主な式典におけるおことば(平成6年)

天皇陛下のおことば

第129回国会開会式
平成6年2月8日(火)(国会議事堂)

本日,第129回国会の開会式に臨み,全国民を代表する皆さんと一堂に会することは,私の大きな喜びであります。

ここに,国会が,当面する内外の諸課題に対処するに当たり,国民生活の安定と向上,国際社会の平和と繁栄のため,国権の最高機関として,その使命を十分果たし,国民の信託にこたえることを切に希望します。

国賓 大韓民国大統領閣下及び同令夫人のための宮中晩餐
平成6年3月24日(木)(宮殿)

このたび,金泳三大韓民国大統領閣下が令夫人とともに,国賓として,我が国を御訪問になりましたことに対し,私は心から歓迎の意を表します。御夫妻とその御一行をお迎えし,今夕を共に過ごしますことを,誠にうれしく思います。

貴国は我が国に最も近い隣国であり,人々の交流は,史書に明らかにされる以前のはるかな昔から行われておりました。そして,貴国の人々から様々な文物が我が国に伝えられ,私共の祖先は貴国の人々から多くのことを学びました。

このような両国の永く密接な交流のあいだには,我が国が朝鮮半島の人々に多大の苦難を与えた一時期がありました。私は先年,このことにつき私の深い悲しみの気持ちを表明いいたしましたが,今も変わらぬ気持ちを抱いております。戦後,我が国民は,過去の歴史に対する深い反省の上に立って,貴国国民との間にゆるがぬ信頼と友情を造り上げるべく努めて参りました。

近年,喜ばしいことに,両国の人々のたゆまぬ熱意と努力により,様々な分野で友好と協力の関係が進み,一昨年の伽耶文化展を始めとする「韓国文化通信使」の事業や昨年の大田市の国際博覧会など,両国国民を結ぶ絆は強くなってきております。あらゆる機会に,両国国民の相互理解が深まることを念願してやみません。

世界は,現在,大きな変化の波に遭遇しております。そうした中で,大統領閣下がかねてより述べていらっしゃるように,日韓両国は友好協力の関係をますます強め,手をたずさえて未来への道を切り開いていかなければなりません。「新韓国の創造」を推進し,日韓両国関係の強化に真摯に取り組んでいらっしゃる大統領閣下のこのたびの御来訪は,両国の将来にとって限りなく大きな意義を持つものと確信いたします。

このたびは短い御滞在ですが,我が国の春の風情をお楽しみになりますとともに,広く各界の人々とお接しになり,親しく我が国の実情を御見聞になって御訪日が実り多いものとなりますよう希望いたします。

ここに,日韓両国の友好関係の更なる発展を願いつつ,杯を挙げて,大統領閣下及び令夫人の御健康と御多幸,並びに大韓民国国民の幸せを祈りたいと思います。

1994年(第10回)日本国際賞授賞式
平成6年4月27日(水)(国立劇場)

この度の日本国際賞の授賞式に当たり,航空宇宙技術分野におけるピカリング博士並びに心理学・精神医学分野におけるカールソン博士の受賞を心からお祝いいたします。

ピカリング博士の御研究は,宇宙飛翔機及び深宇宙通信システムの先導的開発・推進に関するものであり,また,カールソン博士の御研究は,人間の脳におけるドパミンの神経伝達物質としての作用の発見と,精神・運動機能とその障害における役割の解明に関するものでありました。両博士の御研究は,様々な科学技術の発展や人類の健康に大きく貢献するものであり,ここに両博士に対し,深く敬意を表したいと思います。

今日,科学技術の進歩は誠に著しいものがあり,その人類社会に与える恩恵は計り知れないものがあります。しかし一方,科学技術がその運用によっては人類に不幸をももたらすものであることも深く認識されなければなりません。科学技術の進歩をいかに人類社会のために役立てるかということは今後一層重要な課題になっていくことと思われます。日本国際賞がこの意味において,科学技術の進歩に大きく寄与し,人類の平和と繁栄に著しく貢献した人々を顕彰する賞であることに深い意義を感じております。

日本国際賞は,今回第10回の授賞式を迎えました。かつての受賞者もお招きして開かれるこの第10回記念の授賞式を祝うに当たり,今は亡き松下,横田両会長を始め,日本国際賞のために尽くされた関係者の労苦に深く思いを致すのであります。

ここに一つの節目を迎えた日本国際賞が今後ますます発展し,科学技術の進歩に寄与することを願い,お祝いの言葉といたします。

第45回全国植樹祭
平成6年5月22日(日)(瀞川平(兵庫県))

