主な式典におけるおことば(平成15年)

宮中晩餐における国賓のご答辞

大韓民国大統領閣下のご答辞(仮訳)
平成15年6月6日(金)

天皇,皇后両陛下と天皇家の皆様,
総理大臣閣下,並びにご来賓の皆様。

この度は盛大な晩餐会と,歓迎のお言葉をいただき,心から御礼申し上げます。こうした皆様方の歓迎を受け,まるで近所の方々の温かい人情に触れたようで,嬉しく存じます。

昔から韓国と日本は近い隣国でした。地理の面だけでなく,文化的にも,情緒的にも関係の深い隣国でありました。およそ1500年にわたる,われわれの祖先の交流と親善の歴史が,その関係の深さを如実に物語っています。

私は大韓民国初の「戦後世代」の大統領として,このように長い歴史を持つ両国の友好親善関係が今後も持続されるべきだと信じております。そう信じるからこそ,本日,このように日本を訪れました。

その可能性が十分にあることは,すでに昨年,確認されました。2002年は韓日関係史において記憶に残る,意義深い年でした。

ワールドカップ・サッカー大会の共同開催は史上初の試みでした。様々な憂慮の声がございました。しかし,私たちは力と知恵を集めて,アジア初のワールドカップ大会を立派に成し遂げました。全世界が惜しみない賛辞を送ってくれました。

大会期間中には,ソウルと東京の街中で,両国の若者たち,「レッド・デビル」と「ウルトラス・ニッポン」が一緒に肩を並べて,互いを応援するという,かつてない光景が見られました。誰かが命令してそうなったわけではありません。心と心が一つに結ばれた,非常に美しい光景でした。

また,両国の各地方では,「韓日国民交流の年」を記念する大小約100のイベントが行われました。ここでも若い世代が先頭に立っていました。互いに心を開いて対話を交わし,理解と友情を培っていました。

私はこうした光景を目にしながら,韓日両国の未来について大きな希望を感じました。特に,若者たちの交流と共感は,われわれ両国が築いていく明日のために,何よりも貴重な資産になったと思っています。

今も両国国民の胸の中には,昨年の熱く沸き上がった情熱が生き生きと燃えています。その情熱,その感動を,韓日共同の未来を切り拓くためのエネルギーに昇華させねばなりません。そうすることで,名実ともに世界の模範となる「韓日パートナーシップ時代」を開いていくことができます。

私はこれこそ,この時代を生きる両国の指導者が当然担っていかなければならない,歴史的な使命だと確信しております。

私たちは今や,われわれの子孫が築いて行く未来について,さらに深く考えていかなければなりません。ひいては,北東アジア全体の平和と繁栄に向けて,心を開いて協力していくべきだと考えております。

韓国と日本は,アジアでもっとも進んだ民主主義の伝統と市場経済の経験を共有しています。未来は韓日両国に,先導的で積極的な役割を期待しています。

韓国と日本は,21世紀の平和と繁栄の北東アジア時代が花開くよう,力と意志を合わせていかなければなりません。

私は,われわれ両国がそれこそ「近くて近い国」,お互いに尊重し合う隣国となるよう,最善を尽くしていく考えであります。両国の指導者皆様の積極的なご協力をお願い申し上げます。

ご臨席の貴賓の皆様。

天皇・皇后両陛下のご健康と,韓日両国の友好協力関係の永遠なる発展,そしてわれわれ両国が共に築いて行く「北東アジアの明るい未来」のために,ご一緒に祝杯を上げてくださいますようお願い致します。

乾杯!

有難うございました。

Unofficial Translation 大韓民国政府作成

インドネシア共和国大統領閣下のご答辞(仮訳)
平成15年6月23日(月)

天皇陛下
皇后陛下
及びご出席の皆様

先ず始めに,我々一行が訪日以来頂いているご高配に対し衷心より感謝の意を表したいと存じます。更に今宵は,天皇皇后両陛下におきましては,わざわざ大変貴重なお時間を割いてくださり,このような素晴らしい晩餐会を開いてくださったことは,わが国民の全てにとって大変光栄なことであると思っております。

先ほどの天皇陛下のお話を有難く拝聴致しまして,過去,現在,そして未来における御国とわが国の関係について改めて考えさせられました。私も,両国の関係における時間的展望に,より一層の関心を払うべきであるという趣旨の,陛下のご意見にご賛同申し上げます。

