主な式典におけるおことば(平成10年)

天皇陛下のおことば

第142回国会開会式
平成10年1月12日(月)(国会議事堂)

本日,第142回国会の開会式に臨み,全国民を代表する皆さんと一堂に会することは,私の大きな喜びであります。

国会が,永年にわたり,国民生活の安定と向上,世界の平和と繁栄のため,たゆみない努力を続けていることを,うれしく思います。

ここに,国会が,当面する諸問題を審議するに当たり,国権の最高機関として,その使命を十分果たし,国民の信託にこたえることを切に希望します。

1998年長野オリンピック冬季競技大会開会式
平成10年2月7日(土)(南長野運動公園多目的競技場(長野県))

ここに,長野における第18回オリンピック冬季競技大会の開会を宣言します。

自治体消防制度50周年記念式典
平成10年3月7日(土)(日本武道館)

本日,ここに,全国から参加した消防長,消防団長を始め,多くの関係者と共に,自治体消防制度50周年を祝うことを誠に喜ばしく思います。

市町村を主体とする新たな消防制度が発足したのは,戦後間もない,なお困難な時代でありました。当時,消防器材も乏しい中,消防団を中心に,新しい消防制度の確立のために力を尽くした関係者の労苦が察せられます。

その後50年の間に,自治体消防は,時代の推移に対応して,組織,設備,機能の充実強化を進め,地域社会の安全確保に大きく貢献してきました。ここに,関係者の長年にわたる昼夜を分かたぬ努力に深く敬意を表します。また,その間,厳しい任務を遂行する中で,負傷し,病を得た人々に思いを致し,殉職した人々に心から哀悼の意を表したいと思います。

消防は,火災のみならず様々な災害から国民の生命,身体及び財産を守るという極めて重要な役割を持つものであります。これからの消防活動には,都市化や高齢化などに伴う多くの困難が予想されます。同時に,大規模災害や海外での災害など,取り組むべき新たな課題も少なくありません。

消防関係者が,今後とも,装備の充実と技術の向上に努め,安全な社会を築くために力を尽くしていくことを期待するとともに,国民一人一人が消防の使命の達成に一致協力していくことを切に希望いたします。

国賓 イタリア大統領閣下のための宮中晩餐
平成10年4月14日(火)(宮殿)

この度,イタリア共和国大統領スカルファロ閣下が,国賓として,令嬢と共に我が国を御訪問になりましたことに対し,心から歓迎の意を表します。ここに今夕を共に過ごしますことを誠に喜ばしく思います。

私は,5年前の9月,貴大統領のお招きにより,皇后と共に貴国を訪問いたしました。その折,貴大統領並びに令嬢から,心のこもったおもてなしをいただいたことに,改めて深く感謝いたします。ローマを始め,訪れたフィレンツェ,ピストイア,シエナ,ミラノの各都市において,長年にわたってはぐくまれた貴国の文化に触れるとともに,多くの貴国国民から温かい歓迎を受けたことが,懐かしく思い起こされます。

貴国と我が国とは地理的に遠く離れており,長い間直接の交流はなく,それぞれの文化を発達させてきました。両国の人々の間に交流が行われるようになったのは16世紀後半のことであり,貴国からは,東インド巡察師ヴァリニャーノ神父が来日し,我が国からは同神父によって計画された天正遣欧少年使節や,仙台の大名伊達政宗により貿易を目的として派遣された支倉常長の遣欧使節などがはるばる貴国を訪れております。

しかし,このような交流の一時期を経た後,我が国は200年以上にわたる鎖国の時代に入りました。したがって貴国の人々との交流が再び行われるようになったのは,我が国が鎖国政策を維持できなくなり,諸外国と国交を開くようになった19世紀半ば以降のことになります。この時期の我が国は国を守り,発展させるために,諸制度の近代化を進め,外国の様々な文物を取り入れることに非常な努力を払っていました。多くの外国人が招(へい)され,我が国の人々を育ててくれました。

貴国からは,銅版画家エドアルド・キオッソーネが,我が国の大蔵省の招聘により,紙幣の作成に貢献し,アントニオ・フォンタネージやヴィンツェンツォ・ラグーザは,工部省に設けられた美術学校で,絵画,彫刻を教え,我が国美術界の発展に大きく寄与しました。