瀞川平において開かれる第45回全国植樹祭に臨み,皆さんと共に植樹を行うことを誠に喜ばしく思います。

戦後,荒れ果てた国土の復興を目指して始められた全国植樹祭は,回を重ね,昨年,沖縄県の戦跡地,糸満市で行われた全国植樹祭で一巡いたしました。この度の植樹祭は,兵庫県で40年ぶりに行われる2回目の植樹祭になります。前回「せき悪林地改良」というテーマで行われた植樹は,今日,保健保安林として立派に育っていると聞いております。「森の緑で心の豊かさを」という今回の植樹祭のテーマには,戦後我が国が経てきた道のりと,緑化のために力を尽くしてきた先人の労苦が実ってきていることとを深く感じさせるものがあります。

近年,世界の各地で森林の減少が心配されております。我が国の森林も,この世界の状況を念頭に置き,広い視野に立って,守り育てていくことが大切と考えられます。

豊かな森林が造られるには長い年月がかかります。この植樹祭が,森林を育ててきた人々の苦労を思う機会となり,資源の供給はもとより,水源の涵養,災害の防止など,森林の持つ様々な意義に皆が思いを致し,自然を慈しむ心を育てる契機となるよう切に希望いたします。

第50回日本芸術院授賞式
平成6年5月30日(月)(日本芸術院会館)

本日,日本芸術院が,第50回の授賞式を迎えることを喜ばしく思います。

日本芸術院賞は,美術,文芸,芸能各界にわたり,芸術作品及び芸術の進歩に貢献する顕著な業績を認められた人々に贈られてきました。日本芸術院が,永きにわたり我が国の芸術文化の発展に貢献してきたことに対し,深く敬意を表します。また,この度受賞された人々の功績をたたえ,受賞をお祝いいたします。

我が国の芸術文化は,各時代にわたり,自己の表現を求めた人々によって生み出され,その芸術に理解と関心を寄せる人々によってはぐくまれてまいりました。芸術の創作や,その継承発展に携わる人々の日々の研鑽と修練は,誠に尊いものであり,こうした努力に支えられて,我が国が豊かな芸術の伝統を有することは,この上ない誇りであり,喜びであります。ここに,我が国の芸術文化が,過去に培われた実りを継承するとともに,進展する時代の鼓動の中で,常に新しく,力強いものとして発展していくことを切に望んでおります。

日本芸術院授賞式が第50回の節目を迎えるに当たり,日本芸術院が我が国の芸術活動を象徴する機関として,我が国の文化,さらに,世界の文化の発展に寄与するよう期待し,お祝いの言葉といたします。

全国重症心身障害児(者)を守る会創立30周年記念大会式典
平成6年6月5日(日)(明治神宮会館)

全国重症心身障害児(者)を守る会が創立30周年を迎え,その記念式典が催されることを,誠に喜ばしく思います。心身に重い障害を持つ子供たちも,一人の人間として生きることができるよう,その尊厳を守るために,「最も弱いものを一人ももれなく守る」という信念の下に発足した全国重症心身障害児(者)を守る会が,着実な発展をみせ,重い障害を持つ一人一人の「いのち」を守り,はぐくんでこられました。ここに,幾多の困難を乗り越えて,この会を今日まではぐくんでこられた関係者の努力に深く敬意を表したいと思います。

私は,幾度か重症心身障害児の施設を訪問する機会がありましたが,重い心身障害を持つ多くの人たちが障害にもめげずに懸命に生きる姿に接するとともに,施設の関係者の献身的努力に深い感銘を覚えます。重い心身障害を持つ人々の命の尊さが理解され,その人格が尊重され,重い心身障害を持つ人々が常に人々の視野の中に入る社会でありたいものと思います。

この機会に,創立30周年を迎えたこの会の活動に対する人々の関心が更に高まり,今後とも,多くの人々の理解と協力により,重い心身障害の人々の福祉が一層推進されることを願って,式典に寄せる言葉といたします。

社団法人 発明協会創立90周年記念式典並びに平成6年度全国発明表彰式
平成6年7月14日(木)(ホテルオークラ)

本日,発明協会創立90周年の記念式典に臨み,皆さんと一堂に会することを喜ばしく思います。

発明協会が永きにわたり,創造力の育成に心掛け,発明の奨励と実用化のために力を尽くして,我が国の科学技術の振興と産業の発展に寄与してきたことを深く多とするものであります。

人類社会は,今日,様々な問題に直面していますが,それらの問題を克服し,豊かな未来を築くためには,人々の創意工夫を発展させ,人類社会に役立てていくことがますます重要であります。

創立90周年の節目を迎え,協会関係者が一致協力して,今後とも努力を続けられることを願い,お祝いの言葉といたします。

第130回国会開会式
平成6年7月18日(月)(国会議事堂)

