきていることを誠に喜ばしく思います。この度の大公同妃両殿下の御訪問が両国民の間の相互理解と友好を更に深める機会となることを切に希望いたします。

我が国は今桜の季節を迎えています。両殿下が,各地で我が国の春の風物をお楽しみになり,御訪問が実り多いものとなるよう願っております。

ここに杯を挙げて,大公同妃両殿下の御健勝並びにルクセンブルク大公国の繁栄と国民の幸せを祈ります。

1999年日本国際賞授賞式
平成11年4月28日(水)(国立劇場)

この度の日本国際賞の授賞式に当たり,「情報技術」の分野においてウェスレイ・ピーターソン博士が,「生命科学における分子認識と分子動態」の分野においてジャック・ストロミンジャー,ドン・ワイリー両博士がそれぞれ受賞されたことを心からお祝いいたします。

ピーターソン博士はディジタル技術の分野で重要な要素である符号理論に関する先駆的研究で顕著な成果をあげられました。今日のディジタル通信,ディジタル放送,ディジタル記録にはピーターソン博士の研究成果が欠くべからざるものとして広く利用されています。通信技術の進歩は個人の生活や社会の便宜に大きく寄与していますが,更に的確な情報を迅速に世界のあらゆる地域に伝えることにより,人々が物事を理解し,考える上の共通の基盤をつくり,国際間の交流を深め,世界の平和に資するものとなるよう期待しています。

ストロミンジャー,ワイリー両博士は健康の維持に必須な免疫応答がいかにして引き起こされるかを分子のレベルで解明し,免疫学に新しい視点を提供されました。この問題は,免疫系が関与する難病の制御や臓器移植,また一方で免疫系を強化することによるがん,感染症などの治療といった医学的な応用に直結する極めて重要なものであります。今後免疫系に対する理解が更に進み,難病を始めとする様々な病気に苦しむ人々の上に光が訪れることを願ってやみません。

3博士のそれぞれの御研究並びにその応用は,人々の生活に大きく寄与するところのものであり,ここに3博士の優れた業績に対し,またそれに協力した多くの人々の努力に対し,深く敬意を表します。

終わりに,科学技術の研究を通じて人類の平和と繁栄に貢献した人々を顕彰するという目的をもって設立されたこの賞の選考に当たり,その目的を達成するため力を尽くしてこられた関係者の努力を深く多とし,科学技術が,今後とも,人類に真の幸せをもたらすものとして発展していくことを願い,授賞式に寄せる言葉といたします。

第40回海外日系人大会
平成11年5月13日(木)(九段会館)

第40回海外日系人大会が各国から多数の参加者を迎え,ここに開催されますことは誠に喜ばしいことであります。私はこれまで皇太子として第10回から5年ごとにこの大会に出席してまいりましたが,この度15年振りに出席の機会を得,ここに皆さんと一堂に会することをうれしく思います。

明治元年,今日の海外移住者の(こう)矢となる人々が我が国からハワイ王国に集団移住してから130年余りの歳月が流れました。その後我が国の人々は様々な地域に移住するようになり,本年はペルーとボリビアにおいて日本人移住100周年が祝われることになっております。風土,文化の異なる未知の社会に移住して新しい生活を築くために移住者の払った努力はいかばかりのものであったか深く察せられます。そして厳しい生活の中で志半ばにして倒れた多くの移住者が今日の日系人の発展の礎になっていることを忘れることはできません。このような先人の労苦を深く心に刻み,後世に伝えていかなければならないと思います。

一方,我が国からの移住者が,勤勉さと誠実な生活態度によって,次第に,それぞれの国で信頼と尊敬を集め,また,厳しい生活の中で,常に子弟の教育に情熱を傾けてきた結果,今日,各国において,日系の人々が社会の様々な面で活躍し,国の発展に貢献していることは,私どもの誇りとするところであります。私は,一昨年,皇后と共にブラジル,アルゼンチンを訪問し,帰路ロスアンゼルスに立ち寄りましたが,それぞれの土地で日系の人々が地域の人々と交わり合い,共に国や社会のために尽くしていることを非常に心強く思いました。