その後も,我が国においては,貴国の美術,文学,音楽を始め,人々の生活の様々な分野にまたがる豊かな文化に深い関心が持たれ,我が国民は,貴国国民に対し,敬意と親しみを持ち続けてまいりました。

近年,貴国においても,日本文化の総合的な紹介事業として,「イタリアにおける日本95/96」が行われ,貴大統領がこの事業の名誉総裁をお務めになり,高円宮同妃と共に,開会式に御出席になりましたことは,誠に意義深いことであったと思います。今後とも,両国において,このような努力が絶えず続けられ,大きな成果をあげていくことを願っております。

貴国と我が国は先の大戦の経験から,戦争の大きな痛みを知っております。今日,戦争のない欧州の実現を目指した欧州統合の大きな動きの中で,貴国は,積極的に,重要な役割を果たしてきています。この度の御訪問中,貴大統領が広島をお訪ねになることも,平和に対する真()なお気持ちの表れと拝察されます。私は,貴国と我が国との関係が,両国民の幸せのためのみならず,世界平和と繁栄のためにも,更に幅広く,強固なものとなっていくよう,両国民が手を携えて進んでいくことを切に希望いたします。

今回の御訪問が,快適で実り多いものとなることを願い,貴大統領並びに令嬢の御健勝とイタリ共和国国民の幸せを祈って,杯を挙げたく思います。

1998年(第14回)日本国際賞授賞式
平成10年4月28日(火)(国立劇場)

第14回日本国際賞の授賞式に当たり,江崎博士が「新材料の設計・創製と機能発現」分野において,また,シェル博士とファン・モンタギュー博士が「農業生産のバイオテクノロジー」分野において,それぞれ受賞されたことを心からお祝いいたします。

江崎博士は,自然界には存在しない半導体超格子と呼ばれる新しい結晶材料をつくり出されました。この結晶材料は,博士の予言されたとおりの優れた特性を示し,応用技術の分野に幅広い可能性を与えることとなりました。また,シェル博士,ファン・モンタギュー博士はアグロバクテリウムによって植物に外来遺伝子を導入する方法を開発し,有用な遺伝子組換え植物の試作に成功されました。この技術は今後の農業の発展に大きく寄与することと期待されます。

ここに,3博士の優れた業績に対し,深く敬意を表します。

今日,科学技術の進歩は誠に目覚ましく,その成果は,今回受賞された3博士の業績が示すごとく,幅広い応用を通じて,人類の生活に,様々な貢献をもたらし得るものであります。新しい科学技術が,今後とも,真に人類の幸せにつながるものとして発展するよう切に希望いたします。

第49回全国植樹祭
平成10年5月10日(日)(群馬県立森林公園「21世紀の森」(群馬県))

第49回全国植樹祭に臨み,ここ群馬県立森林公園「21世紀の森」において,全国から参加者と共に,植樹を行うことを誠に喜ばしく思います。

戦後間もない昭和22年,群馬県は,関東地方を襲ったカスリーン台風によって,死者,行方不明合わせてほぼ700人という犠牲者を出す大きな被害を受けました。この災害は,戦中戦後の山の荒廃がもたらした自然の厳しさを示すものでありました。荒廃した国土の復興を目指して,全国植樹祭が始められるようになりましたが,その第2回大会が,災害から4年後,赤城山(ろく)で行われ,その後の造林推進の契機となりました。当時植栽されたクロマツは立派に生長し,その種子がこの度の大会で()種されると聞いております。

今日,我が国の森林は,国を挙げての国土緑化に励んだ先人の努力により,治山治水の機能を著しく高めるようになりました。さらに,森林は,木材資源を確保し水源を(かん)養し,自然環境を良好に保つなど人々の生活にとって重要な役割を果たしております。森林が人々の心に与える影響も,また大きなものがあります。

山々と清流が織り成す首都圏の重要な水源地である群馬県において,今回開催される植樹祭が,森林のもつ役割についての理解を深め,人々が協力して更に活力のある豊かな森林を守り育てていく契機となることを心から希望いたします。

社会福祉法人日本盲人会連合結成50周年記念式典
平成10年5月21日(木)(東京国際フォーラム)

