主な式典におけるおことば(平成8年)

皇后陛下のおことば

平成8年全国赤十字大会
平成8年5月15日(水)(明治神宮会館)

本日,全国赤十字大会に出席し,日ごろ赤十字の活動に,おしみなく努力を払われている皆さまとお会いいたしますことを,大変うれしく思います。

赤十字は,国際的な強い(きずな)で結ばれ,人道的事業を通じ,広く世界の人々の福祉を増進し,平和な国際社会を築くために大きな力となっておりますが,日本赤十字社が,大勢の関係者の尽力のもと,日々その使命を果たしていることを,誠に心強く思います。

昨年の阪神・淡路大震災に顧みられますように,地震を始めとする自然の災害は,常に大きな脅威として存在し,また,世界の各地には,今も戦禍に苦しみ,助けを必要としている数多くの人々がおります。

これからも,皆さまが赤十字の尊い使命に深く思いを致され,一層力強い活動を,国の内外において進められるよう希望してやみません。

日本看護協会創立50周年記念式典
平成8年11月16日(土)(東京プリンスホテル)

日本看護協会創立50周年の記念式典に当たり,看護の道に携わる大勢の方々にお会いできますことを,大変うれしく思います。

日本看護協会は,戦後間もない昭和21年,保健婦,助産婦,看護婦の3団体が,一つに結ばれて発足いたしました。異なる発展の歴史を持つ団体の統合には,どれほど大きな苦労が伴ったことかと察せられますが,これにより,それぞれの組織に属する人々に,相互の仕事に対する広い視野が開かれ,また,相互の組織間の連携が深められたことは,その後の看護の場に,多くの恩恵をもたらしたことと想像されます。

この50年,世界の医療技術は,著しい発展を遂げました。人々の寿命は延び,健康に対する国民の関心も多様化し,看護に対する要求は,今日,量,質共にますます大きなものになってきております。

出生,病及び死に際し,また,人生の節々の段階に訪れる身心の変化に際し,人は何を経験し,どのような反応を示すのか,―看護の仕事には,人間体験への深い洞察と共に,人を不安や孤独に至らしめぬための,様々な心遣いが求められているように思われます。身心に痛みや傷を持つ人々,老齢により弱まった人々が,自分が置かれている状態を受け入れ,それを乗り越え,又は苦痛と共に一生を生き切ろうとするとき,医師の持つ優れた診断や医療技術と共に,患者に寄り添い,患者の中に潜む生きようとする力を引き出す看護者の力が,これまでどれだけ多くの人を支え,助けてきたことでしょう。看護の歴史は,こうした命への愛をはぐくみつつ,一人一人の看護者が,苦しむ他者に寄り添うべく,人知れず,自らの技術と,感性とを,磨き続けた歴史であったのではないかと考えております。時としては,医療がそのすべての効力を失った後も患者と共にあり,患者の生きる日々の体験を,意味あらしめる助けをする程の,重い使命を持つ仕事が看護職であり,当事者の強い自覚が求められる一方,社会における看護者の位置付けにも,それにふさわしい配慮が払われることが,切に望まれます。

創立50周年のよき日に当たり,これまで皆様方の払われた多くの努力に対し,心から感謝の意を表するとともに,これからも看護協会に属するすべての人々が,どうか健康な日々を送られ,職種間の連携をよく保ちながら,広く,深く,看護の領域を極められることを願い,本式典に寄せる言葉といたします。