昭和34年歌会始お題「窓」

御製(天皇陛下のお歌)
春なれや楽しく遊ぶ雉子らのすがたを見つつ窓のへに立つ
皇后陛下御歌
皇子とともに部屋の窓よりながめけり夕日にはゆる白樺林
皇太子殿下お歌
冬日さす木斛の葉は白く()り風にゆらぎて窓にうつれり
正仁親王殿下お歌
外つ宮のゆふべの窓ゆ見さくれば伊豆大島にけむりあがれる
雍仁親王妃勢津子殿下お歌
すすむ世の声をもきかむわれと我がこころの窓をひろくひらきて
宣仁親王殿下お歌
おともなくつもりし夜べの白雪を朝けの窓に見つつおどろく
宣仁親王妃喜久子殿下お歌
たそがれのみそらの色の美しさ窓に見ながら北極をとぶ
崇仁親王殿下お歌
幾百年人に知られで来しといふインカ廃墟の石窓に倚る
崇仁親王妃百合子殿下お歌
月青く照らす霧氷の山々をしづかに見する窓ぞうれしき
召歌 日本芸術院会員 安田新三郎
家ぬちふかく窓より見ゆる枯山になごめるいろの冬となりにし
召歌 日本芸術院会員 佐藤春夫
もろ人の心ごころにたぬしけれ海に向く窓山に向く窓
選者 日本芸術院会員 吉井勇
わが窓を常にすがしく吹きゆきぬ比叡おろしも愛宕(あたご)おろしも
選者 土屋文明
寒くなる窓をふたぎぬ風のなか芽の立つ柳心にもちて
選者 太田みつ
待つことのありて明けたるこの年の初日とおもへ窓おしひらく
選者 松村英一
灰ふらす火の山みえてやうやくにわがむかふ窓明り来にけり
選者 五島美代子
民に向く窓晴ればれとひらかれてかがやく春の新宮作り
選者 木俣修二
新しきテーマ持ち寄りて勢ふこゑ研究所は窓に春日みちつつ

選歌(詠進者氏名五十音順)

千葉県 石井宏
そびえたつビルの窓々親しもよその一つには夫の事務とる
兵庫県 垣内和子
紙切を窓にはさみてかへりたり逢へずにゆくはかなしと書いて
埼玉県 小林克治
天窓に夕焼雲のひろごりて()きたる紙にいま茜さす
ブラジル国サンパウロ州 小松好五郎
帰るなき日本恋ほしくよる窓のアバカテ青葉夕かげりして
滋賀県 榊原百合子
わが窓の小さき張出しに干す梅が夫とゐる日曜を一日匂ふ
富山県 佐伯義平
教室の窓より子らは手をあげて癒えて帰りし我を呼ぶなり
兵庫県 内匠義男
わが生れしこの大き家親しけれ窓辺より見る古き柿の木
アメリカ合衆国カリフォルニア州 多田美代
思はずも歩みとどめぬ日本語の声ききとめし窓辺仰ぎて
千葉県 中澤鶴太郎
夕べ祈るミサの鐘鳴りはるかなる母子寮の窓赤くかがやく
青森県 中村正一
淡あはと夜霧漂ふ吾が窓辺青き光はいづこよりくる
北海道 錦織澄子
霜防ぐ野火焚かれ居り窓明けて炎に動く夫を見守る
熊本県 松本敞
縄なひの季節に入りてわが部落公民館の窓は夜々に明るし
長野県 宮城せつ子
草の種窓辺を光りとびゆきて工場のひるげ静かなりける
新潟県 宮田文朗
今日もまた吹雪のやまず窓閉めて昼を灯せり絣織る娘は
福島県 安田健治
二番方の午後を灯ともす窓見えてセメント工場いたく粉舞ふ