昭和40年歌会始お題「鳥」

御製(天皇陛下のお歌)
国のつとめはたさむとゆく道のした堀にここだも鴨は群れたり
皇后陛下御歌
吹上と赤坂の空を飛びかひしおほづるの姿いまも目にみゆ
皇太子殿下お歌
鳥一羽飛び立ち出づる冬林(あけ)にたなびく雲をはたてに
皇太子妃殿下お歌
この丘に草萌ゆるとき近みかも土のほぐれにきぎすいこへる
正仁親王殿下お歌
埋立のいまは進みてせばまれる干潟にあそぶはましぎの群
正仁親王妃華子殿下お歌
さわやかに山気(さんき)ながるるみちのくの老杉のもと夏鳥の啼く
雍仁親王妃勢津子殿下お歌
雉子(きじ)呼べばいづくともなく小雀も鳩もとび来て庭に餌をはむ
宣仁親王殿下お歌
春の日を玉と散して水浴びのしぶき高高と小鳥羽ばたく
宣仁親王妃喜久子殿下お歌
シベリヤのきびしき寒さのがれきて瓢湖(へうこ)にうかぶ白鳥のむれ
崇仁親王殿下お歌
餌を送るベルトコンベア廻転し数千のひなどりむらがりついばむ
崇仁親王妃百合子殿下お歌
旭岳をおり来るころと吾子(あこ)を待つ夏鶯の声を聞きつつ
召歌 武井大助
人あらぬ代々木の(もり)のあかときを鳥のこゑきく心つつしみ
召歌 久保田貫一郎
三年目に約を果してサイゴンの人に贈りぬ日本野鳥図鑑
選者 太田みつ
くろぐろとむらがる鴨に距離おきて白鳥二つ冬濠の水
選者 松村英一
かはがらす水かづくらし夕かげにあかるき(たに)の澤ふたぎの花
選者 五島美代子
身たけあまるほととぎすの子を(やしな)ふとあふむきてゐたり老鶯(おいうぐひす)
選者 木俣修二
巣につくとひとしきり(にほ)のこゑさやぐゆふべの(うみ)は雪となりつつ
選者 鹿児島寿蔵
六月(みなづきみ)の残雪ふかき温泉嶽(ゆぜんだけ)を越えがてにをれば駒鳥のこゑ

選歌(詠進者氏名五十音順)

北海道 愛洲松次郎
生徒らの餌を撒く声に丹頂ら今朝の吹雪を衝きて寄り来る
岐阜県 五島鹿之右衛門
東京に学ぶわが子の名を今も九官鳥はひたぶるに呼ぶ
中華民国台湾省 呉振蘭
魚群(なむら)追ふかもめの群が朝凪の海を変速しつつ飛びゆく
京都府 小林信子
盲生(まうせい)ら山の小鳥を聞きわけて名を言ひ競ひ登りゆくなり
福岡県 白橋悟
屋上の社旗降すとき海峡の夕さざ波にかもめむれ飛ぶ
三重県 杉本一
朝日さす谷間の杉につるしたる巣箱いづれもひなのこゑする
神奈川県 竹前昭子
第二海堡(かいはう)爆破する音とだえたるゆふべの浜に鳶ひくくまふ
東京都 西澤信春
やすみ日は仕事場に放つまひはの子ミシンよりミシンへ移りて(さへづ)
京都府 古川章
自衛艦に乗りてめぐれる日本海みづなぎ鳥の棲む島も見ゆ
東京都 宮下矩雄
御贖物(みあがもの)やらひまつりて大年(おほとし)の御門閉ぢをれば夕きぎす啼く
ブラジル国サンパウロ州 山本博
切株にのぼりて夕餉呼ぶ子等の頭上を鳥の啼き渡りゆく

佳作(詠進者氏名五十音順)

埼玉県 浅見二郎
今宵より点燈飼育はじめたる養鶏日誌を克明に書く
千葉県 石野重雄
伏せ込みて屋形にならぶる椎茸の榾木(ほだぎ)づたひにうそ啼き移る
神奈川県 上田正次
雪かぶり夜を迷ひ来し伝書鳩硬炉(かうろ)焚くわがそばを離れず
福岡県 菊原美代子
工場の瓦斯量検査に飼はれゐるカナリヤ今朝も(すが)しく啼き出づ
茨城県 黒柳雪子
開所式に放ちし鳩らにかけしねがひ原子力電燈はよもにてりそむ
静岡県 桑原房治
精薄の子らが描ける絵のなかに眉ある鳥の飛びゐるあはれ
栃木県 小松崎益看
狩猟期は昨日(きぞ)に終りて啼くきじの声も明るき那須の草原
北海道 今豊
昆布拾ふ磯にかもめは啼き群れて歯舞(はぼまひ)の島あはあはと見ゆ
富山県 作田貢
風つのる夕空あかし唐島(からしま)都麻麻(つまま)にむれて揺れ騒ぐ烏
新潟県 田辺信子
地割してかたむく家の軒先に燕のひなは日日育ちゆく
山口県 中野英男
耳栓をつけて働く機械()の屋根に雀は子を(はぐく)みぬ
埼玉県 中村恵一
小綬鶏(こじゆけい)の巣籠かなし鎌の縄巻きつつ尾根に刈場を移す
宮城県 新田正子
耕耘機の音のとだえし昼餉どき裏山にきぎす甲高く啼く
愛媛県 藤原弘男
釜山浦(ふざんぽ)ゆわが贈りたるかちがらすラベル古びて理科室にあり
愛媛県 松木美雄
海鳥は島の鳥居にならびゐて(ひうち)の灘の夜あけ静けし
山梨県 望月鯱郎
あたらしき庁舎のなりていちはやく燕は(ひぢ)を運びきたりぬ
埼玉県 山口彦三
明け暮れをビルマの民と親しみしメイミヨウの街に鳩多かりき
滋賀県 湯木静子
台風の過ぎしあしたをむれなして帰るつばめら(うみ)わたりゆく
兵庫県 芳邨昌江
岩窟(いはあな)の燕とびかふ温泉(いでゆ)より太平洋の波がしら見ゆ
山口県 渡邊恵美子
俘虜としてうからが果てしシベリアゆ鶴渡る日を母はひた待つ
岡山県 岡本真澄
(とし)木樵(ぎこ)る朝の林にみそさざい二つ啼くなり身に近く来て