先の大戦では多くの日系の人々がそれまでに築き上げてきたものを失い,様々な苦労を味わったことと察せられますが,そうした中にあって,戦後の荒廃した我が国に温かい救援の手を差し伸べられたことは,最近の阪神・淡路大震災に対する支援と共に深く私どもの心に残るものであります。

近年中南米諸国から多数の日系人が就労のために我が国に滞在するようになりました。かって我が国からの移住者がこれらの国々で受け入れられてきた歴史を顧み,我が国においてこれらの日系の人々が温かく迎えられることを切に望んでやみません。

40回にわたる海外日系人大会が,我が国と各国の日系の人々,並びに各国の日系の人々相互の理解を深め、友好の(きずな)を強める上に大きく寄与してきたことに深く敬意を表し,今回の大会が更に意義ある大会となることを願い,式典に寄せる言葉といたします。

第13回世界理学療法連盟学会開会式
平成11年5月23日(日)(国立横浜国際会議場)

第13回世界理学療法連盟学会が世界の各地から多数の参加者を迎えて,ここ横浜において開催されることを誠に喜ばしく思います。

第1回の学会は1953年,25か国からの参加者をロンドンに迎え開催されましたが,当時我が国においては,まだ理学療法士という制度がありませんでした。それから10年を経た1963年,米国や世界保健機関の協力の下に初めて理学療法士や作業療法士を専門家として養成する学校が我が国に設けられ,2年後,理学療法士及び作業療法士法の制定により,理学療法士,作業療法士という国家資格を持つ医療の専門職が誕生しました。このようにして国の内外からの協力を得,理学療法という新たな世界を切り開き,現在19,000名に達する多くの理学療法士を育てた人々の努力に深く感謝の意を表するものであります。

今日,国内各地の福祉施設で理学療法士や作業療法士が心を込めて障害を持つ人々や高齢者の治療に当たっている姿に接し,また寝たきりであった高齢者が良い看護を受けた結果,起きて生活ができるようになった話などを耳にし,その目覚ましい働きに深い感動を覚えます。理学療法が,今後とも,急速な医学の進歩の成果を取り入れながら,人々の生活の質を向上させるために更に貢献していくよう願っております。

今回の学会には,世界の理学療法士が,それぞれの地域や人種,文化の違いを認め合いながら,その枠を超えて,理学療法学や治療技術の進歩という共通の目標によって結ばれていく願いを込めて「文化を超えて」というテーマが掲げられています。理学療法が対象とするものは人類に普遍的なものであり,様々な道を歩んできた国々の人々が一堂に会し,研究成果を分かち合うことは極めて意義深いことと思われます。そして,この学会が,我が国においては比較的歴史の浅いこの分野で,日夜真剣に努力を続けている我が国の理学療法士に大きな刺激となり励ましとなることを期待しております。

この度の学会が参加者にとって実り多いものとなり,理学療法の発展と普及に大きく貢献することを心から願い,開会式に寄せる言葉といたします。

第50回全国植樹祭
平成11年5月30日(日)(新天城ドーム(静岡県))

第50回全国植樹祭がここ天城湯ヶ島町において,全国からの参加者を迎えて行われることを誠に喜ばしく思います。

戦後の我が国においては戦災からの復興のための資材などの需要で森林の伐採が著しく進み,それに伴って台風による山崩れや洪水がしばしば起こり,大きな被害がもたらされていました。このような状況の下,治山治水に対する切実な願いをこめて昭和25年,第1回植樹行事並びに国土緑化大会が山梨県で行われました。第2回の大会は昨年植樹祭が行われた群馬県で,そして第3回の大会がこの静岡県の箱根山(ろく)で行われました。当時の植栽地はいずれも木の良好な生育に適する環境にはありませんでしたが,手塩にかけた関係者の苦労が実り,今日立派な森林に育っていると聞いております。