日本盲人会連合が結成50周年を迎え,ここにその記念式典に臨むことを誠に喜ばしく思います。

昭和23年,「盲人の文化的,経済的向上と社会的地位の躍進を図り,進んで平和日本建設のため,真に人道的使命に立脚し,社会公共のために寄与せん」とする理想を掲げて,日本盲人会連合が,大阪で結成されました。戦後間もない,国民一人一人の生活も極めて厳しい時代であり,その結成のために力を尽くした人々の苦労が深く察せられます。

以来50年,日本盲人会連合は,全国の視覚障害者の福祉の向上と,社会への完全参加を目指して,種種な分野で積極的な活動を続けてきました。それに伴い,視覚障害者に対する国民の理解と関心も高まってきていることを心強く思っております。ここに,今日表彰を受けられた方々を始め,関係者の長年にわたるたゆみない努力に深く敬意を表します。

今年3月に行われたパラリンピック冬季競技大会は,日本選手の活躍を通して多くの人々に深い感銘を与えました。日本選手が優勝した視覚障害者のバイアスロンは電子音響照準装置の開発によって競技を行えるようになったものでありますが,このことは科学技術の応用が,障害者の活動の範囲を広げ,その生活を豊かにするために大きく寄与し得ることを示しております。このように,様々な分野の人々が障害者と協力し合い,障害者の生活を一層充実したものとするために力を尽くしていくことを切に望みます。

この機会に,障害者の自立と社会参加が,広く国民の理解と協力を得て,今後ますます進められていくことを願い,式典に寄せる言葉といたします。

第143回国会開会式
平成10年8月7日(金)(国会議事堂)

本日,第143回国会の開会式に臨み,参議院議員通常選挙による新議員を迎え,全国民を代表する両議院議員の皆さんと一堂に会することは,私の大きな喜びであります。

ここに,国会が,当面する内外の諸問題に対処するに当たり,国民生活の安定と向上,世界の平和と繁栄のため,国権の最高機関として,その使命を十分果たし,国民の信託にこたえることを切に希望します。

全国戦没者追悼式
平成10年8月15日(土)(日本武道館)

本日,「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり,全国戦没者追悼式に臨み,さきの大戦において,尊い命を失った数多くの人々とその遺族を思い,深い悲しみを新たにいたします。

終戦以来既に53年,国民のたゆみない努力により,今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが,苦難に満ちた往時をしのぶとき,深い感慨を覚えます。

ここに歴史を顧み,戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い,全国民と共に,戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し,心から哀悼の意を表し,世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。

第9回国際寄生虫学会開会式
平成10年8月24日(月)(日本コンベンションセンター国際会議場(千葉県))

第9回国際寄生虫学会が,世界の各地から多数の専門家を迎え,ここ幕張において開催されることを誠に喜ばしく思います。この学会の開催に尽力された関係者に対し,深く敬意を表します。

寄生虫感染によって起こる病気は古くから人類を苦しめてきました。我が国においても寄生虫による様々な疾患が知られていました。命にかかわる重大な寄生虫症として,地域社会に悲惨な状況をつくり出したものに日本住血吸虫症があります。この病気については1847年,藤井好直医師が,広島県東部の片山という所で,田を耕すために水に入ると,湿疹ができ,原因不明の病気になるということをその症状と共に「片山記」に詳しく記しています。しかし,この病気の病原虫として桂田富士郎博士により日本住血吸虫が新種として記載され,経皮感染という感染経路と中間宿主のミヤイリガイが見いだされ,それに対する対策が講じられるまでには更に60余年の歳月がかかりました。日本住血吸虫症は限られた地域に発生していましたが,その地域の人々の長年にわたる原因不明の病気による苦しみは,計り知れないものであったと思われます。日本住血吸虫が記載されたのは,我が国が米国との間に日米和親条約を締結してちょうど50年目に当たります。この間,欧米の科学を一心に学んできた当時の寄生虫学者の努力に,深く思いが致されます。その後,日本住血吸虫症は,薬の開発や貝の駆除など多くの人々の尽力により今日では姿を消すに至りました。

