昭和35年歌会始お題「光」

御製(天皇陛下のお歌)
さしのぼる朝日の光へだてなく世を照らさむぞ我がねがひなる
皇后陛下御歌
あたらしき力わきくる心地して朝日の光あふぎみるかな
皇太子殿下お歌
昼ふかき光降りしく楢林落葉の上は日のはだれなり
皇太子妃殿下お歌
光たらふ春を心に持ちてよりいのちふふめる土になじみ来
正仁親王殿下お歌
冬空のくものひまよりもるる陽にめぐりの雲のなべて光れる
貴子内親王殿下お歌
露台にてしばしながめつ高原の空に澄みたる星の光を
雍仁親王妃勢津子殿下お歌
やみの世のひかりなりけり幸うすき子のためつくす人のこころは
宣仁親王殿下お歌
たれこめし雲のひまより日のひかりひとすぢさしてけふも晴なり
宣仁親王妃喜久子殿下お歌
いささけき光なりとも幸薄き人の心にあたへまほしき
崇仁親王殿下お歌
原稿を今し書き終へて急ぎゆく家路に満てり月の光は
崇仁親王妃百合子殿下お歌
弧をかきてオーロラしろくひかりけりはてなくくらき北極のそら
召歌 石坂泰三
メンデンの氷河の前にただずみて太古の光まのあたり見る
召歌 入江俊郎
杉木立洩るる冬日は山葵田の(たぎ)ち湍ちに光をあぐる
選者 吉井勇
おのづから風も光りて見はるかす嵯峨の竹群そよぎやまずも
選者 土屋文明
生くる日の足る日の光ねがふ世にほろぼす光あらしむなゆめ
選者 太田みつ
発光体ほのぼの耀()りてゐたりけり生れしちごのにほふ産屋戸
選者 松村英一
あかあかと光さし来て谷陰の鴛鴦(をし)が鳴くなり今朝の朝明に
選者 五島美代子
ふふみもつ光たばりし天雲を溢れ出でなむあかとき近し
選者 木俣修二
(かへ)らむとする無尽数(むじんず)の鱒の子のいのちは光る寒の素水(さみづ)

選歌(詠進者氏名五十音順)

愛知県 足立晴美
点字よみしびれこし手をやすめつつかすかに残る光をみつむ
北海道 有賀正男
弟と吾と拓きし六町歩に秋の光の満ち渡りたる
群馬県 伊東滋夫
朝の日に光る機械に油差し吾は始業のベル鳴るを待つ
愛知県 岩月哲也
ひとすぢの光となりて流れくる小川に君と手を浸しをり
長崎県 岡村正男
朝光のさすころ妻がいきいきと帰りくるなり野菜を売りて
岡山県 岡本眞澄
辛夷(こぶし)みな花芽光りて立ちならぶ山をおり来ぬ灰を背負ひて
東京都 菊池寅雄
糸干すとのぼり来たれる干場より遠く光りて冬の河見ゆ
福岡県 吉良利男
廃坑となりてさみしき捲場跡朝の光に蝉鳴きはじむ
東京都 武田満里子
朝の日のかがよふ道にまろび居て樫の実小さき光を保つ
東京都 中島千鶴
門に待つわれに向ひてスクーターのライトやはらげ夫帰り来ぬ
東京都 野口友子
広島のあはれはとはに消えざらむ目をかすめたる光なりしに
兵庫県 野田かつ
東向きのわが店愉し豊かなる朝日の光うけて商ふ
岩手県 星貞男
六十五年大工ひとすぢに生きて来し父の鉋も鑿も光れる
三重県 松場子
白々と光れる潮を止めむとす長良の堤にあがるもろごゑ
奈良県 吉川安太郎
寄りなれし机のひかりさすりつつ永き勤めに別れきにけり