本日,第130回国会の開会式に臨み,全国民を代表する皆さんと一堂に会することは,私の大きな喜びであります。

ここに,国会が,当面する内外の諸課題を審議するに当たり,国権の最高機関として,その使命を十分果たし,国民の信託にこたえることを切に希望します。

全国戦没者追悼式
平成6年8月15日(月)(日本武道館)

本日,「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり,全国戦没者追悼式に臨み,さきの大戦において,かけがえのない命を失った数多くの人々やその遺族を思い,つきることのない悲しみを覚えます。

顧みれば,終戦以来すでに49年,今日,国民のたゆみない努力により築き上げられた平和と繁栄の中にあって,苦難にみちた往時をしのぶとき,深い感慨を禁じ得ません。

ここに全国民とともに,戦陣に散り,戦禍にたおれた人々に対し,心から追悼の意を表し,世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。

第131回国会開会式
平成6年9月30日(金)(国会議事堂)

本日,第131回国会の開会式に臨み,全国民を代表する皆さんと一堂に会することは,私の大きな喜びであります。

ここに,国会が,国権の最高機関として,当面する内外の諸課題に対処し,国民生活の安定と向上,世界の平和と繁栄のため,その使命を十分果たし,国民の信託にこたえることを切に希望します。

第12回アジア競技大会広島1994開会式
平成6年10月2日(日)(広島広域公園陸上競技場(広島県))

私は,ここに,広島において開催される第12回アジア競技大会の開会を宣言します。

第49回国民体育大会秋季大会開会式
平成6年10月29日(土)(名古屋市瑞穂公園陸上競技場(愛知県))

第49回国民体育大会秋季大会が愛知県で開催されるに当たり,全国から参加された選手,役員を始め,多くの県民と共に,開会式に臨むことを大変うれしく思います。

国民体育大会は,長年にわたり,我が国各地のスポーツの振興と普及に大きな役割を果してきました。大会関係者のたゆみない努力を深く多とするものであります。

ここに,出場する選手一人一人が今日までに鍛えた力と技を十分に生かして競技されると共に,選手相互の,また,県民との交流を深められることを念願いたします。

多くの県民の協力に支えられた「わかしゃち国体」が,長く心に残る実り多い大会となることを期待し,開会式に寄せる言葉といたします。

平安建都1200年記念式典
平成6年11月8日(火)(国立京都国際会館)

平安建都1200年記念式典が,関係者多数の参加を得てここに開催されることを,誠に喜ばしく思います。

京都は1200年前に,平安京として創建された都であり,父祖の地として,懐かしくしのばれるところであります。建都以来,京都は常に新しい文化を取り入れ,それを育み,伝統として伝えていくとともに,さらに,新しい文化を生み出していきました。戦乱などの災害が,京都を覆うこともありましたが,いくたびもそれを乗り越え,政治の中心として,あるいは文化の中心として,栄えてきました。首都が東京に移った後も,京都は,日本の古い伝統を維持し,しかも新しいものが生まれ育つ文化都市として,我が国の中に確かな立場を築きました。京都の学問における自由と新しさは,我が国ばかりでなく,世界の学問の発展に大きく寄与しています。

京都は三方を山で囲まれ,市内に社や寺々の森がここかしこにあり,人々の心にやすらぎを与える,緑豊かな都市でもあります。このような京都が,先の大戦において,戦災を免れたことは幸いなことでした。優れた文化は,一地域のものであるとともに,国民の宝であり,世界の人々の交流が深まる中で,これからさらに普遍的価値を評価されていくことでしょう。現代に生きる私どもにとり,過去に残された文化への理解を深め,文化遺産を守るとともに,当時の文化を生み出した人々の,生き生きとした精神を引き継いでいくことが,重要なことと思われます。

この記念の年に当たり,今日の京都を築く上に寄与した,多くの人々に思いを致すとともに,豊かな緑をもつこの地に,今後も古きものと新しきものとが共に栄え,世界の人々が集う,文化の香り高い都市として,京都がその独自の歩みを続けていくことを,心より願っております。

ここに建都1200年をことほぎ,京都の人々の幸せを願い,お祝いの言葉といたします。

第14回全国豊かな海づくり大会
平成6年11月20日(日)(山口県長門市)

第14回全国豊かな海づくり大会が,日本海に面するここ山口県長門市において,関係者多数の参加を得て開催されることを,誠に喜ばしく思います。

我が国は海に囲まれ,古くから海の恵みを受けてきました。人々が豊かな資源を海から得てきたばかりでなく,海は,航海を通して,国内の人や物の交流に資するとともに,外国の文物を我が国に伝えてきました。また海は人々の心に感動を与え,海にかかわる様々な文化が生み出されています。我が国の歴史を振り返るとき,海が果たした役割に,深く思いを致すものです。