このようにして国土の復興を目指した多くの人々のたゆみない努力によって,全国各地の山々で森林が育ち,水源の(かん)養,災害の防止,環境の保全など様々な面で人々の生活にとって欠くことのできない重要な役割を果たしています。我が国の自然には,厳しいものがありますが,近年,治山治水が進み,その効果が現れつつあることは,心強いことです。

豊かな森林の造成には,長い年月と忍耐強い努力が必要であります。山村地域の過疎化と林業に携わる人々の高齢化が進む中で,先人から受け継いだ森林を守り育て,常に活力ある森林として保っていくことが重要であり,このことは今後様々な分野の人々が協力して取り組むべき大きな課題であると思います。

豊かな自然に恵まれた伊豆半島の森林地帯で行われる今回の全国植樹祭が、森林の大切さについての理解を深め,多くの人々が森づくりに協力する機運を高める契機となることを心から希望いたします。

国賓 オーストリア大統領閣下及び同令夫人のための宮中晩餐
平成11年6月2日(水)(宮殿)

この度,オーストリア共和国大統領クレスティル閣下が,令夫人と共に,国賓として我が国を御訪問になりましたことに対し,心から歓迎の意を表します。ここに,今夕を共に過ごしますことを誠に喜ばしく思います。

貴国は古くから神聖ローマ帝国の中心として欧州の歴史や文化の発展に重要な役割を演じてきましたが,貴国と我が国との国交は,1869年,オーストリア・ハンガリー帝国の使節が我が国を訪れ,両国政府の間に,修好通商航海条約が締結されたことに始まります。以来,貴国と我が国は,それぞれ,様々な歴史の試練を経て,本年,この条約の締結から130周年を迎えました。

両国の国交が開かれたころは,我が国が200年以上にわたった鎖国を解き,国際社会に()して国の発展を図る努力を始めたところでありました。1873年にウィーンで開催された万国博覧会には,日本は国を挙げて参加し,右大臣岩倉具視を始めとし,政府の要人が多く参加して当時欧米諸国を歴訪中であった使節団も,時を同じくして貴国を訪れ,両国間に実りある交流が行われました。

その後の近代化の過程で,我が国は,様々な分野で貴国から多くのものを学びました。万国博覧会の代表として,ウィーンに駐在した初代弁理公使佐野常民は,ウィーン滞在中に赤十字活動について研究し,真の文明は道徳的行動の進歩を伴うべきものであるとの信念の下に日本赤十字社の前身である博愛社を創設し,1877年の我が国における最後の内戦の時,敵味方双方の救護に当たりました。また,我が国の初代内閣総理大臣となり,1889年に発布された帝国憲法の制定に深くかかわった伊藤博文は,ウィーン大学の国法学者ロレンツ・フォン・シュタイン教授の下に学んでおります。

文化の面においては,我が国から多数の留学生が貴国の音楽大学や高等音楽学校で学び,今日貴国の音楽は我が国民に広く親しまれております。また,我が国の冬のスポーツとして盛んなスキー技術も貴国からもたらされたものであり,1910年,駐日オーストリア大使館付き武官レルヒ少佐が新潟県高田と北海道旭川で陸軍軍人等を教えたことに始まります。

現在,両国間の関係は,経済,文化,人的交流など様々な面で,ますます緊密なものとなっております。一世紀以上にわたって交流を深め,友好関係を築いてきた両国が今後とも,世界の平和と発展という普遍的な目標のために一層緊密に協力していくことを心から希望いたします。

日本は,今,さわやかな初夏を迎えております。大統領閣下並びに令夫人が,御滞在中,我が国の様々な文化に親しまれ,お二方の今回の御訪問が実り多いものとなるよう願っております。