マラリアも昔からおこりとか,わらわやみといわれ,我が国に(まん)延していましたが,三日熱マラリアのため,日本住血吸虫症のような悲惨な状況を呈していたわけではありません。しかし,沖縄県の八重山群島には悪性の熱帯熱マラリアがあり,島の開拓は多くの犠牲者を生み出し,廃村の歴史を積み重ねました。終戦の年にはキニーネも医者もない状態で,八重山群島島民の一割以上がマラリアの犠牲になったと記されております。しかしこのマラリアの猛威もDDTの散布により完全に制圧することができました。

寄生虫疾患は,我が国でも成功したようにいずれは消滅の方向に向かうものと,かつては考えられておりました。しかし,今ではそのような楽観的な見通しは立たなくなりました。マラリアについては原虫も媒介する蚊も薬に対する耐性をもつようになってきており,殺虫剤によるマラリア撲滅も効果が薄れてきました。このことは,今日寄生虫症を含む感染症が抱える極めて緊要な問題であり,未来へ大きな不安を抱かせるものであります。さらに,近年,国境を越えた人や動植物,物資の移動がますます拡大し頻繁になってきております。このような状況の下,将来に向かっての国際社会に共通した寄生虫対策が求められており,また,国際的な共同研究も一層進められる必要があると考えられます。

この度の国際学会には,世界の各地から700名を越える参加者を迎えていると聞いております。こうした参加者が我が国の研究者と交わりつつ,新しい研究に耳を傾け,論議を尽くされることを期待しています。学会が実り多いものとなり,その成果が参加者の今後の研究や国際協力に十分いかされるとともに,寄生虫学の発展に大きく貢献することを心から願って,開会式に寄せる言葉といたします。

国賓 大韓民国大統領閣下及び同令夫人のための宮中晩餐
平成10年10月7日(水)(宮殿)

この度,大韓民国大統領金大中閣下が,令夫人と共に,国賓として我が国を御訪問になりましたことに対し,心から歓迎の意を表します。ここに,今夕を共に過ごしますことを誠に喜ばしく思います。

一衣帯水の地にある貴国と我が国の人々の間には古くから交流があり,貴国の文化は我が国に大きな影響を与えてまいりました。8世紀に我が国で書かれた歴史書,日本書紀からは様々な交流の跡がうかがえます。その中には,百済の阿花王,我が国の応神天皇の時,百済から,経典に詳しい王仁が来日し,応神天皇の太子,菟道稚郎子に教え,太子は諸典籍に深く通じるようになったことが記されています。この話には,当時の国際社会の国と国との関係とは別に,個人と個人との絆が固く結ばれている様が感じられます。後には百済から,五経博士,医博士,暦博士などが交替で来日するようになり,また,仏教も伝来しました。貴国の多くの人々が我が国の文化の向上に尽くした貢献は極めて大きなものであったと思います。

このような密接な交流の歴史のある反面,一時期,我が国が朝鮮半島の人々に大きな苦しみをもたらした時代がありました。そのことに対する深い悲しみは,常に,私の記憶にとどめられております。

両国の間には,様々な局面をもつ長い歴史があります。私たちは,このような関係にある両国の歴史を,常に真実を求めて理解することに努めるとともに,両国の人々の努力によって芽生えつつある相互の評価と敬愛の念を,未来に向かって育てていかなければならないと思います。日韓両国が,共通の目的としてよりよい民主国家としての在り方を求め,互いに心して,在るべき今後の関係を築いていくことを切に念願いたします。

近年,幸いなことに,両国の人々の熱意と努力によって様々な分野で交流が進み,相互理解と友好関係が増進してきていることは喜ばしいことであります。特に若い世代の人々の交流が盛んになってきていることは,今後の両国関係の発展に大きな期待をもたせるものであります。先日も政府の主催する日本・韓国青年親善交流事業の一つとして貴国を訪問した青年韓国派遣団に会いましたが,団員が貴国の人々の心に触れ,貴国への理解と親しみを深めて来たことをうれしく感じました。また,昨年5月,大阪において開催された「日韓青少年交流ネットワークフォーラム」は,様々な分野で国際交流に携わる日韓の青少年が一堂に会し,自らの手で今後の交流の在り方を論議し,展望を開いていく上で大変に意義深い試みでありました。今後とも,両国民が,共に,揺るがぬ信頼と友好をはぐくみ,豊かな友好協力の関係を築いていくことを切に願ってやみません。

