天皇陛下お誕生日に際し(平成18年)

天皇陛下の記者会見

会見年月日:平成18年12月20日

会見場所:宮殿 石橋の間

記者会見をなさる天皇陛下
記者会見をなさる天皇陛下
(写真:宮内庁)

宮内記者会代表質問

問1 秋篠宮ご夫妻に,皇室にとって41年ぶりの親王となる悠仁様が誕生されました。紀子様のご懐妊を聞かれたときの陛下のお気持ちは,どのようなものだったでしょうか。また出産までの10か月間,紀子様をどのような思いで見守られたでしょうか。悠仁様と初めて対面されましたときのお気持ちや参内された際のご様子,男のお孫様としての教育のあり方についても,あわせてお聞かせください。
天皇陛下

十分にお答えができないといけないと思いますので,書いてきたものを読みながらお答えしたいと思います。

懐妊の兆候があることは聞いていましたが,安心な状況というばかりの話ではなかったので,検査の結果順調に懐妊しているということを宮殿で侍従長から聞いた時には本当にうれしく感じました。その後,秋篠宮妃には,つわりや大出血の可能性のある前置胎盤の症状が生じましたが,それを乗り越え,無事悠仁を出産することができました。秋篠宮妃には喜びと共に心配や苦労の多い日々であったと思います。予定日より早い帝王切開での出産でしたが,初めて会った時には立派な新生児だと感じました。出産に携わった関係者の尽力に深く感謝しています。また,大勢の人々が悠仁の誕生を祝ってくれたことも心に残ることでした。悠仁の生まれたとき滞在していた北海道を始め,その後訪れた各地の道々で,多くの人々が笑顔でお祝いの言葉を述べてくれました。

最近の悠仁の様子として目に浮かぶのは,私の近くでじっとこちらを見つめているときの顔です。

教育の在り方についての質問ですが,今は秋篠宮,同妃,眞子,佳子の2人の姉に愛情深く育てられていくことが大切だと思います。15歳になった眞子は,今年1年非常に頼もしく成長したように感じています。きっと眞子,佳子が悠仁の良き姉として,両親を助けていくことと思います。

問2 二つ目の質問をさせていただきます。皇太子ご一家はこの夏,雅子様のご療養を兼ねてオランダを訪問されました。陛下は海外でのご静養についてどのようにお考えでしょうか。また,その後の雅子様のご回復の様子や,幼稚園生活を始められた愛子様のご成長など,皇太子ご一家へ寄せられる思いも,あわせてお聞かせください。
天皇陛下

この度のオランダでの静養については,医師団がそれを評価しており,皇太子夫妻も喜んでいたので,良かったと思っています。皇太子一家を丁重におもてなしいただいたベアトリックス女王陛下並びにウィレム・アレクサンダー皇太子,同妃両殿下に対し,深く感謝しています。

最近の愛子の様子については,皇太子妃の誕生日の夕食後,愛子が皇后と秋篠宮妃と相撲の双六(すごろく)で遊びましたが,とても楽しそうで生き生きとしていたことが印象に残っています。ただ残念なことは,愛子は幼稚園生活を始めたばかりで,風邪を引くことも多く,私どもと会う機会が少ないことです。いずれは会う機会も増えて,うち解けて話をするようになることを楽しみにしています。

皇太子妃の健康の速やかな回復を念じていますが,身近に接している皇太子の話から良い方向に向かっていると聞き,喜んでいます。健康を第一に考えて生活していくことを願っています。

問3 今年は,いじめや自殺,虐待など,子供たちをとりまく環境の厳しさがクローズアップされ,夏には故富田朝彦・元宮内庁長官が残した昭和天皇の発言に関するメモが明らかになり,靖国神社をめぐって様々な議論が起きた年でした。子供たちを取り巻く環境についてと,戦没者追悼について,どのようにお考えかお聞かせください。
天皇陛下

今年は子供のいじめや自殺,虐待など悲しい事件に多く接した年でした。子供を失った親の気持ち,いじめにあった子供の気持ちを察すると誠に心が痛みます。

このようなことをできうる限り防ぐために,親,子,先生が互いに信頼し合う関係を築いていくことが大切であり,子供たちが自分の立場と共に他人の立場にも立って,物事を考える習慣を身につけて育つように,親や先生が助けていくことが重要と思います。近年,生徒が高齢者や障害者との交流やボランティア活動に取り組み,様々な立場の人々に対する理解を深める機会を作っている学校が多くなっていることは心強いことです。私はこういう面に今日の教育の明るい兆しを感じています。

戦没者の追悼は極めて大切なことと考えています。先の大戦では310万人の日本人が亡くなりましたが,毎年8月15日にはこれらの戦陣に散り,戦禍に倒れた人々のことに思いを致し,全国戦没者追悼式に臨んでいます。戦闘に携わった人々も,戦闘に携わらなかった人々も,国や国民のことを思い,力を尽くして戦い,あるいは働き,亡くなった人々であり,今日の日本がその人々の犠牲の上に築かれていることを決して忘れてはならないと思います。