ここに杯を挙げて,大統領閣下並びに令夫人の御健勝とオーストリア共和国国民の幸せを祈ります。

「世界環境デー」記念式典
平成11年6月5日(土)(東京プリンスホテル)

1972年に開催されたストックホルム国連人間環境会議にちなんだ「世界環境デー」の記念式典に臨み,様々な形で環境問題に取り組んでいる内外の関係者と一堂に会することを誠に喜ばしく思います。

ストックホルムで採択された人間環境宣言は,「人は,環境の創造物であると同時に,環境の形成者である」と述べております。人類は,文明の進展と共に,森林の破壊など様々な変化を地球上にもたらしてきました。特に,近年,人類の生産活動の拡大や有害物質の排出,人口の増加は環境の悪化を著しく進めてきております。一方,人類は,科学技術の進歩によって,悪化した環境を回復させ,よりよい状態に保っていくための能力も高めてきております。

我が国においても,かって,高度成長に伴って,国内に幾つもの公害問題が発生し,地域によっては人々の健康に大きな影響を与えてきました。東京の空も黒ずみ,その下で公害に弱いモミやアカマツは枯れていきました。光化学スモッグによって児童や生徒が被害を受けたのもそのころのことでした。幸いその後,人々が問題の深刻さを認識し,その解決のために大きな努力を払ってきた結果,東京の空の状態も著しく改善され,緑もよみがえってきました。このような人々の一致した努力が環境の改善に果たした役割を考える時,世界の環境問題に明るい未来を感じます。

かつて,ともすれば対立的にとらえられがちであった経済活動や経済開発と環境との関係が,次第に双方の間の調和を保ちながら,すべての関係者が協調して取り組むべきものであると考えられるようになってきていることは心強いことであります。より良い環境を形造り,保全していくためには,個人,企業,地域,国,更には国際社会それぞれが,問題を十分に認識し,互いに協力しつつ,なし得る努力をたゆみなく続けることが必要であります。本日受賞されるグローバル500賞の受賞者がそれぞれの立場で環境の保護や改善に尽くされてきたことに深く敬意を表します。

世界のあらゆる地域の人々が良好な環境の下に暮らせるよう,環境問題にかかわり,あるいは関心を持つ人々が協力し合い,努力することを願って,式典に寄せる言葉といたします。

弁理士制度100周年記念式典
平成11年7月1日(木)(東京国際フォーラム)

弁理士制度100周年に当たり,内外の関係者と共に,この記念式典に臨むことを誠に喜ばしく思います。

我が国は,明治32年に,工業所有権の保護に関するパリ条約に加盟し,特許代理業者登録規則を公布しましたが,これが,今日の弁理士制度につながるものとなりました。以来100年,弁理士は,工業所有権制度の運用の重要な一翼を担い,我が国における科学技術の進歩と産業経済の発展に大きく貢献してきました。ここに,先人の労苦に思いを致し,本日表彰を受けられる特別功労者を始めとする関係者の長年にわたる努力に深く敬意を表します。

今日,科学技術の発展は著しく,工業所有権にかかわる業績は日々蓄積され,また経済活動は急速に国際的な広がりを見せております。それに伴い,弁理士の活動もますます重要なものとなってきています。皆さんが,このような時代の要請にこたえて更に研(さん)を積み,国際的な交流を進め,世界各国の同じ業務に携わる人々と共に,我が国のみならず世界の人々のために尽くされるよう期待しています。

ここに,100周年を迎えた弁理士制度が今後とも適切に運用され,知的活動の奨励とその成果の保護に寄与していくことを願い,式典に寄せる言葉といたします。

著作権法100年記念式典
平成11年7月22日(木)(新国立劇場)