第二次大戦終焉間近のわが国独立の過程における御国の軌跡と役割の存在については,歴史上非常に明白なところであります。そういった事実は,未だにわが国の営みにも現れております。これまでの全ての経験を活かしていくのはなかなか容易なことではございませんが,このような両国の関係は,日常の中だけでなく,本質的なところでも常に存在しているのであると思います。

私自身,そのような関係を保っていくことの難しさを実感しておりますが,我々の先代たちが両国間の良好な関係の構築において,暫時的な利益性以上のものを目指して行なった試行錯誤に思いが馳せられます。歴代の御国の総理大臣が,両国の良好な関係構築に寄与する様々な方針を定められ,その中でもインドネシア語の「ダリ・ハティ・ク・ハティ(心から心へ)」を標語にした故福田元総理のものは印象深いものの内の一つであります。このような関係の構築において,わが国の持つ伝統やその他の要素を活かしながら,わが国も嘘偽りのない純真な心で邁進していきたい所存であります。

それゆえ,私は,これまでの様々な国への公式訪問で,相互利益の観点からの協力推進以上に,友好関係を優先して参りました。このような友好関係を基礎にしてだけのみ,我々は堅固かつ利益的な協力体制を構築でき,またわが国はこのような特長を持った関係を理想としております。各国がそれぞれの国益だけを重視し,利益が得られなくなると疎遠になるような関係ではありません。

わが国は,このような特徴の異民族間の関係が,規律的で平和的な国際秩序をもたらすと信じております。このことは,わが国の建国者達も独立時の理想の一つに掲げており,わが国民に対する信託として現在まで実現への積極的な努力が行われています。

こうした友好関係と協力体制を通して,わが国は発展を目指しているのです。日本民族同様,わが民族も,独自のアイデンティティー,個性,そして気質を保ちながら,強固で,発展し,そして独立した民族として成長していきたいとの理想を持っております。

勿論,こういった理想現実への道程は長く厳しいものですが,昭和天皇と共に陛下も,如何に一つの民族の暮らしを,物理的な生活だけでなく自尊心と言った精神面までも完全に立て直すことが困難であるかと言うことを実見なさったのではないでしょうか。異なっているのはただ,初代大統領であり私の父でもあるスカルノがわが国の復興に着手したときは,本当にゼロの状態であったため,長い過程と忍耐を要したことです。

多くの外的そして内的要因がわが国の発展を左右してきました。未だ,わが国は経済復興の過程にあります。加えて,わが国では国民生活刷新のために解決しなければならない複雑な課題が山積みになっています。民族的価値と好ましい統治の水準に加え真の人道主義的な要因を基礎にしてだけ国家の復興が可能になるということに,苦い経験によってのみ気付かせられることも多いのです。

そういったすべての事柄を踏まえ,わが国は過去におけるわが国の至らない点,認識違い,そして誤りを犯した経験を活かしていきたいと思っております。しかしながら,現在我々にとって,過去に起きた問題を蒸し返すことよりも更に重要なのは,未来に目を向けることです。これは内政に限ったことではなく,わが国の外交においてもこの姿勢を貫いていく所存です。

現在の変化の早い開けた時代においては,新しい価値が次々と生まれ,互いの長所で互いの短所を補い合うことが,これからの御国とわが国の良好な関係構築において特に重要であります。陛下と同様,私も両国の関係は独自の伝統を基礎におき,それが短期的な利益の上だけに成り立っていないことを認識しております。政治の場で時に誇張されて表現される「アジア精神」以上の,価値,精神的繋がり,そして非物質的な何かがそこには存在しております。こういった特長が,この激動の時代において両国の安定性をもたらしている所以でございましょう。

最後に,皆さんに暫しの間,起立して頂くことを陛下に許して頂き,共にグラスを掲げ,御国のご発展とわが国との恒久的な友好関係のためにも,両陛下のご健勝をお祈りさせて頂きたいと思います。

ご静聴有難うございました。

平成15年6月23日 東京にて

インドネシア共和国大統領
メガワティ・スカルノプトゥリ

Unofficial Translation 在日インドネシア共和国大使館作成

メキシコ大統領閣下のご答辞(仮訳)
平成15年10月15日(水)

天皇皇后両陛下
ご皇族の皆様
内閣総理大臣ならびにご臨席の皆様

両陛下,日本の国民および政府に対しまして,今回の歓迎に示されたご厚遇に御礼を申し上げます。かかるご厚遇は,メキシコと日本,両国民間に培われた敬意と友愛にさらなる輝きを添えるものであります。