近年,このようにして私どもの祖先が親しんできた海は,大きくその姿を変えつつあります。なぎさが少なくなり,海水は汚れてきました。しかし,今日,この海を昔のような豊かな海にしようと,多くの人々が力を尽くしていることを心強く感じています。川などの汚水の海への流入の防止を始めとして,人口なぎさの造成や沿岸の植林なども行われており,将来に明るい期待が持たれます。

山口県は,三方が海に開け,漁場に恵まれていますが,県の魚ふぐや,くるまえび,まだい,ひらめ等の栽培漁業にも力が注がれております。今後とも,海の良好な環境の下で栽培漁業が進められ,持続的な,豊かな水産業が営まれるよう望んでおります。

この大会が,人々の海を慈しむ心を育て,豊かな海づくりに協力し合う契機となることを願い,大会に寄せる言葉といたします。

第10回国際生物学賞授賞式
平成6年11月28日(月)(日本学士院会館)

エルンスト・マイア博士が第10回国際生物学賞を受賞されたことを心からお祝いいたします。

博士は,永年の御研究により,生物分類学において多大の業績を挙げられ,さらに,その業績を基礎として生物学の他の分野,すなわち生物地理学,進化学などの分野に多大の貢献をされました。特に,博士は,鳥類の分類学の研究を通じて分類学の基本的問題である種の概念について新しい考えを提唱し,種の分化理論を発展させるなど,生物学研究の動向に大きな影響を与えられました。30年近く前,私自身論文を書くに当たり,博士の種の考え方を参考にしたことが思い起こされ,この授賞式がお会いする機会となったことをうれしくうれしく思います。

昭和60年,エドレット・コーナー博士に第1回の国際生物学賞が授与されてから,ここに第10回の授賞式を迎えました。この機会に,御出席の第2回受賞者ピーター・レーブン博士を始めとして,生物学の発展に寄与された過去の受賞者の業績に思いを致すとともに,国際生物学賞に携わってこられた関係者の尽力に対し,深く敬意を表したく思います。誠に残念なことに,先ごろ,第4回受賞者の木村資生博士が亡くなられました。ここに深く哀悼の意を表します。

この節目に当たり,昭和天皇を記念して創設された国際生物学賞が,生物学の発展に今後一層寄与することを願い,お祝いの言葉といたします。

国賓 ポ-ランド大統領閣下及び同令夫人のための宮中晩餐
平成6年12月7日(水)(宮殿)

この度,ワレサ・ポ-ランド国大統領閣下が,令夫人とともに,国賓として,はるばる我が国を御訪問になりましたことに対し,心から歓迎の意を表します。お二方をお迎えし,今夕を共に過ごしますことを,誠にうれしく思います。

大統領閣下には,不屈の信念と対話の努力により,激動の時代に国民に希望を与え,閣下により指導された「連帯」の運動は,ポ-ランドに民主化をもたらしたのみでなく,中・東欧の変革へとつながりました。閣下並びに貴国民が,今日の世界に果たした役割は,誠に大きなものであったと思います。貴国の人々が過去の歴史の流れの中で,常に抱き続けていた自由と独立への思いを考え合わせ,深い感慨を覚えます。

14世紀に貴国の古都クラクフに大学がつくられ,貴国は欧州文化の一つの中心として栄えました。コペルニクスは,この豊かな文化的環境の中で育ち,地動説を提唱しました。コペルニクスの名とその地動説は,その後,200年を経て,当時,鎖国下にあった我が国に伝えられました。コペルニクスはもっとも早く我が国の人々に知られたポ-ランド人ではないかと思われます。

近世の貴国の歴史は,決して平坦なものではなく,誠に厳しい道のりを経て,今日を迎えています。その中にあっても,貴国国民の文化的活動は,故国を愛しつつ,盛んに行われておりました。貴国国民の心を常に支え続けたショパン,シエンキェ-ヴィチ等,幾多の人々の名が我が国民の記憶に刻まれています。また,キュ-リ-夫人の業績は,数多い伝記を通し,我が国の子供たちにも親しまれています。

先般,貴国の著名な映画監督アンジェイ・ワイダ氏を始めとする両国の関係者の協力により,クラクフに日本美術・技術センタ-が開館いたしました。同センタ-の開会式には大統領閣下の御臨席の下,我が国からは高円宮,同妃が出席して盛大に執り行われました。同センタ-の開館を契機に,両国の交流が一層進展することを心から希望いたします。また,我が国皇族の初めての貴国訪問にあたり,温かくもてなして下さいました大統領閣下並びに令夫人に,深く感謝の意を表したいと思います。

この度の御滞在は短期間ではありますが,政府や各界の多くの人々とお会いになり,親しく我が国の実情を御見聞になって,訪日が実り多く快適でありますよう願っております。

ここに杯を挙げて,大統領閣下並びに令夫人の御健勝と御多幸並びにポ-ランド国国民の幸せを祈ります。