本日,ここに,著作権法施行100周年を祝う記念式典に臨むことを,誠に喜ばしく思います。

法律によって著作権を保護する動きは,18世紀から19世紀にかけて,欧州諸国を中心に広まり,1886年,ベルヌ条約が調印されて,その保護が国際的な枠組みを持つようになりました。我が国は,それから13年を経た明治32年,この条約に加入し,それと同時に,著作権法を制定しました。ちょうど今から100年(ぜん)のことであります。

著作権制度は,その後の100年を通じて,科学技術の進歩と国際的な交流の広がりに対応しながら,我が国の学術・文化の創造と発展に大きく貢献してきました。ここに,表彰を受けられた特別功労者を始め関係者のたゆみない努力に深く敬意を表します。

これからの高度情報化社会においても,創作という知的な作業を尊重し,作品に対する創作者の権利を保護するとの意識が一層高まっていくことが望まれます。その上に立って,著作権制度が,今後とも,創作者の権利を守るとともに,文化的所産の公正な利用を確保することによって,我が国の文化を支える基盤としてますます大きな役割を果たしていくことを願い,式典に寄せる言葉といたします。

全国戦没者追悼式
平成11年8月15日(日)(日本武道館)

本日,「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり,全国戦没者追悼式に臨み,さきの大戦において,かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い,深い悲しみを新たにいたします。

終戦以来既に54年,国民のたゆみない努力により,今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが,苦難に満ちた往時をしのぶとき,深い感慨を禁じ得ません。

ここに歴史を顧み,戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い,全国民と共に,戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し,心から追悼の意を表し,世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。

第19回全国豊かな海づくり大会
平成11年10月3日(日)(松川浦漁港(福島県))

第19回全国豊かな海づくり大会が福島県相馬市で開催されるに当たり,多くの関係者と共にこの式典に臨むことを誠に喜ばしく思います。

海は,古くから,人類に豊かな資源を提供するとともに,国際的な交流を促進し,また,地球上の気候に大きな影響を与えるなど,人々の生活に深くかかわってきました。科学技術の進歩は,人々が様々な形で海を活用し,その恩恵を受けることを可能にしてきましたが,それに伴い,水産資源の減少や,海洋の汚染などの問題も起こってきました。近年,このような状況に対する認識が深まり,問題の解決のための国際的な協力が積極的に進められていることを心強く思います。

我が国においても,海の環境を良好に保ち,水産資源の持続的な活用を図るため,各地で,自分たちの海を,美しく保つための地道な努力が進められていることは,喜ばしいことであります。これからも,海の環境が,海に注ぐ川や,川の源をなす森の環境と一体のものであることを心にとどめ,すべての関係者が協力して,その改善に努めていくよう願っています。

今回の大会の場所となったこの海域は,親潮と黒潮の出会う優れた漁場でありますが,福島県においては,全国に先駆けて,ヒラメ漁の自主的な規制が実施され,その成果がヒラメの漁獲量にも現れていると聞いています。今後,このような資源管理の努力が更に進められ,様々な水産資源を常に安定した形で利用する一助となることを期待しています。

この大会が,海に対する関心と理解を深め,人々が協力して,豊かな海をつくっていくための契機となることを願い,大会に寄せる言葉といたします。

更生保護制度施行50周年記念全国大会
平成11年10月13日(水)(日本武道館)

更正保護制度施行50周年に当たり,日ごろこの困難な仕事に力を尽くされている関係者と一堂に会することを誠に喜ばしく思います。

我が国の更生保護事業は,保護司,更生保護施設,更生保護婦人会,BBS会,協力雇用(しゅ)など,多くの民間篤志家の努力によって支えられてきました。他人への思いやりと社会奉仕の精神に基づいたこれらの人々の努力が,個人の福祉の増進と社会秩序の維持のために果たしてきた役割には誠に大きなものがあったと思います。本日の表彰受賞者を始め,長年にわたり,人知れぬ苦労を重ねながら,更生保護の仕事に携わってきた多くの関係者の努力に深く敬意を表します。