偉大なる両国は太い絆で結ばれております。相互の敬意をいしずえとする深い友情と長い歴史がかかる絆をはぐくみました。およそ400年前になされた太平洋横断の航海は日本にとってほぼ初めてのものであり,めざした港はメキシコのアカプルコでした。支倉常長と随行の武士,商人など約140名は1614年に到着し,メキシコ国内各地にその足跡を刻んだのみならず,内数名は子孫を残しました。それがメキシコ日系人社会の起源でありましょう。

明治時代の1888年,メキシコと日本は修好通商条約を締結いたしました。その条文を介して,法のもとに平等な主権国家である旨を相互に承認いたしました。両国間の友情は,共有される数多くの価値観でも説明されます。ともに数千年の歴史を有する国家であり,輝ける過去を誇り,伝統が継承された上に近代化が訪れることを確信する国家であります。メキシコの生命力あふれる様々な文明は普遍的思想や発展に大きな貢献を果たし,異なる諸文明との交流が豊饒の度を高めることとなりました。

メキシコと日本は,文化は脈打ち,交流の中で成長するものだと知っております。それゆえに,地理的な遠さが両国の交流を妨げたことはありません。両国が共有する価値観と目標や利害は,今日の二国間関係をとりまく素晴らしい政治環境に反映されております。

日本は,メキシコにとって,アジア地域で第一位の,そして,世界全体では第二位の貿易パートナーであります。両国の政治対話は,二国間にとどまらず,国際機関の舞台でも,活発におこなわれております。国家主権の尊重と国際法の遵守を原則に掲げ,各国間の調和ある共生をもたらす新たな国際社会を構築する上で,両国はめざましい役割を果たしております。平和と開発を目的とする国際環境の創造をめざし,メキシコと日本が共同作業に励む姿は,ご同慶のいたりであります。

今回の来日に際し,両国の関係はさらなる緊密化が可能であると確信して参りました。経済の分野では,潜在する補完関係,生産スキーム,市場の戦略的ロケーションなどを最大限に活用せねばなりません。

日本にとって,我が国が世界と結んだ広範な貿易ネットワークはきわめて魅力的だと信じます。メキシコにとって,日本の産業と技術開発への接近を強めることはきわめて重要であります。これらの点が,EPA(経済連携協定)交渉で指針とされている目標であります。同協定は比類無き経済同盟の創設を可能にするものであり,貿易と投資の流れを著しく拡大し,両国民に益する二国間協力の強化をもたらすものでありましょう。

メキシコと日本は,未来を展望する中で,教育・文化・科学技術などの分野において,新たな共同イニシアティブを立案できると確信しております。さらには,両国の共同作業と創造性の模範ともいうべき第三国向け協力スキームの拡大強化も可能であります。

両陛下

紳士淑女の皆様

今日のメキシコは確立された民主国家であります。プルラリズム(複数政党主義),人権や自由の尊重,法治国家体制などの原則にもとづく政治制度をもつ国であり,日本もこれらの諸原則を共有しております。自国の社会がこれらの制度を強化すると同時に多大な変革のプロセスにあることを誇りに思う次第です。我が政権はこうした変革の産物であります。国民の所得,財産,生産能力の強化,さらには生活水準の向上を達成する公約を果たします。

交流の拡大が関係強化をもたらすとの信念にもとづき,日本をはじめとする友好国への接近をさらに強める方針の意味はここにあります。両国間の関係強化は,メキシコと日本の社会が,相互に益する形で,各自の潜在力を開発する新たな時代をもたらすものと確信しております。

両陛下におかれましては,およそ40年前,皇太子殿下ご夫妻としてメキシコをご訪問いただきました。そのご訪問をしめくくる陛下のお言葉には,「両国を結ぶ文化・通商・経済支援の関係が友好の絆を今後さらに強めることを切に希望します。」とありました。それは実現しました。それゆえ,両陛下には是非ともメキシコをご訪問いただきたく,ここにお招き申し上げる次第であります。お迎えできますれば誠に光栄に存じます。

メキシコの名におきまして,数世紀に及ぶ友好関係に思いを馳せ,ここに杯を挙げて,両陛下のご健勝とご多幸,さらには日本国民のご繁栄,メキシコと日本の関係における新たな実り多き時代の始まりを祈念いたします。

ありがとうございました。

Unofficial Translation メキシコ合衆国政府作成