大統領閣下が,この度,我が国を御訪問になったことは,両国関係の将来にとって極めて大きな意義をもつものであります。短く,御多忙な御滞在ではありますが,我が国各界の人々と広くお接しになるとともに,深まりゆく我が国の秋の風物をお楽しみいただきたく思います。この度の御訪日が,秋の実りのごとく,大統領閣下並びに令夫人にとって実り多く快適なものとなりますよう希望いたします。

ここに大統領閣下並びに令夫人の御健勝と大韓民国国民の幸せを祈って,杯を挙げたく思います。

全国連合小学校長会50年記念式典
平成10年10月15日(木)(東京国際フォーラム)

全国各地から参加された皆さんと共に,全国連合小学校長会創立50年記念式典を祝うことは誠に喜ばしいことであります。

我が国の小学校教育は明治5年の学制発布に始まりますが,この120余年の歴史を振り返るとき,全国民に小学校教育を受けさせようという当時掲げられた理想が,今日に至るまでの我が国の発展にいかに大きく寄与してきたかという思いを深くいたします。ここに,小学校教育に心血を注いだ多くの先人の努力に深く敬意を表します。

全国連合小学校長会が組織されたのは,昭和24年,我が国が戦争による荒廃から平和国家,文化国家の理想を掲げて立ち上がろうと,懸命に努力していたころのことであります。当時物資も乏しく,国民の生活も困難なときに小学校教育の充実,発展を期して,幾多の困難や障害を乗り越え,尽力された先生方の御苦労が深く察せられます。

この50年間に,我が国の国民生活はかつて想像もできなかったほど豊かになり,科学技術の発達などを通して,国土や社会は大きく変(ぼう)しました。急速な高齢化に伴い,今日,社会を構成する人々の年齢分布にも大きな変化がもたらされるに至っています。このような状況下にあって,これまでの社会を築いてきた人々と,これからの社会をつくっていく人々とが,互いに協力して連帯感を培い,人間性をいかす社会をつくっていかなければならないと思います。そして様々な立場にある人々の心を理解しつつ,国際社会に正しく,また礼節をもって生きていく人々が育っていくことが重要と思われます。皆さんが,我が国の今後の在り方に深く思いを致し,それぞれの家庭や地域の人々と協力して,将来を担う人々を育てていかれることを期待しております。

50年を顧み,今日の我が国を支えている人々を世に送り出した皆さんと,皆さんの先人の努力を深く多とし,さらに今後の小学校教育の充実を願って,お祝いの言葉といたします。

公認会計士制度50周年記念式典
平成10年10月22日(木)(東京国際フォーラム)

全国各地から参加された皆さんと共に,外国からの賓客も交え,公認会計士制度50周年を祝うことを誠に喜ばしく思います。

公認会計士制度は,昭和23年,我が国が戦後の復興と民主化に取り組む中で生まれました。以来,50年にわたり,度重なる困難を乗り越えて,我が国経済の再建と発展に公認会計士が大きく貢献してきたことに対し,深く敬意を表します。

近年,経済活動はますます複雑となり,また,広く国境を越えて行われるに至っております。それに伴い,経済活動に関する情報の開示と国際的基準への対応や,社会各方面における公正さと透明性の確保が,今後ますます重要となっていくものと思われます。我が国の将来の発展のために,このような状況の下で公認会計士の果たしていくべき社会的役割には誠に大きなものがあります。

皆さんが,更に研(さん)を積み,制度の一層の充実を図りつつ,人々の信託にこたえていくことを切に願い,お祝いの言葉といたします。

第53回国民体育大会秋季大会開会式
平成10年10月24日(土)(横浜国際総合競技場(神奈川県))

第53回国民体育大会秋季大会が神奈川県で開催されるに当たり,全国から参加された選手,役員を始め,多くの県民と共に,開会式に臨むことを喜ばしく思います。

国民体育大会は,戦争が終わった翌年,スポーツの再建を目指して厳しい状況下で始められ,第10回秋季大会はここ神奈川県で行われました。この度の秋季大会はこの地における43年振りの大会であります。国民体育大会が我が国各地のスポーツの普及と振興に果たしてきた役割は誠に大きなものがあり,大会関係者の長年にわたる努力に対し,深く敬意を表します。

