皇后陛下お誕生日に際し(平成8年)

宮内記者会の質問に対する文書ご回答

問1
(イ) この一年を振り返って,うれしかったこと,また悲しかったことなど印象深かった出来事は何でしょうか。
(ロ) また,これからの一年をどのようにお過ごしになりたいかお聞かせください。
皇后陛下

(イ) 北海道のトンネル事故,血液製剤の問題,O157等,生活の安全性につき案じられることの多い一年でした。うれしいニュースは,雲仙の火山活動の停止が宣言されたことと,阪神の高速道路が復旧したこと。大災害の復興期に力尽きそうになる人々が,どうか,地域やボランティアの連帯の中で支えられていくよう願っています。

オリンピックの女子マラソンは素晴らしい試合でした。競技を終えた有森選手,ロバ選手に,それぞれのお母様が語りかけられた「よく帰ってきたね」「強くて美しい子」という言葉が,深く印象に残りました。

(ロ) これからの一年も,今までと変わりなく,人々のしあわせを願いつつ過ごしていきたいと思います。

問2
(イ) 紀宮さまは,昨年のブラジルに続き,今年はブルガリア,チェコを公式訪問されるなど,国内外で幅広く活動されています。このような紀宮さまの活躍ぶりをどのようにご覧になっているのでしょうか。
(ロ) 紀宮さまは,先日の東欧訪問にあたっての会見で「内親王である期間を実り多いものにしたい」と述べられました。皇后さまは,紀宮さまの将来についてどのような期待を寄せられているのかあわせてお聞かせ下さい。
皇后陛下

(イ) 昨年は戦後50年ということで陛下が,又,今年は大震災の翌年ということで陛下と東宮様が,共に外国の訪問をお控えになり,紀宮も,他の宮様方とご一緒に海外での大切なお役目を頂きました。この一両年,この海外での役目と国内での仕事を,紀宮が精一杯に果たしたことを嬉しく思っております。

(ロ) 昭和52年の記者会見で,紀宮の将来についての質問を受け,内親王として充実した生活を送り,社会に巣立つようにとの願いをお話いたしました。今もこの気持ちに変わりはありません。紀宮は私共の家庭にたくさんの喜びをもたらしてくれました。紀宮の将来がしあわせであるよう心から祈っています。

問3
昨年,今年と二年続けて,両陛下の外国訪問がなかったため,皇后さまが記者会見の場で肉声で語られることがないという残念なこととなりました。今回の会見以降,皇后さまの肉声を聞く機会がない状態が続くことも考えられます。立ち返って考えてみますと,皇后さまは,これまでお誕生日のご会見をされてきていませんでしたが,これはなぜでしょうか,今後もこのような機会を設けていただくわけにはいかないのでしょうか。
皇后陛下

先に触れましたように,昨年と今年は特別の状況下で外国訪問をいたしませんでした。来年はすでにブラジル訪問の予定が立てられており,その折には必ず会見をいたします。

問4
英国の報道機関の調査では,次代も王制の存続を求める国民は半数に満たなかったとのことです。そうした状況を受け,英国王室は王族範囲の縮小や王室費の削減などの抜本的改革を検討していると伝えられています。もちろん,英国には英国の歴史的背景や事情などがあり,日本の皇室と安易に比較はできませんが,日本でも若い世代を中心に皇室への無関心層が増えているように思います。皇后さまは,今後,皇室と国民の絆を強めるためにどのような努力が必要だとお考えでしょうか。
皇后陛下

常に国民の関心の対象となっているというよりも,国の大切な折々にこの国に皇室があって良かった,と,国民が心から安堵し喜ぶことの出来る皇室でありたいと思っています。

国民の関心の有無ということも,決して無視してはならないことと思いますが,皇室としての努力は,自分たちの日々の在り方や仕事により,国民に信頼される皇室の維持のために払われねばならないと考えます。

問5
皇太子さま,秋篠宮さまも年々ご公務が増え,それに伴う責任も増しつつあるように拝見します。また,今年は秋篠宮家の長女,眞子さまが学習院幼稚園に入園されました。お子さまや眞子さま,佳子さまの活躍ぶりや成長ぶりについて,皇后さまはどのようにご覧になっているのかお聞かせください。
皇后陛下

子供たちには,それぞれの立場と年令に応じ,又,一人一人がもっている特性を生かし,なすべき務めを果たしていってほしいと願います。子供たち,又,その配偶の人たちが,皆一生懸命に陛下や私を助けようとしてくれていることを,いつも嬉しく思っています。幼い人たちも,両親や周りの人々に温かく見守られ,健やかに育っており,有難いことと思います。

問6
(イ) 天皇陛下と皇后さまは,ご一緒にテニスや卓球などの運動をされ,健康維持に努めているように拝見しますが,そのほか,健康管理の面で何か行っていることがあればお聞かせください。
(ロ) また,今年6月,天皇陛下が前庭神経炎によるめまいのため,公務を変更してしばらくの間ご静養されました。そのご病気以降,陛下の健康面で皇后さまが何か配慮されていることがあればお聞かせください。
皇后陛下

(イ) 卓球は今年2回,蓮池の参集所に台を置いて陛下に教えて頂きました,テニスは,体力的にだんだんきつくなってきましたが,もう少し続けていきたいと思います。特に健康管理という程のことは何もしておりませんが,早朝に30分程御所の近くを歩きます。恵まれた環境でほぼ毎日土の道を歩いています。

(ロ) 陛下のお病気の時は本当に心配でございました。

先帝陛下の崩御以来,御大喪,御即位,大嘗祭と重いお行事が続き,その後お休みをおとりになる間もなく,多事な御日常が始まり,8年の年月が過ぎました。どこかにお疲れがたまっていらしたのかもしれません。ふり返りますと,私が御所に上がった昭和34年頃からしばらくは,日本在住の大使が56,7名,国賓も年一度か,年によっては全くないこともございました。今,大使館の数もその頃の2倍を超す124となり,国賓を始めとする外国からの賓客の訪日もふえ,陛下のお仕事も,それにつれ増え続けてまいりました。侍医もおりますし,まわりの人々もいろいろと心を遣い,この頃では長途のご旅行の後や,休日に祭祀や御公務でお休みになれなかったあと等,1日でも半日でもおくつろぎの時がとれるよう努力をしてくれています。