私どもは今までに,軍人と民間人合わせて18万6千人以上の人々が亡くなった沖縄県や,2万2千人近くの軍人が亡くなった硫黄島,そして昨年の戦後60年に当たっては,軍人と民間人合わせて約5万5千人の人々が亡くなったサイパン島を追悼の気持ちを込めて訪れました。救援の手が及ばない孤立した状態で,食糧や水も欠乏し,死者や負傷者の続出する中で,特に硫黄島では地熱に悩まされつつ,敵の攻撃に耐えて戦ってきた人々の気持ちはいかばかりであったか,言葉に言い表せないものを感じています。また原子爆弾を受けた広島市と長崎市は,熱風と放射能により,広島市ではその年のうちに約14万人,長崎市では約7万人が亡くなりました。生き残った人々も後遺症に悩み,また受けた放射能により,いつ病に襲われるか分からない不安を抱いて過ごさねばなりませんでした。

戦後に生まれた人々が年々多くなってくる今日,戦没者を追悼することは自分たちの生まれる前の世代の人々がいかなる世界,社会に生きてきたかを理解することになり,世界や日本の過去の歴史を顧みる一つの機会となることと思います。過去のような戦争の惨禍が二度と起こらないよう,戦争や戦没者のことが,戦争を直接知らない世代の人々に正しく伝えられていくことを心から願っています。

関連質問

問 3問目の戦没者追悼についてのお話しに関連しまして,追悼の気持ちあるいは追悼の形について昭和天皇とお話し合いになったことで何か印象に残っていること,あるいは昭和天皇から伝えられたことといいますか,そのようなご記憶にありましたらお聞かせいただければ幸いです。
天皇陛下

追悼のことについては伺ったことはありません。

天皇陛下のお誕生日に際してのご近影

この1年のご動静

陛下はこの1年も,宮殿において,ほぼ毎週2回国事行為にかかわるご執務を行われ,内閣よりの上奏書類等にご署名やご押印をなさった数は1052件に上りました。その外,宮殿では,恒例の講書始の儀及び歌会始の儀にご臨席になり,親任式(内閣総理大臣及び最高裁判所長官),認証官任命式(96名),信任状捧呈式(30名),勲章親授式,さらに,勲章・褒章受章者,医療功労者,矯正職員,優良公民館代表,自衛隊統合幕僚幹部などの拝謁,内閣,最高裁判所・高等裁判所長官,検事総長・検事長,知事等との午餐,文化勲章受章者及び文化功労者,第20回オリンピック冬季競技大会入賞選手及びトリノパラリンピック冬季競技大会入賞選手等とのお茶,国際緊急援助隊員,国際平和協力隊員,テロ対策特措法及びイラク人道復興支援特措法に基づき派遣された自衛隊員並びに在サマーワ外務省連絡事務所職員,日本青年海外派遣団員,人事院総裁賞受賞者のご接見などを含む多くの行事に臨まれたほか,日本銀行総裁,各省庁事務次官等のご進講をお受けになりました。

外国との関係では,11月にインドネシア大統領夫妻を国賓として宮殿にお迎えになり,歓迎式典に臨まれ,宮中晩餐を催されました。今回,迎賓館が改修工事のため,歓迎式典が初めて宮殿にて行われました。また,第4回日本・太平洋諸島フォーラム首脳会議に出席する15か国の首脳及び代表夫妻等を茶会に,公式実務訪問で来日したマラウイ大統領,サウジアラビア皇太子殿下,カメルーン大統領夫妻,エルサルバドル大統領夫妻を午餐に,またアゼルバイジャン大統領夫妻始め外国の元首,三権の長さらに国際連合事務総長等の賓客を宮殿にてご接遇になりました。その外,新任の外国大使夫妻をお茶に,日本滞在が3年を超える外国大使夫妻を午餐にお招きになり,離任する外国大使夫妻をご引見になっています。

御所では,恒例の日本学士院会員,日本芸術院会員,青年海外協力隊帰国隊員・日系社会青年ボランティア帰国隊員,シニア海外ボランティア・日系社会シニア・ボランティア,国際交流基金賞及び同奨励賞受賞者等とのご懇談やご接見がありました。また,内閣総理大臣,最高裁判所長官の交代に当たり,それぞれを夫妻でご夕餐にお招きになりました。5月には,2006年FIFAワールドカップ・ドイツ大会出場に当たり,日本サッカー協会キャプテン等を御所にてご接見になったほか,ヨルダン国王アブドッラー王妃両陛下,タイ王女シリントン殿下始め外国王族の方々をおもてなしになりました。さらに,外務省総合外交政策局長によるご進講を始め各種行事に関する事前のご説明等をお受けになりました。

都内では,国会開会式,全国戦没者追悼式を始め,日本国際賞及び国際生物学賞の授賞式,国連加盟50周年記念式典等にご臨席になり,お言葉をお述べになったほか,日本芸術院賞,日本学士院賞の授賞式にもご臨席になりました。

また,東京大学大学院理学系研究科附属植物園(小石川植物園),国営昭和記念公園及び昭和天皇記念館,再興第91回日本美術院展覧会及び第91回二科美術展覧会へのお出まし,毎年行われている企業ご視察など,都内行事等へのお出ましがありました。