ここに集う選手一人一人が,日ごろ鍛えた力と技を十分に発揮するとともに,選手相互の,そして,神奈川県民との交流を深めるよう念願いたします。

豊かな自然に恵まれ,多彩な歴史をもつ神奈川県で,県民の協力に支えられて開催される「かながわ・ゆめ国体」が,永く心に残る,実り多き大会となることを期待し,開会式に寄せる言葉といたします。

第18回全国豊かな海づくり大会
平成10年11月15日(日)(鳴門ウチノ海総合公園(徳島県))

第18回全国豊かな海づくり大会が,多くの関係者の参加を得て,渦潮で知られるここ徳島県鳴門市において開催されることを,誠に喜ばしく思います。

我が国は周りを海に囲まれ,古くから豊かな海の恵みを享受してきました。しかし,戦後の著しい経済発展は,国民生活を豊かにするとともに,海に大きな影響を与えました。海は汚染され,各地で人工海岸が造成されて砂底は減少し,至る所で稚魚をはぐくんだ藻場が失われました。

こうした状況に対して,近年,そこに生息する生き物を豊かにするため海の環境を改善するよう様々な努力がなされるようになりました。栽培漁業を始めとする各種の漁業にとって,海の環境を良好に保つことは誠に重要なことであります。各地で魚付林が見直され,また川上にも植林が行われるようになりました。徳島県においても「アマモ場」の人工的な造成に取り組んでおり,藻場が海の生態系において極めて重要な役割を果たしていることから,大きな期待が寄せられます。

温暖な気候風土の下,播磨灘,紀伊水道,太平洋という変化に富んだ漁場環境と豊富な水産資源を背景として,多種多様な漁業が営まれてきた徳島県において行われるこの大会が,様々な人々が協力して豊かな海をつくる契機となることを願い,大会に寄せる言葉といたします。

教育委員会制度50周年記念式典
平成10年11月25日(水)(国立教育会館虎ノ門ホール)

教育委員会制度50周年に当たり,関係者と共にこの記念式典に臨むことを,誠に喜ばしく思います。

戦後の新たな教育制度を築き上げる一環として,教育委員会制度が創設されたのは,昭和23年のことでありました。その後50年にわたって,地域の実情に即した教育の充実のために,全国各地の教育委員会が地道な努力を重ね,大きな成果をあげてきたことに深く敬意を表します。

戦後,我が国の教育水準は,教育関係者の努力と国民の熱意に支えられて,着実に向上し,我が国の発展に寄与してきました。核家族化や少子化など,社会に大きな変化の見られる中で,将来を担う子供たちが,豊かな個性と他人に対する思いやりの心をもって育っていくために,教育の果たすべき役割はますます重要であります。各地域で教育行政の実施に携わる教育委員会の皆さんが,それぞれの地域における教育,文化,スポーツの更なる充実,発展に尽力し,住民の期待にこたえていかれることを願い,お祝いの言葉といたします。

戦傷病者特別援護法制定35周年並びに財団法人日本傷痍軍人会創立45周年記念式典
平成10年11月26日(木)(日本武道館)

本日,この記念式典において,全国から集まられた皆さんと一堂に会し,誠に感慨深いものがあります。

先の大戦において,国のために尽くし,戦火に傷つき,あるいは病に冒された戦傷病者の歩んできた苦難の道を思うとき,深い心の痛みを覚えます。皆さんが,戦中戦後の厳しい状況の下,不自由な身で,家族と共に幾多の困難を乗り越え,我が国の復興と発展に様々に貢献してきたことに対し,その労苦を心からねぎらいたく思います。戦傷病者の苦難が,決して忘れられることなく,これからも将来にわたって語り継がれていくことを切に願っています。また,戦傷病者と苦楽を共にし,援護のために,長年にわたりたゆみない努力を続けてきた関係者に対し,深く感謝の意を表します。

どうか皆さん一人一人が体を大切にし,共に励まし合い助け合って,今後とも元気に過ごされるよう念願いたします。

国賓 中華人民共和国主席閣下及び令夫人のための宮中晩餐
平成10年11月26日(木)(宮殿)