地域社会や家族に根ざした人と人とのつながりが変化しつつある中で,更生保護の仕事にも,これまでにない新しい難しさが出てきているものと察しています。そのような状況を踏まえて,皆さんが,常に心を新たに,この制度の充実を図り,明るい社会の実現を目指して,常に貢献していかれることを願い,大会に寄せる言葉といたします。

第54回国民体育大会秋季大会開会式
平成11年10月23日(土)(熊本県民総合運動公園陸上競技場)

第54回国民体育大会秋季大会が熊本県で開催されるに当たり,全国から参加した選手,役員を始め,多くの県民と共に,開会式に臨むことを喜ばしく思います。

昭和21年,戦後の荒れ果てた国土にスポーツの復興を願い,第1回の大会が行われて以来,国民体育大会は我が国各地のスポーツの普及と振興に大きな役割を果たしてきました。大会関係者のたゆみない努力に対し,深く敬意を表するものであります。

熊本県で開催されるのは,第15回秋季大会以来39年振りのことでありますが,ここに集う選手の一人一人が,日ごろ鍛えた力と技を十分に発揮するとともに,この機会に,選手相互の,そして,熊本県民との交流を深められるよう願っています。

豊かで美しい自然環境に恵まれ,多様な地域文化を継承する熊本県で,多くの県民の協力に支えられて開催される「くまもと未来国体」が,長く心に残る,実り多き大会となることを期待し,開会式に寄せる言葉といたします。

日本学術会議50周年記念式典
平成11年10月28日(木)(日本学術会議)

日本学術会議50周年に当たり,会員を始め,内外の関係者と共にこの記念式典に臨むことを誠に喜ばしく思います。

昭和24年,日本学術会議は,科学が文化国家の基礎であるという確信に立ち,我が国の平和的復興と人類社会の福祉に貢献し,世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命として設立されました。以来今日に至るまで,日本学術会議が,科学と社会の接点の役割を果たしつつ,科学の振興について様々な努力を払ってきたことに深く敬意を表します。

50年前の我が国は戦後の厳しい状況下にあり,まだテレビ放送も行われていませんでした。そのような中で,この年の湯川秀樹博士のノーベル物理学賞の受賞は国民に大きな喜びを与えました。

50年間を振り返るとき,科学技術の著しい進歩とその進歩がもたらした人類社会への貢献に深く思いを致すのでありますが,一方科学技術の進歩に伴う人類の様々な活動が,環境の汚染や健康への悪影響をもたらした事実も想起されなければなりません。福井謙一博士がノーベル化学賞の授賞式で言われた「科学の研究の応用における善,そして-もしあるとすれば悪-の区別をもっともよく見分けるのが,科学の先端的な領域に働く研究者として,すぐれた人たちなのです」という言葉は誠に意義深く思われます。

今日,科学研究の対象分野は細分化し,それぞれ奥深いものとなってきていますが,一方で学際的研究も盛んになってきています。人文科学及び自然科学のあらゆる分野にわたる全国の科学者のうちから選ばれた会員をもって組織する日本学術会議が,科学を広い視野から眺めつつ,科学の進歩が社会をより良い方向に進め,人類の福祉に貢献するよう尽力することは今後ますます重要なものとなると思われます。

科学の研究に携わる人々が,それぞれの分野で真実を追求しながら,自らの研究と社会とのかかわりに深く心を寄せていくことを願い,日本学術会議の今後の一層の充実,発展を期待し,本日のお祝いの言葉といたします。

第146回国会開会式
平成11年10月29日(金)(国会議事堂)

本日,第146回国会の開会式に臨み,全国民を代表する皆さんと一堂に会することは,私の大きな喜びであります。

ここに,国会が,国権の最高機関として,当面する内外の諸問題に対処するに当たり,その使命を十分果たし,国民の信託にこたえることを切に希望します。

天皇陛下御在位10年記念式典
平成11年11月12日(金)(国立劇場)