こどもの日,敬老の日,障害者週間に当たっては,例年のとおり,それぞれの関係施設をご訪問になり,入所者及び関係者をお励ましになりました。

両陛下は,本年3月,三宅島噴火災害による全島避難から帰島後1年を迎えた島内状況ご視察のため,ヘリコプターで三宅島をご訪問になりました。現地では,阿古漁港,高齢者在宅サービス支援センターをご訪問になり,村役場にて復興尽力者をねぎらわれ,住民とご懇談になりました。

地方行幸啓は,1道8県にわたり,この1年間でご訪問になった市町村は14市10町1村でした。天皇陛下は,第57回全国植樹祭(岐阜県),本年より夏季及び秋季大会を統合して開催されることになった第61回国民体育大会(兵庫県),第26回全国豊かな海づくり大会(佐賀県),札幌市において開催された第16回国際顕微鏡学会議記念式典にご臨席になり,お言葉をお述べになったほか,レセプション等にご出席になりました。その機会に,北海道においては,長年心に掛けてこられたえりも岬植林地緑化事業など地方の事情をご視察になったほか,各地で福祉施設,文化施設などをご訪問になりました。また,10月には埼玉県和光市の独立行政法人理化学研究所をご視察になりました。

天皇陛下は本年6月,皇后陛下とご一緒にシンガポール,タイをご訪問になり,その際マレーシアにお立ち寄りになりました。

本年は我が国とシンガポールの外交関係樹立40周年の年に当たり,両陛下は国賓として各種の公式行事にご出席になり,現地の人々との交流にお努めになりました。

タイでは,国王陛下御即位60年慶祝儀式を始め多くの行事に臨まれ,タイを始め各国王族とのご親交を深められました。両陛下の真摯(しんし)なお人柄に触れ,タイ国民が深い感銘を受けたことを現地の新聞が報道しています。

マレーシアでは平成3年にご訪問の折,山林火災による悪天候のため中止をやむなくされたペラ州をほとんど当時のご日程どおりに訪問され,当時国王陛下であられたアズラン・シャー・ペラ州スルタン殿下を始め現地の人々の歓迎をお受けになりました。またクアラルンプールでは,昨年3月に国賓として訪日されたサイド・シラジュディン国王王妃両陛下とご会食になりました。

天皇陛下は例年のとおり,生物学研究所の田で種籾(たねもみ)のお手まき,お田植え,お手刈りをなさいました。新嘗祭には,お手刈りになった水稲の一部を別途お育てになった粟と共にお供えになり,神嘗祭に際しては,お手植えになった根付きの稲を神宮にお供えになりました。

宮中祭祀は,恒例の祭典のほか,桓武天皇1200年式年祭など祭祀35回にお出ましになりました。また本年は大正天皇崩御80年の年に当たり,多摩陵,多摩東陵をご参拝になりました。

本年の勤労奉仕団,賢所勤労奉仕団,献穀者ご会釈は58回ありました。

9月6日,天皇陛下は皇后陛下とご一緒に北海道行幸啓のところ,秋篠宮家に親王殿下がご誕生になりました。両陛下は,皇孫殿下のご誕生をお喜びになり,北海道よりお帰りの翌日,病院に秋篠宮妃殿下をお見舞いになり,新宮様とご対面になりました。11月14日には,悠仁親王殿下が初御参内になりました。

11月11日,愛子内親王殿下の着袴の儀が行われ,両陛下はご挨拶をお受けになったほか,東宮御所での祝宴にご出席になりました。

陛下は,お忙しいご公務の合間にハゼのご研究をお続けになっておられます。本年は,5月に横須賀市で開かれたGORI(ハゼ類の地方名)研究会年会に21年振りに,また,10月には,静岡市で開かれた日本魚類学会年会に6年振りにご出席になりました。

両陛下は4月,皇居内生物の追加調査結果について,国立科学博物館関係者等から報告をお受けになりました。これは,皇居の自然に関して,西暦2000年(平成12年)における皇居内の生物について正確な記録を残し,その後の経年変化などを把握することが望ましいと願われた天皇陛下のお気持ちが発端となり,西暦1996年(平成8年)より,100名を超える人が携わって国立科学博物館による詳細な生物調査が実施され,西暦2000年(平成12年)12月にその調査結果が発表されており,又動物についてはその後も追跡調査が行われ,西暦2006年(平成18年)3月に更にその後の5年間の追跡調査結果がまとめられたものです。西暦2007年(平成19年)から新たに「みどりの月間」が設けられることとなった機会に,こうした成果を国民と分かち合いたいという両陛下のお考えを踏まえ,この度この皇居吹上御苑において自然観察会が開催されることになりました。

天皇陛下は,前立腺摘出手術後,引き続きホルモン療法を受けておられますが,ご健康維持のため,早朝にはご散策をされ,御所と宮殿との往復はなるべくご徒歩でなさり,ご公務のない週末や休日にはテニスなどのご運動に努めていらっしゃいます。

天皇陛下は12月23日,73歳のお誕生日をお迎えになります。