この度,中華人民共和国主席江沢民閣下が令夫人と共に,国賓として我が国を御訪問になりましたことに対し,心から歓迎の意を表します。6年前,日中国交正常化20周年に当たり,閣下には中国共産党総書記として我が国を御訪問になりましたが,日中平和友好条約締結20周年に当たる本年,閣下を貴国の主席としてお迎えすることを,誠に喜ばしく思います。

日中国交正常化20周年の年,故楊尚昆主席の御招待により,私は皇后と共に貴国を訪問し,故主席並びに閣下を始め,貴国政府の手厚いおもてなしを受けました。北京,西安,上海の3都市を訪れ,我が国と深い関係にある貴国の風土,歴史,文化に対する理解を深めることができたことをうれしく思っています。多くの貴国国民が私どもに示された友好の気持ちは忘れ難いものとして,今も懐かしく思い起こされます。

この度の閣下の御訪問では,様々な分野の人々とお会いになることと思いますが,その機会に充実した話し合いが行われ,相互の理解が深められることは,両国の友好関係の更なる発展に大きな意義をもつものと期待されます。貴国と我が国が今後とも互いに手を携えて,直面する課題の解決に力を尽くし,地球環境の改善と人類の福祉のため,そして世界の平和のため,貢献できる存在であり続けていくことを切に希望しております。

貴国は,この夏未曾有の洪水に見舞われ,多くの人命が失われました。閣下の御心痛の程が深く察せられます。閣下の御指導の下,貴国国民がこの苦難を克服し,一体となって復興に向かって努力していることに深く敬意を表します。

今回閣下には令夫人と共に初めて仙台と札幌を御訪問になると聞いております。仙台への御訪問は魯迅の作品「藤野先生」にゆかりのある地であることに関係すると聞き,45年前,私が成年に達して初めて出席した講書始の儀において,仁井田東京大学教授が魯迅の作品「藤野先生」と「阿Q正伝」を講じられたことを思い起こしました。冬の迫りつつある北方の2都市への御訪問が実り多いものとなることを,期待しております。

日中平和友好条約締結20周年に当たり,両国の末永い友好関係の発展を念願し,ここに主席閣下,並びに令夫人の御健勝と中華人民共和国国民の幸せを祈って杯を挙げたく思います。

第144回国会開会式
平成10年11月27日(金)(国会議事堂)

本日,第144回国会の開会式に臨み,全国民を代表する皆さんと一堂に会することは,私の大きな喜びであります。

ここに,国会が,国権の最高機関として,当面する諸問題を審議するに当たり,その使命を十分果たし,国民の信託にこたえることを切に希望します。

国賓 アルゼンチン大統領閣下のための宮中晩餐
平成10年12月2日(水)(宮殿)

この度,アルゼンチン共和国大統領メネム閣下が,国賓として,令嬢と共に我が国を御訪問になりましたことに対し,心から歓迎の意を表します。ここに,今夕を共に過ごしますことを誠に喜ばしく思います。

本年は,1898年,米国の首都ワシントンにおいて,貴国のマルティン・ガルシア・メロウ公使と我が国の星亨公使が,両国間の修好通商航海条約に署名してから100年になります。以来日亜両国の間には,年を追って友好の絆(きずな)がはぐくまれ,経済,文化を始めとする各分野での交流が深まり,実り多い関係が築き上げられました。今年は修好100周年を記念して両国で様々な事業が行われ,両国民の相互理解と友好関係の更なる増進に寄与することと期待しております。貴国における記念式典には,「日本アルゼンチン修好100周年記念祭」の名誉総裁として,秋篠宮が出席し,また,我が国における式典には大統領閣下が御臨席になり,両国において100周年を祝うことを大変喜ばしく思います。秋篠宮同妃が式典出席に当たって貴国を訪問した折,大統領閣下を始め,多くの人々から温かいおもてなしを受けたことを深く感謝しております。