即位十年に当たり,政府並びに国の内外の多くの人々から寄せられた祝意に対し,深く感謝いたします。

昭和天皇の崩御によって,深い悲しみのうちに皇位を継承して以来,国民の幸せを常に願われた天皇の歴史に思いを致し,天皇が日本国の象徴であり,日本国民統合の象徴であるとの憲法の規定を念頭に置き,国と国民のために日々の務めを果たしてきました。この10年間,折々に私どもに寄せられた国民の温かい気持ちに,衷心より謝意を表します。

この10年の間には,様々なことが起こりました。6,000人を超える人の命が失われた阪神・淡路大震災は誠に心痛む出来事でした。被災者の心の(いや)される日が一日も早く来ることを切に願っています。

国外においては,ソヴィエト連邦の崩壊がありました。この出来事に象徴される冷戦の終結によって(とも)された平和に向かう灯火が今後消されることのないよう願っています。そのためにも,我が国の人々が,世界に真の平和をもたらすために様々な形で寄与していくことが大切であろうと思われます。

即位以来,でき得る限り多くの地方を訪問することに努めてきましたが,人々の努力によってそれぞれの地域が美しく整ってきていることを喜ばしく思います。これからも,厳しいながらも豊かな自然に囲まれて,人々が幸せに暮らすことのできる環境が,更に整備されていくことを望んでいます。

今日,我が国の経済や社会は,幾つもの大きな課題に同時に直面しております。この状況に対処することには,多くの困難が伴うことと思いますが,国民の英知と努力によって,これらの困難が克服されていくことを確信しております。

これからも,我が国の人々が,世界の人々と和し,協力しつつ,共によりよい将来に向かって力を尽くしていくことを切に希望いたします。

ここに記念式典を催されたことに深く感謝し,国民の幸せと世界の平和を祈ります。

第15回国際生物学賞授賞式
平成11年11月29日(月)(日本学士院会館)

江橋節郎博士が第15回国際生物学賞を受賞されたことを心からお祝いいたします。

今回の授賞分野は動物生理学でありますが,博士は,筋細胞内の微量なカルシウムイオンが筋肉収縮に重要な役割を果たしていることを世界で初めて発見するなど,カルシウムイオンの生理的役割の解明に大きく寄与されました。博士が学士院賞授賞式において国際生物学賞と深いかかわりのある昭和天皇から「筋の収縮及び()緩の機構に関する研究」に対する恩賜賞を受賞されたのは,27年も前のことになります。博士はその後も研究をたゆみなく続けられ,御研究の成果が動物生理学ひいては生物学全般の発展に多大な貢献をし,さらには広く関連分野に影響を与えたことに対し,深く敬意を表します。また,江橋夫人が論文の共著を含め,長年にわたり博士の御研究を助けられたことを思い,夫人のお喜びもいかばかりかと察しています。

博士の御研究とそれに関連する様々な研究が今後更に大きな成果をもたらし,生物学の発展に寄与することを期待し,授賞式に寄せる言葉といたします。

国賓 ヨルダン国王同妃両陛下のための宮中晩餐
平成11年12月1日(水)(宮殿)

この度,ヨルダン・ハシェミット王国アブドッラー国王陛下が,ラーニア王妃陛下と共に国賓として我が国を御訪問になりましたことに対し,心から歓迎の意を表します。ここに今夕を共に過ごしますことを誠に喜ばしく思います。

顧みますと,私どもが初めて貴王室の方にお目にかかったのは,1970年,大阪万国博覧会の機会に,陛下の母君モウナ・アル・フセイン王妃殿下がフィリアル王弟妃殿下と共に我が国を御訪問になった時でありました。