私は,昨年6月,大統領閣下のお招きにより,皇后と共に貴国を訪問いたしました。その折,大統領閣下並びに令嬢から,心のこもったおもてなしをいただいたことに深く感謝しております。30年振りに訪れたブエノスアイレスは,昔と変わりなく,公園を所々に配した美しい街でありましたが,閣下の御努力の下,民主主義による政治と経済の安定を通して,貴国が未来に向かって,更に発展しようとしている様が感じられました。また,我が国からの移住者とその子孫が,貴国社会に受け入れられ,今日,日系の人々が様々な分野で貴国の社会に貢献していることを心強く思いました。

閣下の我が国への御訪問は,私の即位礼へのご参列以来,大統領として3回目の御訪問になります。秋色に彩られた今回の御訪問が,実り多いものとなることを願い,大統領閣下並びに令嬢の御健勝とアルゼンチン共和国国民の幸せを祈って,杯を挙げたく思います。

第14回国際生物学賞授賞式
平成10年12月7日(月)(日本学士院会館)

オットー・トーマス・ソルブリーグ博士が第14回国際生物学賞を受賞されたことを心からお祝いいたします。

今回の授賞分野は多様性の生物学でありますが,博士はこの分野の研究で優れた成果をあげられ,また,国際的な生物多様性研究計画の推進に指導的な役割を果たされました。このような博士の御研究や御活動が地球環境問題の理解に大きく寄与し,広く関連分野に影響を与えたことに対し,深く敬意を表します。

生命の長い歴史の中で,様々な種が生まれ,また滅んでいきましたが,人類が出現してからごく短期間の内に,人間の行為やその環境に及ぼした影響が,多数の種を絶滅へと導いてしまったことは悲しむべきことです。北の海でペンギンのような生態的地位を占めていた飛べないオオウミガラスも,空を埋め尽くして飛んでいたリョコウバトも,もう生きている姿を見ることはできません。45年前,大英自然史博物館で見た多数の絶滅鳥の標本は今も深く心に残っています。このような種の存続が脅かされている状況は今も各地で続いており,研究者に知られないまま滅びていく生物も決して少なくないことと思われます。

幸い近年このような問題に対する関心が世界的に高まってきました。特に生物の多様性に関する条約が発効したことは,世界の各地で生物の多様性を保つために協力する体制が作られたことを意味し,非常に心強いことであります。博士の御研究を基にして,人と自然とのかかわりをめぐる様々な課題への対策が講じられ,生物の多様性と地球環境の保全の上に立って,人類が豊かな社会を築いていくことを切に願っております。

ここに博士の御研究の一層の発展を祈り,お祝いの言葉といたします。

世界人権宣言50周年・人権擁護委員制度50周年記念式典
平成10年12月10日(木)(東京国際フォーラム)

国際連合が世界人権宣言を採択し,また,我が国において人権擁護委員制度が創設されて以来50年を記念して,本日この式典が開催されることを誠に喜ばしく思います。

世界人権宣言は,二度にわたる大戦の惨禍に対する深い反省の上に立ち,すべての人が平等に享有すべき権利と自由についての,「すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準」として採択され,世界の人々の基本的人権の擁護のために大きな役割を果たしてきました。

我が国においても,日本国憲法に基づき,世界人権宣言の精神にのっとって,すべての国民が基本的人権を享有し得るよう,政府と国民が一体となって努力を積み重ねてきましたが,中でも,人権擁護委員制度は,多くの委員の奉仕の精神に支えられ,我が国における人権の擁護と人権尊重思想の普及のために重要な貢献をしてきました。ここに,関係者の長年にわたる労苦に対し,深く敬意を表します。

日本国憲法は,憲法の保障する自由及び権利が,国民の不断の努力によって保持されなければならないことを規定しています。我が国においても,世界においても,この50年の間に,人権に関する意識の普及や人権の擁護について,着実に成果があげられてきましたが,なお解決すべき課題が残されています。同時に,すべての人の人権が尊重され,自由が保障されるという理想を実現させるためには,すべての人が,自らの権利と自由を行使するに当たって,他人の正当な権利と自由を尊重することが,極めて重要であります。

この記念式典を契機に,我が国及び世界のすべての人が人間としての尊厳を保ち得る,自由で平和な世界を実現するため,国民が,世界の人々と手を携えて,なお一層の努力を重ねていくことを願い,式典に寄せる言葉といたします。