父君フセイン国王陛下には,1976年,アーリア王妃陛下,バスマ,アーリア両王女殿下と共に,国賓として初めて我が国を御訪問になりましたが,その後も,三回にわたって我が国を御訪問になっております。一度は当時王子でいらした貴国王陛下と,一度はヌール王妃陛下と御一緒の御訪問であり,10年前,昭和天皇の大喪の礼に御参列いただきましたのが,最後の御訪問となりました。

私が,昭和天皇の名代として,皇后と共に貴国を訪問いたしましたのは,フセイン国王陛下の国賓としての御訪問から3か月後のことでありました。その折,国王王妃両陛下,ハッサン皇太子同妃両殿下,バスマ王女殿下から心のこもったおもてなしを頂き,深く感謝しております。訪れたローマの遺跡ジェラシュやナバテアの遺跡ペトラの景観,死海の眺望,また,国王王妃両陛下,ハッサン皇太子同妃両殿下と御一緒にアカバ王宮で過ごした一時などが,貴国の人々から受けた歓迎と共に,今も深く心に残っております。

また,皇太子同妃を始め,我が国の皇族の貴国訪問に当たって,貴王室からそれぞれ丁重なおもてなしを頂いていることに深く感謝いたします。

陛下の曽祖父君が,第一次世界大戦後,国を建てられて以来,筆舌に尽くし難い困難を経て,今日のヨルダン・ハシェミット王国が築かれてきました。

中でも,父君フセイン国王陛下は,40余年にわたる御治世の間に,端からは計り知れない御苦労の中で貴国民の安寧と地域の平和のためにお尽くしになりました。御生涯の最後まで,あつい病の中,渾身(こんしん)の力を込めて平和に対する御努力を続けられたことは,人々に深い感動を与え,今年の1月,アンマンへの御帰国に際して貴国民の示した喜びの気持ちは見る者に深い感銘を呼び起こしました。

貴国王陛下には,父君フセイン国王陛下の崩御によって王位を継承されて以来,事多い日々をお過ごしのことと深くお察しいたしております。そのような中で御訪問になった国王陛下の我が国における御滞在が,実り多いものとなるよう願っております。

近年,両国の間には,経済技術協力,文化交流,人々の往来など様々な分野での交流が進められております。国王王妃両陛下が,この御訪問を通して我が国の人々との交流をお深めになり,両国間の理解と友好が更に促進されることを心から希望いたします。

東京はちょうど紅葉の盛りを迎えております。この機会に古来我が国の人々が()で親しんできた紅葉を味わっていただければうれしいことと思います。

ここに杯を挙げて,国王王妃両陛下の御健勝並びにヨルダン国民の幸せを祈ります。

国立身体障害者リハビリテーションセンター及び国立職業リハビリテーションセンター創立20周年記念式典
平成11年12月6日(月)(埼玉県所沢市)

国立身体障害者リハビリテーションセンター並びに国立職業リハビリテーションセンターが,創立20周年を迎えたことを,誠に喜ばしく思います。

この二つのセンターは,障害を持つ人々が社会の一員として自立できるよう,医療から職業訓練,就労支援までを一貫して行うことを目的として設立され,着実な成果をあげてきました。この20年の間,二つのセンターにおいて,障害者の社会参加のために力を尽くしてきた,センター職員を始めとする多くの関係者の努力に深く敬意を表します。

近年,障害を持つ人々に対する国民の理解と関心が深まり,障害者を取り巻く社会的な環境も改善されてきていることは,誠に喜ばしいことであります。同時に,障害者の高齢化や障害の重度化などが,更に進んでいるほか,国内の経済事情により,障害者の就労にとっても厳しい状況が続いていることを案じています。両センターから社会に巣立っていった障害を持つ人々が,センターでの経験をいかし,幸せな生活を送っていることを,心から願うものであります。

この二つのセンターが,すべての関係者の協力の下に,医療から就労までという,その機能の一貫性を更に強め,障害を持つ人々の自立促進のために,今後ますます重要な役割を果たしていくことを期待し,お祝いの言葉といたします。